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第46話 運命共同体

 魔女の魔法を相殺できることや、攻撃が通じることは立証済みだった。あのとき出来なかったのは、赤の魔女が町に放った炎を消せるかの検証だけ。

 白の魔女は、どうしてサフィールに魔女の魔法(呪い)と言って、施したのか……。


「白の魔女は未知の存在だからね? 僕ら妖精族でも、厄災にしては不信感を持っていたよ」

「ああ。俺が対峙するまでは、死刑執行者(ラモール)も何人か亡くなったらしいからな」

「うーん……白の魔女に認められた、とか? オレが覗き見していたときも、戦い方に違和感を覚えたからねぇ。手加減しているようで……」

「俺も感じていたが……手加減されてあれか……」


 嫌な思い出が蘇る。


 グランツたちにも敵意はなくなり、話がまとまりかけてきたときだった。


「サフィール! 誰か、こっちに向かってきてるわよ⁉」


 上空から町の様子を確認してもらっていたネフリティスが来た道を指さして叫ぶ。まだ大分遠いが、人影は目視できた。数は大体五人ほど。


 普通の船で来た別働隊だと分かり、グランツの提案で町の氷をすべて溶かして隠蔽工作をすることにした。

 一週間経っても魔女の魔法が残ってるのは、明らかな異常事態で混乱は目に見えている。

 サフィールが氷だけを壊し、三人が魔法を使って一人一人、広場に安置しているところへ別働隊が合流して、グランツが説明する流れだ。

 氷はすでに溶けていて、数日間腐らないよう氷の魔法などを掛けて別働隊を待っていたと嘘をついて――。


 五人はサフィールの秘密以外でも、共犯者になった。


「フハッ……これで、僕らは名目上、運命共同体ってわけだね? 光栄だよ」

「……まったく嬉しくないけどな。俺が、魔女を殺して魔法を取り戻すまでの駒にしてやる」

「いいね? この男と同じ扱いなのは不満ではあるけれど……」

「ククッ……それは同感だ。精々足手まといにならないようになァ?」

「やっぱりこの二人……一緒にいちゃ駄目だと思うんだけど!?」


 ネフリティスの悲鳴はサフィールしか聞こえておらず、内なる炎をほとばしらせる二人は不敵な笑みを浮かべている。

 被害者のことは合流した魔導隊に任せてサフィールたちは三大都市プローディギウムへ急いだ。



 赤い屋根に薄い土色をした壁が特徴的なプローディギウムに到着する。大きな門は開かれているが、横には魔導隊の姿もあった。穏やかな表情から見る限り平和らしい。


「……魔女は一つの町を襲ったあと、休息している可能性があるからな」

「おや? それも初耳なんだけどね? 詳しく聞かせてほしいな」

「それなら、オレの隠れ家へ案内するよ。数年放置してるけど、綺麗だと思うし」

「……またお化けとか、怖い場所じゃないでしょうね……」


 止められることなく門を通り抜け、活気立つ町中へ視線を巡らせながらニルに案内され隠れ家へ向かう。

 サフィールが拠点としていたインフィニートよりも家屋との間が空いていることで、通りを抜けやすくなっていた。

 防犯的には背後を取られやすく、犯罪者が逃げやすい構造でもある。


 ここにも魔法時計が中央へ立っていた。そのすぐ側には噴水広場もある。インフィニートとの似た部分へ目を向けながら、ニルが立ち止まったのは表通りだった。


「……まさか、表通りに堂々と隠れ家を構えていたのですか?」

「ああ、そうなるねぇ? こういう大都市では、コソコソするより見つからないんだよ……」

「本当に犯罪者なんだなって分かる回答だな」


 笑顔で返すニルは表通りにあるこぢんまりした休業中の立て札が掛けられた扉へ触れる。

 以前、魔法付与を専門にしていた店らしい。引退して畳もうとしていた店主から買い取って休業中を装って数年だという。


 「緩いね?」とぼやくグランツは、その場で魔法紙を取り出し魔法文字で何かを書いてから使い魔に指示を出していた。


「――こういうことは直ぐに対処しないとね?」

「へぇ……さすが妖精族。無能で権力だけ振りかざす人間よりも頭が回るようだ」

「それって……魔導院のことか? まぁ、いままで魔女を災厄としか見ず、調査を怠っていたからな」


 これについては厄災を自然の行うこととして見て見ぬ振りをしていた妖精族も同類だが、黙っている。

 魔法認証によって開いた扉から中へ入ると、ニルはすぐ遮断魔法を施した。

 昼間でも明かりがないと暗い部屋は、ホコリやカビ臭さは感じない。ニルが扉近くの壁へ触れると、チカチカと天井に吊るされていた魔導灯が室内を淡く照らす。


「家具とかもそのままにしてもらってるから、好きに座って? ちなみに、オレのお気に入りは此処」


 店主が使っていただろう重厚感ある一人用の赤いソファー。

 サフィールたちは客用に設置されただろう三人掛けソファーへ座る。

 当然、グランツたちの視線はサフィールへ向いた。


「そうだな。まずは、アンタたちも疑問に思っていた行方不明の少女だが。結論を言うと、魔女に殺されていた」

「えっ……嘘だろう?」

「魔女が、わざわざ壊滅させた町で生き残った少女を一人選んで殺していたと言うのですか?」

「いや、そこは分からない。ただ、生き延びた情報提供者によると、『偽りの魔女になれ』そう言われたらしい」


 目が点になる二人へ、情報提供者は港町ルイーバで出会った半身霊(はんしんれい)の元少女であるミセリアについても話す。驚きを通り越して言葉を失う二人へ、行方不明の少女と同時に探していた不思議な女のこと。魔女にされたはずのサフィールが危うく凍死させられそうになった話も共有した。


「――フハッ……息の仕方を忘れそうになったよ。先ほどといい、怒涛の情報が出てくるけれど、もう隠しごとはないかい?」

「ああ、これ以上の情報はないな……。一応、共有しておくと、アンタたちが見えないネフリティスは魔法書の都にある魔法学校の制服を着ている白銀の短髪で赤い目をした、自称美少女だ」

「むぅ……自称はいらないって言ったのに! というか、わたし美少女としか言ってないんだけど⁉」


 ただ、あの氷に覆われた町で生存者はいない。プローディギウムへ来る間に立ち寄った町や村にも、それらしい人物は見つからず。行方不明の少女もいない。


 二人は仲良く背もたれへ腰をつけると深い息を吐いていた。

 ネフリティスのことは、万一光魔法を使われないため。


「……分かったよ。可愛らしい赤い花(フルール)のこともね? 僕らは君が気にしているように、光魔法を使えるからさ」

「魔女の襲撃前に話を共有出来て良かったです。私たちは、このあと魔導院へ向かいます。貴方はどうしますか?」

「俺は……少し思うことがあって、手数を増やそうと思う。だから、魔導具店へ向かう」

「了解さ。それじゃあ、あとで落ち合おう。万一、青の魔女が襲撃してきた際は警戒されにくい至福の火華(ブルーム・ブール)で合図しよう」


 話がまとまったことで、部屋を出ると二手に分かれサフィールたちは、すぐ近くの魔導具店へ向かった。

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