閑話 愛され魔女の作り方
氷で破壊された三大都市プローディギウムから離れた人気のない施設。
中は薄暗く、刺繍の入った白い布で飾られた横長のテーブルの置かれた部屋があった。
周りには魔石や魔法の糸、周りだけ黄金で輝く透明な素材が無造作に置かれている。
窓もない息が詰まりそうな小さな部屋。天井だけは高く、壁の周りから複数の視線が感じられる。
壁周りには台が置かれていて、その上に可愛らしい人形があった。
どれも同じ顔をしていて、色白で何かに似ている……。
そこに一つだけ、他と比べ物にならないほど洗練された白い艶のある髪に白い目をした人形が置かれていた。
造形の美しい人形。
ただ、人形を形成しているのは魔力生命樹という、妖精族から魔法界の母と呼ばれる存在から採れる素材だった。
暫くすると陽気な鼻歌が聞こえてくる。
横長のテーブルで作業をしていた優男。ゴーグルのような特徴的な眼鏡に、くすんだ緑色をしたローブ姿。口元は黒い布で隠している。
「ハァー……今日は最高の日……の、次に最高になるよ……」
横長テーブルの上。優男の前に置かれているのは、四角い形をした魔導具だった。
中心に丸い魔法硝子が嵌められた――魔導院の制限が掛けられている魔導具『立体映像』である。
それに何本かの魔法糸で外へ繋がれていた。
優男は大事そうに白髪の人形を取ると、魔導具を操作する。
今日は優男の五本の指に入る大事な日でもあった――。
白の魔女と出遭ったのは、まだ五歳と幼かったとき……。幼少期から女の子が好きな人形で遊ぶのが好きだった優男は同世代の男の子から、からかわれていた。
両親が身代わり人形を作る仕事をしていたため、影響を受けていただけなのに……。
そんなとき、颯爽と白の魔女がやってきて一瞬で町を破壊した。命とは呆気ないもので、優男を残して両親共に町の人間は亡くなってしまう。普通なら、白の魔女を恨んだり、恐怖する場面なはずなのに――強大な魔力を前にして、憧れという名の“畏怖”を抱いた。
「あー、あー。見えてるー? 魔導院の通信を乗っ取るとか最高にキマってるよね? ……えーと、これから『愛され魔女の作り方』について説明していきまーす」
映像に魔法文字で『愛され魔女の作り方』という題名を書き込んだ優男は歪んだ笑顔を向けた。
ズイッと目の前に置いたのは先ほどの白髪人形。何かに似ていると思っていたら、優男は口を押さえながら自分について語り始めた。
「ぼくは、しがない魔導具師なんだけどね。主に身代わり人形を作っているんだ……それで、この子は『白の魔女』様。あ、分かった人は分かった? ぐふふ……自信作なんだ」
誰が聞いているのか、本当に映像は流れているのか不明なまま、優男は魔女について熱弁する。
魔女は魂のない器でしかない。一般常識から始まり、魂が入っていない状態は未完成だと話す。
ただ、魂がないから感情に縛られることなく凄まじい魔法力で厄災と呼ばれているのも事実だと。
だけど、代わりに美しい造形は恐怖の対象でしかなく、嫌われ者。自分も白の魔女様に執心したのは、家を焼かれてから約三十年……。
そこで自分の執心する魔女様を世の中で好きになってもらう方法を考えて、両親がしていたことで秘伝を教わって身代わり人形を仕事として作り始めて数年。自力で編み出した魔導具があると笑う。
「それが、この白の魔女様に似た人形……。いまでは禁忌と呼ばれる魔法を知る人間も少ないだろう? 簡単に言うと……この人形は、魂を封じ込めることが出来るんだ」
封印の魔法ですら、使える者は少なく規制もかけられていた。まして人間の魂を勝手に封じるなど言語道断である。
優男は否定的な言葉が聞こえるはずもない部屋で、うっとりした表情を浮かべた。
「白の魔女様に、人間の魂を入れることで愛され魔女様が誕生するって確信してる。でも、あの魔女様に普通の魂が受け入れられるわけはない……」
そこで、と優男が見せてきたのは落書きにしか見えない男の絵。焦げ茶色の髪がはねたローブ姿からして、魔導師だろう。
運命の出会いだったと熱く語る優男は「彼こそ、白の魔女様に相応しい魂の持ち主」と破顔した。
そして、魂を肉体から人形へ移し、最後に白の魔女へ入れ替える方法を熱弁する。
「多分きっとかれも強大な魔力を有している……。だけど、この人形には様々な呪いを施しているんだ。内容はさすがに秘密かなー……かれは魔導院に所属しているからね」
笑いを堪える姿は不気味さしかない。
終始嬉しそうに話す優男は、最後に決行日を告げる。
「魔導院の諸君。ぼくが言いたいことは分かるかな? 通信を乗っ取れる男のやることだ。見て見ぬふりはしないようにね……。最後に、白の魔女様へ献上する魂のきみへ。最後の日はすぐそこだから、観光楽しんで? それじゃあ、次に会えるのを楽しみにしているよ――」
すべての通信を切ったあと、光を放っていた魔法硝子も色を失ったように黒くなった。
元々薄暗かった部屋は、さらに暗くなる。狭い部屋とはいえ、高い天井に小ぶりな魔導灯一つでは当然だった。しかし、優男は気にすることなく白髪の人形を元の場所へ戻す。
それから唐突に床へ寝転がった。高い天井を眺めると、巨大な人の顔に見える壁画がある。
「ハァァ……白の魔女様。早く、あなたを愛され魔女様にして差し上げたい……。ぼくの偉大な功績が成功するのを願っていてください」
人の顔に見えた壁画は、厄災の魔女である『白の魔女』だった――。
初めましての方も、他作品から追いかけてくれてる方もお読み頂き有り難うございます。これにて第3章完結です。
次から最終章へ突入します。それに伴い、作者の都合で毎日連載から【週1】連載とさせて頂きます。ストックの問題と、より素敵だと感じて頂ける作品で最後を迎えたい+新作予定(別サイト)のためです。
因みに9月末までには完結させたいと思っているので、毎日連載に変わる時はお知らせします。
週1連載は【月曜日】21時〜時間帯は同じになります。たまに忘れてしまい申し訳ないです。
今後も楽しんで頂けるよう精魂込めて更新していくので、引き続き応援宜しくお願いします。




