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第48話 地下水脈

 『本日急用にて閉店』の看板へ変えられ、小人族の女性に案内された地下室は奥の隠し扉から長い階段を下りた先にある。

 地下室だけあって暗く、肌寒さはあるがカビ臭さなどはない。魔導灯で明るくなると在庫が置かれているのかと思っていた場所は、魔導銃や魔導具を使うための部屋で、家具などもなかった。こぢんまりした地下室から、また扉があって、地下通路へ通じているという。


「この先は川に続いているんじゃない海の地下水脈だからねぇ? 皆さん、準備はいいかしらぁ?」

「いつでも大丈夫だ」

「ああ、オレも無問題だよぉ」

「わ、わたしも! サフィールにしか聞こえてないけどっ」

「それじゃあ、行きますよぉ。ワタシも、ここに来るのは十数年前だからねぇ?」


 不安要素に眉を寄せるサフィールは腰の魔導銃を確認した。

 ただ、左手には白金の魔導銃が握られている。試練は新しい魔導銃を上手く扱えるか、認められるかだ。


 小人族の女性に案内されるまま地下通路へ出ると、すぐ隣を小川のような水が流れている。

 長い通路の先は海へ続いていると教えられた。だが、試練の場所は暗くて潮の香がする此処、地下水脈だという。


「この水量じゃ中には入れないぞ?」

「あらあら? もしかして、海の中で魔物を魔導銃で討伐しろ……とでも言われると思っていたのかしらぁ? そんな危ない真似をお客さんにさせられないわよぉ?」


 水陸両用に加えて範囲魔法を使える専用の魔導銃で、試練と言われたら水中だったため、面食らうサフィールをニルが笑った。


「キミ……血気盛んって言われない? まさか、思っていたよりも熱い男だったとはねぇ」

「……笑うな。普通、そう思うだろう……」

「ぷくくっ……。わたしも思ったけど、サフィールって本当に意外と血の気多いわよね!」


 笑うネフリティスを凄むサフィールにすぐさま『ごめんなさい姿勢』を取る素早さは、誰にも負けないくらい洗練されている。

 呆れたサフィールは不思議そうな顔をしている小人族の女性へ向き直った。


「あらあら? もしかして、そこにどなたかいらっしゃるのかしらぁ?」

「あ、いや……いるようで、いない……違うな。他の奴には視えない残念な自称・天才美少女魔導師がいるんだ」

「えっ……! サフィール……でも、自称はいらないから‼」

「あらあら? そうなのねぇ? そんな可愛らしいお嬢さんが見られないのは残念だわぁ。それじゃあ、危ないからお兄さん以外は少し離れましょうねぇ」


 隠す必要性を感じなかったことで、初めて無関係な人間にネフリティスのことを話したサフィールは、信用されないと思っていたため驚いて言葉を失う。

 相手が人間じゃないからかもしれない。ただ、サフィールから紹介されたネフリティスは大喜びで上空を飛び回っていた。


 小人族の女性に言われるまま流水へ近づくサフィールは、下を見てようやく気づく。

 すでに何かが泳いでいることに……。ただ、水面から見える影に面食らった顔をする。


「おい……これは、魔物じゃないよな?」

「あらあら? 分かっちゃったしらぁ? そうなの。ここは、一番浅い部分だからぁ……巨大で凶暴な魔物は入ってこられないのよぉ」

「ククッ……まんまと騙されたなぁ? サフィール」


 笑うニルを睨みつけてから、複数の小さな影しかない水中へ向き直った。

 そこで小人族の女性は自前の魔導銃を使ってみてと言ってくる。一度白金の魔導銃を預けて、相棒を取り出して小さな(まと)へ当ててみせた。

 水中ではないことで魔弾は普通に(まと)へ向かって着水する。すぐに当たったようで一面が氷漬けになった。


 ただ、水中戦で感じたように弾速が遅くなったのか、通常なら気づいたときには魔法が放出されているのに、それがない。


