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第9話 ナンバーツー

 町の中心部から離れた場所で隠れるような酒場を見つけたサフィールたちは、両開きの扉を押して中へ入る。

 大都市インフィニートとは違って隠れ家のような酒場は薄暗く、天井の中央に筒状で複数連なった円形の青い魔導灯が仄かに光を放っていた。


 カウンター席はなく、丸いテーブルが三つほどある店内は、すでに二席埋まっている。相席なのか、無言で酒を煽る中年男二人と、別の席に座る体の線が分かる黒いドレスを着た女が一人。

 明らかに話しかけられる雰囲気ではない店内で、休憩も兼ねてサフィールは空いているテーブル席へ座る。

 ルベウスの尻尾があるため、女の席へ行くのは断念した。


「……まぁ、女一人は警戒心が強いからな」

「ああ、(われ)の尻尾は関係ない。それより、どうするんだ」

「そうよねぇ……。あの中年男二人も、話聞ける雰囲気じゃないし」


 ひとまず空腹を満たすことを優先して、注文を取りに来た店員へ店のお勧めを頼む。水の代わりに酒を頼もうとしたサフィールは、なぜかルベウスに止められた。


 数分して運ばれてきた料理と果実水を前にしてサフィールは横目でルベウスへ視線を投げる。


「……旅の基本は酒だろう」

「酒は勧められない。脳を弱らせ思考を鈍らせる。人間は脆い生き物だ。お前が強いように思えない」

「ぐっ……正論ばかり並べやがって――しかも、酒に弱いとか……当たってるのが腹立たしい」

「ぷくくっ……! サフィールって、意外と子供よねー! 素直というか」


 椅子に座れないネフリティスはサフィールの横で浮いたまま腹を抱えて笑っていた。無言で凄むサフィールに両手で口を押さえるネフリティスはおとなしくなる。


 街から出てついてきたが、まだ正式に仲間と認められていない。食事風景を見ているより情報を集めてくると言って飛び去っていくネフリティスを目だけで追い、香ばしい匂いが充満する料理へ向き直る。


 香辛料による食欲をそそる匂いを漂わせているのは、鶏の丸焼きだった。

 店員いわく、中に野菜や味の染み込んだご飯が入っていて看板料理だと教えられる。

 ひとまず、果実水を口に含んでからフォークとナイフで切った瞬間。肉汁があふれだして食器を満たす。すぐに一口運ぶと、サフィールは目を見開いた。


「これは……危険な味だ」

「そうか。人間は面白い。毒などないだろうが、貴様の場合もう少し気をつけるべきだ」

「あっ……そうだった。魔法が使えないのは不便だ……」


 サフィールと違い顔色を変えることなく食べ進めていくルベウスの味覚を疑いながら、二人はすぐに平らげてしまう。

 まったりしている二人の下に、壁をすり抜けたネフリティスが勢いのままサフィールをすり抜けた。


「わっぷ! ちょっと聞いてー! 天才美少女のわたしが、有益な情報を持ち帰ってきたわよ!」

「……五年も幽霊していたのか(うかが)わしいな。それで、情報っていうのは?」

「うぐっ……美少女の体をすり抜けられたんだから文句言わないでよ。それが! 隣町にグランツ・クルデーレが来てるらしいの!」

「――グランツ……? あの、無駄にキラキラしている死刑執行者(ラモール)のグランツか?」


 強く頭を上下に振るネフリティスを見て、サフィールは顎に手を当てる。

 その傍らで、グランツの名前を聞いた瞬間。ほんの一瞬だけ不穏な表情が垣間見えたルベウスに首を傾げた。


 店を出て歩きながらグランツが隣町に来ている情報をルベウスに共有する。

 何かを考えているように遠くを見据えるルベウスは、道端で立ち止まり重い口を開けた。


「少し、調べたいことがある。一時間後に合流する」

「えっ……調べたいことって。おい――」

「行っちゃったわねー。もしかして、グランツと知り合いとか?」

「その可能性はあるな……。俺がグランツの名前を出した一瞬、明らかに反応した」


 グランツ・クルデーレ。死刑執行者(ラモール)のナンバーツーであり、サフィールの同僚で唯一正体が明らかになっている妖精族だ。

 それ以前に、一般の魔導師へ正体を明かして人気を得ているグランツを、サフィールは苦手に感じている。町中で見かけるグランツはいつも笑顔でキラキラしていて、サフィールとも正反対だ。


 グランツのことも気になったが、ルベウスと別れたサフィールたちは魔導具店へ向かう。魔導具師見習いのフロイデにも言われた価格や売っている物の違いを物色する目的だ。


「町の規模からして大きくはないと思ったが……だいぶ小さいな」

「う、うん……。あれかな? 歩いていける距離に老舗の魔導具店があるから……」

「言えてるな。そうなると、看板商品が変わってきそうだ……」


 表通りの一角で、サフィールが手放した平屋と同じほどの魔導具店を前に、閉まった扉を開ける。

 外からも分かる薄暗さは、細長い筒状の形が特徴的でいて保守的な青い魔導灯によるものだと分かった。複数垂れさがっているが、店内を明るくする役割を担っていない。幽霊の出そうな雰囲気が漂っている店内に、ぴちゃっという水音が響く。


 幽霊なはずのネフリティスが体を震わせて後ろに身を隠した。


「おい……お前はそもそも俺にしか視えてないだろう。それに――」

「こ、ここわいんだから……仕方ないでしょう⁉ まだ成仏されたくないし!」


 魔導具店とはいえ、霊を成仏するような高級品は売られていない。ネフリティスが騒ぐ中、薄暗い店の奥からコツコツという靴音が響いてくる。


 サフィールにしか聞こえない悲鳴をあげるネフリティスを「騒ぐな」と一喝する前へ姿を現したのは、年端もいかない顔立ちでふわふわした金髪を二つに束ねた人形のように色白な美少女だった。

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