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第62話 親子愛

 落ち着きを取り戻した両親が振る舞ってくれた夕食を済ませてから、椅子に座って向かい合う。

 死刑執行者(ラモール)のことは言えないが、薄々勘付いているだろう両親は何も聞いてこない。

 約七年ぶりの再会で、言いたいことは沢山あったが、そこまでお喋りじゃないサフィールに両親はあるものを見せてくる。


「えっ……これ」

「ええ、貴方が私たちに渡した絶縁状……。大事にしまっていたの」

「これは法的に処置してもらっていない。魔導院に持っていってないんだ」


 サフィールにとって衝撃的な事実だった。


 夢なのか、幻覚かは分からない意識の中で聞いた両親の声。あれは、このことを言っていたのだと確信する。

 両手を伸ばしてくる両親に何も返せず沈黙するサフィールの横からネフリティスが喝を入れた。


「ここ! いま良いところだからね!? ギュッと握りあって、ごめんねって言うところよ!」


 なぜか偉そうに指示してくる姿は、両親へ会うことを勧めてくれたときと同じく背中を押してくれる。

 思わず鼻で笑いそうになって真顔を作ると、両親の手を取った。


「ごめん……心配かけて。有難う……」


 握られた手をギュッと重ね合わせる両親の目からは大粒の涙が溢れている。

 当然もらい泣きしているネフリティスは置いておいて、外に出ていると言って三人だけになると、話せる範囲で家を出てからの報告をした。

 サフィールたちは移動して三人掛けのソファーに座って続きの話をする。


 ただ、一つだけどうしても聞きたいことがあったことを打ち明けた。

 当然、顔が曇る両親は肩をすくませる。


「……上流貴族に逆らった友人が、次の日家族もろとも忽然(こつぜん)と町から消えていたんだ」


 暗くなる父親の話は、加害者の上流貴族が下流貴族に落とされた処罰の軽さを感じる内容で、頭が真っ白になった。


 両親は一族の名や、自分たちの命よりもサフィールを守りたかったことが痛いほど伝わってくる。

 怒りで震える左手を優しく包んでくれる両親は、片手を背中へ回してきてポンポンと撫でてきた。


 何も知らずに怒りを覚えた子供心も、自分たちのせいだと言う。賢かったサフィールの心に任せてしまったと。


「……過去は変えられない。二人に言えないほどの罪を犯しているんだ。もうあの頃には戻れないけど……いまの自分は嫌いじゃない」


 複雑な表情をする両親は、エルピスと文通をしていたことを明かしてくれた。


「あの、お節介が……」


 思わず呟いた言葉に両親の硬かった表情から笑みが浮かぶ。

 そして、再び真剣な表情をしながら手を重ねられた。


 真っ直ぐな視線が重なり合う。

 

「――例えそれが罪だとしても、私達はあなたの仕事を誇りに思うわ。優しい貴方が人を裁くことを罪だと感じて苦しんでいるのなら、一緒に背負わせてほしいの」

「ああ、私達の方が先に亡くなるだろうが、それまでの間だけでも」


 父親までそんなことを口にして、幸せな空気がサフィールを悩ませた。


「……もしも、俺が優しいっていうのなら、それは父さんや母さんから受け継いだからだよ……」


 柔らかな笑みを浮かべるサフィールに、両親はあふれる涙を拭う。


 

 聞きたいだろうことを飲み込んで、待っていた仲間と合流したサフィールを笑顔で見送る両親は、最後まで後悔を口にした。


「本当に、私達のせいで、すまない……」

「貴方の怒りと悲しみに寄り添えなくてごめんなさい」


 ゆっくり首を横に振るサフィールは別れの挨拶で手を上げる。ニルに「息子をお願いします」と頭を下げる両親へ大人の対応をする様子を不服そうに眺めるサフィールは、町を出ていくまで手を振る姿を見つめた。


 これから白の魔女を討伐しにいくこと。危険なことについては何も話さず別れた両親だったが、なんとなく察しているだろう。


 町も遠くなってきた道すがら、未だ心の温もりを感じるサフィールは、頭を切り替えて寝ていたときの話を口にした。


 歩きながら驚いた顔をする四人は各々(おのおの)異なる反応をみせる。


「……まさか、魔女症候群の正体が少女の願望(想い)に左右されてるなんてね?」

「まぁ、まだ分からないけどな。人より魔力量が多くて、強さに憧れる……不安定な魔導師の卵って感じか」


 以前から言われていた魔導師の素質は、総合として女のが上だ。だが、魔法界で女の地位は低く、魔導師も男社会。背景には色んな問題もありそうだと感じる。


 一番厄介なのは、背後の黒幕だ。魔女症候群を生み出した元凶は、きっと人間の敵魔法界そのものかもしれない。


 謎の男が宣言した決行日まで二週間は切った。だが、魔導飛空艇のある港町まで数日で着く。そこから何日待って目的地の天空都市エリュシオンにたどり着けるからだった。


「なんとなく察しはついてる謎の男にぃ……黒幕がもしかしたらって、怖ぇなァ」

「えっ……? ニルは分かってるの!? わたし、まったく検討ついてないんだけど!」


 ニルの呟きは風に掻き消され、ネフリティスだけが拾って驚く中、少しだけ早まる足並みで整備された道を歩いていく。

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