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第44話 港町シュトラント

 一難去って、予定していた時間を大幅に越え昼頃。リゾート感満載の港町シュトラントに到着する。

 サフィールは水中戦を経験したことで、ニルに教えられた。水中用の魔弾の存在と、範囲魔法用に作られた魔導銃があること。特殊な部類らしく、目的地である三大都市プローディギウムに売られていた情報も一緒に。


「ほんとぉぉぉお! に、有り難う‼ 貴方たちのおかげで、無事だったわぁ! まさか、魔導船が狙われるなんて思わなかったものぉ」

「それは僕らも同じさ。今回は運が良かっただけ……対策が必要かもしれないね? 魔導院と話し合ったらいいよ」

「そうするわぁ! ほら、野郎共‼ 感謝しなぁぁあ!」


 船長や船員たちに感謝されて魔導船を降りると、気に留めていなかった華やかな街並みが広がっていた。


「うわぁぁ! 凄い、華やか‼ ルイーバは白くて綺麗だったけど、こっちは赤い宝石って感じ!」


 グランツが言っていたように屋根はただ赤いのとは違って宝石のようにキラキラ輝いている。昼の日差しで、一部が黄昏色(たそがれいろ)にも見えた。壁は少し黄色がかっていて、赤を強調させている。

 港町ルイーバとは違い、華やかさだけでなく面積も広く坂などの傾斜がない。地面は白砂が敷かれてキラキラしており、町の両側に長い階段がある。

 近くにはお洒落な喫茶店があった。非魔導師(ペルデール)の住む町では普通にあるらしく、酒場が主流な魔法界には珍しい店である。


「へぇ……お洒落な店だな」

「この港町は昔から目新しい物が好きでね? 非魔導師(ペルデール)と交わった魔導師が多いとはいえ、あちらの文化は少ないから」

「まぁ、魔導師を絶滅させないための処置だったらしいしなぁ。最後は記憶を消してポイって考え方は嫌いじゃないねぇ」

「えっ⁉ 外道にもほどがあるんだけど⁉ うわー、もしかしてわたしの血にも……」


 非魔導師(ペルデール)の町へ戻しただけで、当然だが命を奪ったりはしていなかった。

 そうやって生まれた子供は、代わりの親をあてがい育ててきた黒い歴史があったことを詳しく聞かされる。

 ネフリティスは本当の両親に育てられたことが確かな部分はホッとしていた。


 魔導船では戦いのあとも緊張状態で、あまり眠れなかったため、グランツの提案もあって休憩してから町を出ることに。


「それにしても、青玉(そうぎょく)(キミ)は面白い魔導具を持っていたんだね?」

「あ、ああ……。任務のときは眠れないときが多いからな。重宝している」

「あー、あの寝袋ねぇ。今度オレにも使わせてよ。魔法とどう違うのか検証したいんだよねぇ」


 『どこでも寝られる寝袋』という、パッとしない名前の魔導具。


 水を弾く素材で、中に羽毛が入った寝袋だ。入ると地面だろうと狭い空間でも関係なく一瞬で眠れる優れもの。

 魔力水の誕生で魔法界は大きく飛躍した。いまでも魔導師にとって睡眠は重要だが、この魔導具に需要はない。


 店内は小ぢんまりしているが、見ているだけなら絶景の海も近く、大きな窓の開かれた外で食事が出来る場所も用意されていた。

 窮屈な室内より開放的な外の方が良いと、勝手に決めていくグランツによって海側の席へ座る。


「フロワ嬢は本当に大丈夫かい?」

「はい、もう大丈夫です。ニル()には感謝します」

「いやぁ、別に大したことじゃないしねぇ……。それよりも、様に棘があるのをどうにかしてくれると嬉しいんだけどなぁ」

「それは無理です」


 キッパリと断られるニルは引きつった笑みを浮かべていた。彼女の性格上、他人に対して態度を変えたりはしないが、“絶対悪”を認めることも出来ないと言ったところだろう。


 店員に果実水を頼んでから、ホッと一息ついた。

 四人席で、いつも立っているニルもフロワの対面に座っている。当然、サフィールの前はグランツだ。単にキラキラしている男じゃない用意周到なグランツは、すでに遮断魔法もかけている。


「さてと、残念だが僕らは観光に来たわけじゃない。此処を出た先は、情報を貰った青の魔女の被害に遭った町だ」

「此処から少し離れた場所にあり、魔導隊の詰所もあります。ですが、襲撃を受けたという手紙を最後に返事はありません」

「その日からもう一週間は経っているだろう? それなのに、他の魔導隊員からも報告はないのか?」

「ああ、そうなんだ。実は、まだ町までたどり着いていないらしくてね? もしかしたら、僕らが最初かもしれないよ」


 海を渡ってきたサフィールたちよりも、目的地であるプローディギウムの方が明らかに近い。なのに、魔導隊を派遣していないのは妙だった。

 サフィールよりも内情を知っている二人は呆れた表情をしている。


青玉(そうぎょく)(キミ)が言いたいことは分かっているよ。ただ、三大都市の魔導隊は基本的に動かないんだ。この三つの大都市が襲撃を受けると色んな機能が失われるからね?」

「……なるほどな。理屈は分かる。それなら、いまプローディギウムは荒れているんじゃないか?」

「そうかもしれません。魔導院には予測など含めて、すべて情報が回っていますので」


 反対側の港町ルイーバには魔導隊専用の詰所があった。それは、人工で作られた町だから。そのため、観光地色の強い港町シュトラントには魔導隊がいない。身体強化を使ったら一日以内にプローディギウムへ行ける距離なのもある。

 だが、魔女の魔法は三日で解けることは誰もが知っていた。悲惨な光景を覚悟する必要があると、さすがに全員の顔が曇る。


「まぁ、炎で焼かれた跡よりはマシだと思うけどねぇ」

「ニル……挑発するな」

「――やはり、此処で僕の炎に焼かれて灰になってみるかい? それとも、不老不死の実験をしている妖精族に研究材料として贈ろうか」

「やっぱりこの二人怖すぎ‼ これから、亡くなった人を確認するのに……」


 そのあと、フロワの一声で怒りを鎮めるグランツの殺意に満ちた双眸(そうぼう)すら臆することなく笑顔でいたニルへ、呆れたため息がこぼれた。

 精神的にはゆっくり出来ないまま、町を出て無言のままグランツを先頭に歩みを進めていく。


 だいぶ歩いて、そろそろ町へ着くというところで、急にグランツが足を止めた。

 辛うじて町の入り口が見える位置で、不穏な空気を感じたサフィールたちも前へ出ると目を見張る。


「嘘、だろう……」

「――嘘なら、嘘と言ってほしいね?」

「えっ……だって、魔女の魔法は……三日経ったら解かれるんじゃ」


 少しだけ肌寒さを感じる目の前に広がっていたのは、氷の彫刻と言っても過言ではない一つの町。町全体が、氷で覆われていた――。

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