「どうかしらぁ? アナタの魔導銃なら、辛うじて目で追える速さ。気づいたら着弾して魔法が解放されてる……なのに、いま試してみて時間を感じた」

「えっ……ああ……そうだな。正直、まだか? って思った」

「それが普通なのねぇ? その状態から、ハイ。こっちを試してみてぇ?」


 再び渡される白金の魔導銃を手にして、別の場所で水面に向けて放つ。

 すると水面へ触れた直後、反対に弾速が速くなったかのように爆発した。


「ちょ、ちょっとぉぉお⁉ 火の魔法は怖いから‼」

「あらあら? ごめんなさいねぇ。練習用に入れたのは、同じ氷だったはずなんだけどぉ」

「……凄い速さだ。それに、水中からじゃないから分からないが、弾速が上がったように感じた」

「そうなのよぉ。アナタの求めた水陸両用だけど、これはどちらか言うなら水中特化型。でも、その子が異常に速いだけで、普通の子に比べたらうちの子は速いのよぉ」


 まるで子供のように話す姿は、魔導具店の店主あるあるだろう。いままで出会った魔導具店員や店主は、我が子のように説明してくれた。

 速さもだが、相棒とは持ち手部分が少しだけ細いのに持ちやすい。


 そのあともしばらく撃つ練習をしていたが、違いは明白だった。最初よりも手へ馴染む感覚から、夢中で魔弾を消費していたことに気づいて背後へ振り返る。ニコニコした小人族の女性は、水色をした魔弾を差し出してきた。

 水中用の魔弾は水色で通常よりも縦に長い。先ほどまで撃っていたのは、通常の魔弾だった。魔導銃自体は水陸両用なだけあって、どちらの魔弾も入る構造らしい。


「それは水中専用の魔弾よぉ? 普段遣いされないから少しだけ値段は張るんだけどぉ……全然違うから試してみてぇ?」


 楽しそうに説明する小人族の女性から受け取った水中用の魔弾を魔導銃へ触れさせる。スゥッと吸い込まれていく姿は、魔導銃を使いこなせるようになった現在(いま)でも慣れない光景だった。

 再び水中に向かって魔導銃を構えて撃ち込むと、空中では大分遅く感じたあと、水面に触れてすぐ一面凍りつく。


「えっ……水面に触れたと思ったら、もう着弾してるのか……?」

「うふふ。面白いわよねぇ? 水中用の魔導銃は全部同じなんだけどぉ……。空中で放つと全然進まないのよねぇ」


 小人族の女性曰く、水中の抵抗を無くす付与魔法や長さが空中だと反発し合って動きが遅くなるらしい。

 水中用の魔弾は貴重なため、試し撃ちは一発だけでサフィールは無事に小人族の女性だけでなく、白金の魔導銃にも認められた。


 魔導具店に戻って必要な物を買い揃えるサフィールは、低い棚で面白い魔導具を見つけて笑みを含めすべて購入して店を出る。ニルも続いて外へ足を向けたときだった。


「――アナタ、沢山の子供を不幸にしたのねぇ? だけど、そろそろ自分を許してあげても良いんじゃないかしらぁ? ワタシに視える、アナタを縛る複数の()は『許さないけど、認めてやる』って言っているわよ」


 ピタリと足が止まる。


 振り返ることなく、薄ら笑いを浮かべるニルは短く深呼吸した。


「――妖精族は侮れないな。『許さないけど、認めてやる』か……それは嬉しい言葉だ。だけど、まだ足りないんだよ……ボク(・・)は、彼らに認められるほど多くの命を救えていないからね?」

「あらあら? 強情……というよりは、後悔がアナタを縛っているのねぇ? それほど、素敵な出会いをしたのなら、お節介おばさんは辞めるわぁ。いまも、とても満ち足りているみたい」

「ああ、でも感謝するよ。彼らは、ネフリティスちゃんのようにオレ(・・)以外、視えていなかったからね……」


 以前からずっと無数の白い光がニルを覆い尽くしていることに、サフィールたちはいまも気づいていない。


 パタンと閉まる扉を背に、合流地点を目指して歩き出した。

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