第二話:とばされる
目が覚めると、白い天井が見えていた。…ここはどこだろう?
体を起こそうとしたその時、聞き慣れた声を耳にする。
「魔王様、目を覚ましましたか!」
「鬼子くん!」魔王はガバッと体を起こした。
「よかった、記憶は確かですね。」
鬼子くんと呼ばれた女性は魔王の側近で、魔王の幼馴染でもある。彼女は心配そうに、一杯の水を魔王に手渡した。
「まずは水を飲んで落ち着いてください。」言われるがまま魔王はゆっくりと水を飲みながら、状況を整理する。
どうやら彼はずっとベッドで眠っていたようだ。いるのは壁で囲まれた白い部屋で、複数のベッドが並んでいる。隣にはチューブのようなものを繋がれたお爺さん一人が眠っていて、そのお爺さんと魔王と鬼子くん以外には誰もいなかった。彼のベッドのすぐそばの壁には窓がある。緑のカーテンの隙間からは、商店街のような街並みが見える。そこで、彼は違和感を覚えた。あれ?家も草木も人も、こんなに大きかったっけ?
彼の記憶では、そのどれもがずっと小さかった。それに、彼が魔王城以外の建物の中に入れたことなど、今回のこの部屋が初めてである。やっぱり変だ。人の建物の形や色など、彼の知っている人の家とは程遠いし、時々通り過ぎる人たちは皆ビシッとした黒い服を着ていそいそと歩いていく。見たことのない物ばかりが目に映る。まるで、違う世界に来てしまったかのようだ…。 えっ、まさか…!
「鬼子くん…」魔王が訝しげな目を鬼子に向ける。「ここは一体?」
「魔王様…」鬼子は目を逸らした。「ここは…異世界です。」
魔王、ショックで涙目になり、震え出す。「魔王様、全て説明いたしますから…」鬼子は話を始めた。
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「魔王様、『勇者になんかラクショーだ』って笑ってましたよね?」
「確か、そんな事も言った気がする…」
「『てかその前に勇者達はやられるだろうから、魔王城に辿り着けるわけない』って言ってましたよね?」
「もうやめて…」
「結局来ちゃいましたよね?」
「…うん。でも鬼子くん急に居なくなって、一緒に戦ってくれなかったよね?心細かったんだよ、一人で!どこ行ってたの!」
「実は私、思ったんです。私と魔王様の二人でも、あの勇者達には負けてしまうだろうと。だから隠れて魔力を貯めていました。」
「魔力を?」
「はい、異世界に転移するための魔力です。」
「異世界転移!?そんなことできたの、鬼子くん!?」
「できたんですよ、私。でも奥義的な…必殺技的な魔法なので、かなりの時間と労力がかかるんです。魔王様は倒れてはしまいましたが、幸い死んではいなかった。いや、死んでしまう前に間に合ったと言いますか…それで私たち二人で異世界へ来たのですよ。」
魔王は唖然としながらも、お礼を言った。
「ありがとう鬼子くん、私なんかを助けてくれて…」
「いいんですよ、魔王様。あなたはまだ若い。だから、死んでしまうには早すぎると思ったのです。」
「鬼子くん…!!」
「それに、この地域のご飯は美味しいと聞きましたから。いや〜、来れてよかったです。」
「軽っ!『旅行に来たよー』ってくらいに軽いよ!」
魔王、ふと思う。「そういえばここはどこなのだ?」
「ここはですねえ、地球という星の、日本という国の中の街です。ここは『病院』という施設で、魔王様は今、体を治療してもらっているのです。」
「へええ、チキュウ…ニホン…ビョウイン…?して、これから何をして生きていくのだ…?」
「私は働きに出ますけれど、魔王様はですね…えっと、今年いくつでしたっけ?」
「9歳だ。」
「では、小学校に通ってもらいます。」
「!?」