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第67話 天空都市エリュシオン

 ネフリティスが二人を探していた理由は、船長の許可が出て甲板に呼ばれたからだった。

 どこかワクワクした様子のネフリティスについていき、甲板へ出る。

 頭ではニルの話がチラついてネフリティスの呼びかけに気づかず、大声が鼓膜を震わせた。


「もう! こんな素敵なことは滅多にないって船長さんが言ってたんだからね!」

「……え?」


 地面から吹きかける風よりも冷たく、髪を乱すほどの突風の中、手で押さえながら横を見て肩を揺らす。

 魔導飛空艇と並行するように空を飛んでいる魔法生物の姿。思わず腰に手をつけると、細く角張った指が添えられる。


「彼らは敵じゃないよ、青玉(そうぎょく)(キミ)

「え……?」


 再び視線を向けると、並行して飛んでいるのを楽しんでいるように魔法生物の笑い声が聞こえてきた。


「キュル、キュルル」


 雨雲のような色をして、つぶらな黒い小さな目に少し伸びた口。表面はツルツルしていそうで、大人一人が乗れそうな体をしていた。

 海の生物のような背びれに、尾びれを動かして飛んでいる……と言うよりも泳いでいる。しかも、最初は一匹だったのが気づくと六匹に増えていた。


 数が増えたことで左右へ回って魔導飛空艇を囲むように泳ぎだす魔法生物は、一斉に「キュキュ」と鳴きだす。何かの合図のようで、少しだけ警戒を滲ませるサフィールの耳へグランツの声が聞こえてきた。


「とっておきを披露してくれるらしいよ?」

「……とっておき?」


 六匹が一斉に尾びれを動かすと一直線へ泳いでいき方向転換してぶつかる手前で回転する。その瞬間、魔法生物が泳いだ道から淡いピンク色へ変わっていき、青い空が混ざったように複数の色を見せた。

 どこか幻想的で、現実から離れたような感覚が襲う。


 この現象は固有魔法らしく、気分が良いと見せてくれるらしい。話は出来ないが、人間に友好的な魔法生物らしく、満足したのか離れていった。


「すごーい‼ 綺麗だったね!」

「あ、ああ……そうだな。悪くない……」

「フハッ!……青玉(そうぎょく)(キミ)は素直じゃないね? それとも、照れているのかな?」


 キラキラしたグランツへ、無言のまま腰の魔導銃を向けられたのは言うまでもない。


 物騒なやりとりが終わったあと、船長の声で再び前方へ向き直る。


 丸くくり抜かれたような地面がそのまま天空へ浮き上がったように形を維持した白い都市が広がっていた。

 拍子抜けるほど神秘的で、至る所に白い花が咲いている。上から見下ろした街の入口には大きな白い大きな門があった。

 まさに楽園とも言える天空都市エリュシオン。


 どうして浮いているのかは未だに分かっておらず、いつ落下しても良いよう一部の魔導院関係者しか住んでいない徹底ぶりだ。加えて気になったのは街全体を囲う巨大な壁。


 先に人間を降ろしてから停泊するとのことで、空中に浮かんだまま島へ寄せられる。


「足を踏み外さないよう気をつけてくれ」

「高度が高いと魔法の威力が半減するらしいよぉ」


 恐怖を煽るような笑顔のニルを睨みつけるが、いまのサフィールに魔法は使えないため論外だ。揺れることはない機体から地面へ足を降ろすと、妙な感覚に襲われる。

 魔力もろくに感じないサフィールは辺りを見渡した。


「こんなに高度もあって、呼吸は苦しくないのか?」

「ああ、それは防護結界魔法さ」


 島全体に妖精族の支援のもと防護結界魔法が張り巡らされていて、息苦しさはない。何かに包まれた感覚の正体が分かって、離れていく魔導飛空艇を見送った。上空からでも分かったが、空中都市は全体的に光沢のある白い壁に覆われている。

 それから門の周りにも咲いている奇妙な形をした白い花……。


「あの白い壁はなんだ?」

「ああ、あれかい? 稀に空飛ぶ魔物が侵入してきていたらしくて、十数年前に作られたのさ」


 事前に資料は目を通していたが、隠し事の多い魔導院だけあってエリュシオンの情報は少ない。防護結界魔法も島全域より天井部だけの方が長持ちする。


「それなら、あの奇妙な形をした白い花は?」

「ああ、あれは【天空花】と言うらしい。なんの価値もないけれど、この街が空へ浮かび上がったときから咲き始めたようだよ」


 レースのような模様をした白い花弁を持つ花。密かに結婚式で女が被るベールや、死者を弔うときに隠す顔の装飾品と呼ばれているらしい。

 その理由の一つは、なぜか花を引き抜こうとしても微動だにせず、花弁も取れないという。だから、なんの価値もない扱いをされていた。不思議な花へ魅了されながら門をくぐる。


 すべて知り合いの有翼人から聞いた話だけどと笑うグランツは、本来の目的を忘れているような顔で楽しそうにみえた。


 あの男、ラルカの指定した決行日から残り一日――。


 白い門をくぐってすぐ見えるのは、巨大な柱時計と宮廷のような施設。魔導院の支部らしく、入口から大分離れているにも関わらず大きさや奇妙な形が主張していた。

 楕円形の先が尖った不思議な白い屋根。上空からでも分かっていたが、港町のように屋根が白いどころではなく街全体が白一色だった。


 不気味にすら感じる景色をネフリティスだけは感動して飛び回っている。


「僕は何度か足を運んでいるけど、君たちは初めてだよね?」

「ああ、俺は当然初めてだし……ネフリティスも楽しそうにしているな」

「あー……実はオレ。二度目なんだよねぇ。魔導隊って騙しやすいなぁって」

「貴様……余罪が沢山ありそうだね?」


 最近は落ち着いていた火花が再び燃え上がる様子に、二人分のため息が漏れた。


 変身魔法は姿形を変えるだけで、魔力認証が浸透していて簡単に騙したりは出来ないのだが……この男はそれをやってのけてしまう。

 

 以前、詳細を聞いてみたら、魔力は誤魔化せないから魔力認証を誤作動させるなど高度なことを言っていた。

 ニルが此処を訪れたとき、白の魔女の誕生した瞬間だろう……。飄々としたこの男は、多くのことを語っていない。


 グランツは到着したことを報告するために宮殿へ行くらしく、一度別れて現地調査を兼ねて観光することになった。


 暫くして足を止めたサフィールは後ろを歩くニルへ振り返る。


「お前は白の魔女の誕生に立ち会ったって言ったよな……」

「あー……言ったねェ」

「えっ? それいつの話⁉」

「詳細を聞かせろ……」

「怖いなァ……オレに敵意はないんだぜ? ただ、必要以上の話をしないだけだ」


 どこまでも余裕で滅多に崩れない顔の男は、不敵な笑みを浮かべていた。

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