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第65話 魔導飛空艇

 数日後の深夜。待ちわびていた青と白の巨体が港町ドリブンへ降り立った。


 魔導船の二倍。純白の色は魔法貝から作られ、装甲は魔法鉱物や金属、魔物の皮などで出来ている。船についている無数の透明な羽根のような物は、ある魔物の一部だ。伝説級(リアマ)の次に珍しく厄介者と呼ばれている。

 空を自在に飛び回るという魔物で“七色飛魚”。その空色に輝く羽根は肉体を離れても動き続けるという奇怪な部位で、素材に使われる。その見た目は魔力生命樹(マギア・リラフト)の次に美しいといわれていた。光の当たり具合によって七色に輝いて見える。この羽根によって魔石の魔力使用を抑えているらしい。そのため緊急事態で加速する時は羽根を内側に畳んでしまえる仕様だ。


 魔導船の威圧感とは違い、美しい姿をした魔導飛空艇にグランツとニル以外は魅了される。

 グランツは何度か乗った経験があり、ニルは綺麗なモノに興味がない。本人曰く、自分のような()()が目で焼き付けたら穢れるから……だと言う。道を踏み外して戻れないところまで行ってしまった犯罪者は多い。だけど、千年以上生きて、ずっと後悔を抱えて生きているのは、この男くらいだろう。


「本当に美しいですね……」

「ああ、そうだね? まぁ、フロワ嬢……君の方が綺麗だよ?」


 グランツの声に耳を貸しているのか分からない圧のある無言で、無表情なフロワの感情は読めなかった。


 整備するのにあと数時間かかるらしく、その間最後にペルルが住んでいた家の跡地へ行きたいとネフリティスの提案でぞろぞろと町の外れに向かう。


 ペルルの家があったとされる場所にきてすぐだった。新しい家屋もなく、更地になっている場所へ複数の男女がいる。


「……本当に迷惑な女だったのに」

「あの女がしたことを知らないからよ。大魔導師は地に落ちた」


 明らかなペルル・プリエールについて非難の声。彼女に憧れて努力してきたネフリティスは困惑した表情で口を押さえている。


「そこのあんたたちに聞きたいんだが、ペルル・プリエールの関係者か?」


 見かねたサフィールが自主的に男女へ声をかけた。


 茶色の髪と同じ髭を生やした男は、ペルルの親族だと話す。サフィールたちが魔法書の町で拾ったギーア・ルジストルの手記で読んだ研究について知っていて、彼女のせいで一族は断絶していた。そして五百年の間、苦しんできた、記録にないことを感情むき出しで――。


 大魔導師と呼ばれて最期を迎えたのは表だけ。一部の裏側では、おとぎ話に出てくる天使が堕ちた意味の堕天使と呼ばれていたらしい……。


「……魔女は恐怖の存在だからか」

「うそ……わたしの憧れてたペルルは、白の魔女なんかじゃないんだから‼」

「――ネフリティス」


 涙を浮かべながら飛び去るネフリティスの名前を呼ぶが、追いかけることは叶わなかった。

 あの手記を読んでから頭の中では思っていたこと。まさかと言う気持ちは全員の中であったが、サフィールやグランツも知らない当時、魔導院の上層部はそう判断していた。混乱を招くため、秘密裏に証拠を消したということになる。

 魔女について頑なに調べようとしなかった理由の一端が垣間見えた。


「じゃあ、俺が殺されなかった理由も……」

「ペルルが白の魔女なら、あり得なくはねぇな……」


 ペルルはなんらかの方法で自分のあとに魔女が生まれないよう細工したことになる。

 その過程で何かあってネフリティスは自死し、魔女でも幽霊とも言えない存在になって生かされた。肉体は消滅しているため、生かされたという表現もた正しくはない……。


 時間はまだあるとのことで、グランツたちは先に魔導飛空艇を見てくると別れ、町の中ネフリティスを探す。

 サフィールしか見えないのが難点だったが、すぐに見つかった。


 町の中心部にあるペルルの像を見つめる姿が少しだけ痛々しい。


「……白の魔女が生まれてから魔導師の死亡率は、大幅に下がった。そのあと、魔女が生まれなかったこと……大都市ばかり狙ったことが大きい」

「…………それ、わたしのこと励ましてるの?」

「さぁな。俺も明らかな被害者だ」


 暫く沈黙したあと、涙を拭うネフリティスは笑う。自分の憧れていた大魔導師ペルル・プリエールが厄災の魔女という事実は受け入れ難い。だけど、魂のない器となった魔女で異質と呼ばれる理由が明白になった。


「……そうすると、言葉を話せる理由。魔女の痕跡の真意はなんだ?」

「あー、伊達に千年以上生きてないからオレ、分かっちゃったかも?」

「え?」


 魔導飛空艇に乗りながら話すというニルの顔は今までで一番真剣な表情をしていた。


 そのあと、時間が来て合流したサフィールたちは伸ばされた木の板から魔導飛空艇に搭乗する。

 甲板は見せてもらえず、すぐ内部へ案内された。広い通路にいくつもの扉があり、客室と整備室など。禁止区域は厳重になっていて、全盛期のサフィールくらいじゃないと破れない魔法構築されているらしい。内装の壁も白く、キラキラ輝いている。華やかな装飾はないが、壁だけで美しく感じられた。


 案内された部屋は大部屋で、ベッドが四つある。必要最低限の家具は統一されて白い。そして、魔導船でも見た――あの絵画が飾られている。


「船長……この絵画は誰が描いたんだ? 魔導船にもあったぞ」

「ああ。確か……預言者? いや、胡散臭い少年で……自分を――“生命視(ほしみ)”。なんて言ってたって聞いたなぁ」


 とても懐かしい聞き覚えのある単語に、サフィールは隣へ立つ男を血走るような大きく見開かれた双眸で凝視した。

 涼しい顔をしたニルは自分の唇へ人差し指を伸ばす。


 生命視(ほしみ)について、サフィール以外の面々は知らないようで船長の話を疑問も抱かず聞いていた。


「ほう……胡散臭そうな職業を名乗る()は、絵描きの才能もあったのか」

「そうみたいだねぇ……天は二物を与えるのかなァ」


 思わず皮肉を口走るサフィールに、顔色変えない食えない男は目の笑っていない笑顔を向ける。

 船長が立ち去ったあと、サフィールとの間に出来た重い空気を別なものへすり替えるようにニルが口を開いた。

 もちろん、この部屋以外の誰かに聞かれないよう遮断魔法を施して。


「実は、ペルルについて新情報を共有しておこうと思ってさぁ」

「ペルル・プリエールが白の魔女……ということ以外にですか?」


 これ以上の新情報など考えていなかったグランツも目を見張る。

 注目を一身に浴びる中、ゆっくりとした足取りで近くの椅子へ移動する際、サフィールの横を通り過ぎるニルは「絵画の話は後で……」と言う不穏で(なま)めかしくも低い声を耳に残して座った。

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