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第47話 白金の魔導銃

 インフィニートの老舗よりも、港町ルイーバの大きな店舗以上に面積が広い魔導具店を見て、サフィールとネフリティスは圧倒される。

 店は柱以外すべて窓ガラスで、一部の目玉商品を表通りから見える専用棚にいくつも飾って主張していた。


「……こんなに中が見えて良いものなのか?」

「うーん……本来なら、しないだろうけど。この窓ガラス……全部魔法硝子で出来てる。つまり、いくつもの付与魔法が張り巡らされてるねぇ」

「お、お金持ち! わたしでも、知ってるわよ。素材の魔法硝子は安くても、付与魔法は専門の魔導師がしてるから人件費に莫大な利益よね……」

「付与魔法は繊細だからねぇ……魔石同様、純度みたいなものが関わってくる。下手なヤツが付与した魔法は粗があって分かりやすいんだ」


 よく見るとすべての窓ガラスの左下に同じ印がある。すぐに、どこかの紋章だと分かった。


「これは優れた付与魔導師を抱える有名店の紋章だねぇ」

「ニルは付与魔法の専門家じゃないけど、俺の魔弾に中級魔法も付与してくれるよな」

「ああ、そうだねぇ? オレから言ったことだし。それも、無駄に長生きしてるからかなぁ……」


 扉に取り付けられた呼び鈴を鳴らして中へ入ると、中央にはお馴染みの高い棚がそびえ立っている。それから、左右で徐々に階段のような中くらいの棚から低い棚が並んでいた。高い棚には需要のある魔力水や自己治癒促進(サナトゥーア)の入った小瓶が並んでいる。中くらいの棚は、攻撃用の魔導具や季節によって需要のあるもの。小さな棚は、魔導銃の魔弾や需要の低いものがあった。


 複数の棚が並んでいる割に中は広く感じ、天井には透明な板状で出来た無数の魔導灯が円を描くように吊るされ、淡い黄色の光が店内を明るく照らしている。


「……いままで入った魔導店の中で一番広くて、種類が豊富だな……」

「そうかもねぇ……確か、此処の店主は」

「あらあら? お客さんかしらぁ? 最近は、近くで厄災が起きたおかげで物騒だから、新規の方は減っちゃったのよねぇ? だから、嬉しいわぁ」

「えっ……声だけ聞こえて姿が見えない……?」


 優しげな初老の女性の声が耳へ届くも、姿は捉えられず。

 急にローブの裾を引っ張られ、視線を靴の高さへ向けて目を見開いた。


 内側に跳ねた淡い灰色の髪、人間よりも一回り大きな鼻、灰色のつぶらな瞳をして、若草色のエプロン姿をした初老の女性がいる。ただ、明らかに人間の子供より小さい。幼児と言っても過言じゃないほどの背丈だった。


 ニルだけは分かっていたようで、呆気に取られる二人は店主の笑い声でハッとする。


「あらあら? ごめんなさいねぇ? ワタシは妖精族の小人族なのよぉ。小人族は手先が器用でねぇ……力持ちでもあるから、いまは結構人里でも見かけると思うわぁ」

「そ、そうなのか……。俺が見たことのある妖精族は、エルフと竜人……くらいだったから驚いた」

「す、凄い! 可愛ぃぃい‼ それでいて力持ちで器用とか凄すぎる!」


 ローブの裾を摘んでいた手が離れると、小人族の女性は専用の台へ上った。まだ背は低いが、辛くない姿勢で目を合わせることができる。

 

「えっと……魔導銃を見せてもらいたい。出来たら水陸両用で、範囲魔法を専用にしているやつはないか?」

「あらあら? それはとても素敵な魔導銃ね? うーん、難しい注文だけど……確か一つだけそんな豪華な物があったはず?」


 水陸両用だけでも困る内容なのに、地上では範囲魔法専用にしたいサフィールの注文で小人族の女性は台から飛び降りた。

 そのまま奥の方へ消えていく。


 取り残されたサフィールたちは、小人族の女性が戻るまで他の魔導銃を見たり、籠に入った魔弾の種類や値段、他の棚も見て回った。


「三大都市プローディギウムで店を構えている割に安いな……」

「ああ、きっとそこは人間と妖精族の価値観の違いじゃないかなぁ。ほら、人間は欲深いから?」

「なるほどな……。それに妖精族なら、きっとこの店も長いんだろうな」

「小人族は、他の妖精族に比べたら寿命は短いだろうけど。キミたち人間と比べたら二百年は生きるだろうねぇ」


 小人族について話を膨らませていると、奥から足音が聞こえてきて振り返る。小人族の女性は両手で大事そうに木箱を持って歩いてきた。

 ただ、その長さはサフィールが持つ魔導銃よりも半分ほど長い。

 隅に置かれていた低い木の台に乗せられた木箱から取り出されたのは、白金色に輝く細身で魔弾が放たれる筒部分は長い魔導銃だった。

 サフィールは思わず唾を飲み込む。オブシディアンで造られた相棒を見せられたときと同じ感覚が芽生えていた。


「――すごく、キレイ」

「ああ……綺麗だ。これは、水陸両用で、範囲魔法の魔弾専用なのか?」

「あらあら? 良い表情ねぇ? そうなのよぉ。多分、この世で一つしかないと思うんだけどぉ……。色んなところへ旅したあの人が、いつか欲しい人間が現れるかもぉって作ったの」


 妖精族も、海が巨大で凶暴な魔物の棲家だということは知っている。ただ、人間よりも怖がっておらず、浅瀬で水浴びしたり魚を釣ったりもしていた。

 そんなとき、魔力が尽きたのか海の上に落ちた人間を助けたことがあったという。その人間が、魔導銃を所持していて水中で使えないことを嘆いていたらしい。

 懐かしそうに話す小人族の女性は、ほっこりした笑顔だった。


「もしかして、あの人って言うのは……」

「これはねぇ? ワタシの亡くなった夫が作った物なのよぉ。だから値段は付けられない……でも陽の目を浴びられないのは可哀想よねぇ? だから、代わりに試験を受けてもらいたいのぉ」

「試験……? 魔導銃のか?」

「ええ、もちろん。そんな難しい試験じゃないわぁ。この子を上手く扱えるか、認められるか」

「あの魔導銃だけど、素材は魔法鉱物『白金』宝石の鎖や嵌める部分に使われる金属とは違うよ。オブシディアンの次に珍しくて、未知の存在だ」


 ただの魔法鉱物じゃないことに、サフィールは目を輝かせる。

 相棒である黒い魔導銃にもお似合いの色合いで、未知の鉱物に惹かれる魔導師は多い。


「分かった。それで、試験の場所はどこだ?」

「試験の場所は、この魔導具店の地下から行ける――海へ続く“地下水脈”よぉ」

「――地下水脈……?」


 別の意味で目を見張るサフィールは、聞いたことのない言葉を繰り返した。

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