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第39話 危険と隣り合わせ

 急に笑われて眉を寄せるサフィールと対象的なニルは、理由が分かったようで不敵な笑みを浮かべる。


「あっ……! ごめんなさい……その、二人とも。浅い関係に見えて、仲が良いなって……羨ましく感じちゃって」

「…………こいつと仲は良くない。普通だ」

「クククッ……そんな、強く否定しなくてもいいのに。それに、オレよりも仲が良い子は傍にいるしねぇ?」

「本当よね⁉ わたしのがサフィールと出会って長いんだから! それに、相棒だし……」


 今更ながら、サフィールの横には魔女症候群で命を落として幽霊になったネフリティスがいることを話した。

 半身霊であるミセリアが分からないことから、彼女は魔女に関連する存在でないことが分かる。


 考えていても仕方がないため、調子を取り戻したミセリアの自信作である装身具を見せてもらうことにした。


「あたしが断然お勧めなのは、この二つかな……! 一つは、耳につける装身具。なんと、海の中で呼吸が出来る優れものなんだけど……妖精族の『人魚』っていう種族になれるの!」


 変身魔法は見た目や中身を真似することが出来て、よく潜入とかで使われる。

 だが、すべてを真似できるわけじゃなく、本質である魔法や、個人の持つ性質は真似できなかった。

 つまり、人魚という妖精族になれても海の中で呼吸したり、泳ぎが得意になるわけじゃない。


 小さな耳飾りを一つ手にするニルは天井へかざす。


「なるほどねぇ……。変身魔法に、複製魔法……あとは、人魚の鱗と血液が一滴」

「えっ……そんなことも分かるのか?」

「す、すごい! 肝心な付与魔法と、素材は完璧だわ。人魚の血液は、不老不死の材料になるなんて言うおとぎ話もあるけど、良くて生命力を活性化させるくらい。でも、人魚に変身する素材としては一番重要なの!」

「それって……俺たち魔導師が未だに作れない、回復薬の素材にならないか?」


 薬草では傷を治すまでの効果は得られず、回復魔法のような即効性魔導具を作れていない。

 生命力を活性化させる効果があるのなら、魔力水と合わせたら化ける可能性がある。

 装身具にしか興味がなかったミセリアは口を開けたまま停止した。

 耳飾りをテーブルへ戻すニルも顎に手を当てて考えている振りをする。


「……お前は分かっていただろう」

「あ、バレた? おとぎ話みたいな不老不死はならないけど、回復薬の材料って分かったら狩りの対象になりかねないでしょ」

「まぁな……。人間は欲深い生き物だ。妖精族が人間と関わらなかったのも、そういう面があるからだろうな」

「そ、そういうことだから……。そっちはあたしたちの秘密で! 妖精族の血液には、記憶が宿っているみたいなの。だから、変身魔法と違って完全な人魚になれる! ただし、一時間だけ……」


 でもって、素材的に高価だけど使い捨てだった。

 人魚の素材は妖精族の仲介をしている専門家に頼んでいるらしい。


 魔法界で一番危険な場所が海だということは子供も知っている常識だ。

 魔法が使えない今のサフィールは、高級品の使い捨てでも身代わり人形と同じくらい持っておきたい代物である。

 しかも限定的なところも身代わり人形並みだ。


「一時間だけっていうのは結構危険だな。無いよりは違うけど……」

「そうだねぇ……。オレなら、海の中から浮上して、そのまま怪物共を一掃するけど。魔法ありきだしなぁ」

「……自慢してるのか?」

「よ、良くわからないけど……! 二つ目も紹介するね!」


 見えない火花を散らすサフィールたちに萎縮しながらも、話題を変えようと声を張るミセリアはテーブルから一つを手に取る。


 手の平に乗るほど小さな箱だった。目の前で開かれる箱の中には、薄い膜状の何かが入っている。


「これは水晶膜(すいしょうまく)。見た目のとおり、素材は様々な海洋生物から得た眼球の膜なの!」

「なるほどな……それを加工したのか」


 触れてもいいと言われて手に取ると、膜状の硝子で出来ていた。目に装着するもので、傷つけないよう防護魔法が施され、効果は水中でも目を開けていられるという優れもの。

 川なら目を開けられるが、海は塩を含んだ水のため、魔法で眼球を保護するなどしないと開けていられない。

 サフィールも感心するほど、どちらも画期的な魔導具だった。


「だけど、目に装着するなら、こっちも使い捨てなんだろう?」

「ううん! 魔法硝子で加工してるから、頻繁に使わなきゃ一年は持つよ! お得でしょ」


 魔法鉱物の一つである魔法硝子は、砂から作られる硝子に似た性質をしているため色んな加工に使われている。液体を入れるガラス瓶などはすべて魔法硝子だ。

 魔法を付与しやすく、強度もある。鉱物の中で魔石と同じくらい採れやすいことから価格も安い。


 これにはニルも興味を示した様子で欲しいと言っている。


「それじゃあ、人魚の方を一つと、水晶膜を二つ譲って欲しい」

「うん! もちろん! お金はいらないよ!」

「えっ……それは駄目だろう。適切な対価を払う」


 対価と聞いた途端に先ほどまでの笑顔が消えた。

 ミセリアの感情に合わさるよう再びチカチカと不安定になる魔導灯。

 うつむく表情にネフリティスは同じ気持ちを悟った。


「あたし、この体になってからお金の使い道がないの……。空腹もないから食事も十年以上してない。……だから、話を聞いてくれたのが対価じゃ駄目かな?」


 精神的には成長していて大人なミセリアだが、孤独は年齢を重ねても変わらない。孤独を意識したことのないサフィールは、横目でネフリティスの顔をうかがってから頷いた。

 

 譲ってもらった装身具を懐へしまってから、他に何か気づいたこと、なんでも良いから話してほしいと質問して、最後に髪が特徴的で人形のような女を見なかったかと問いかける。


「ううん……。あたしは、この姿になって、怖がられてから引きこもってるけど……。代わりに使い魔の、この子に外を見てもらってたけど……あなたを見つけるまで何もなかったかな」


 黒いモフモフした毛で覆われたミセリアの使い魔は、猫属(フェーレース)という魔法生物で通称、猫と呼ばれていた。

 三角形をした耳に、丸い顔。胴体はしなやかで、細長い尻尾が特徴的だ。種類は様々いるらしく、一番小さくて片手に乗るらしい。

 全身がモフモフした毛で覆われていて、男女問わず人気な使い魔だ。


 使い魔は複製召喚とは違って、本物を使役している。主である魔導師の魔力を定期的に与えて、良好な関係が大事だ。


 先ほどまでミセリアの膝で丸くなっていた黒猫は、足元で尻尾を絡ませている。


「そうか。有難う。俺たちの目的は魔女の根絶だ。魔女が居なくなったら……」

「うん! ありがとう……。あたしは協力出来そうにないけど、必要な装身具があったら言ってよ! そっちなら協力出来るから」


 外へ出ると空は黄昏色(たそがれいろ)に染まっていた。思った以上に長居していたことに驚きながら、宿へ向かう話をする。

 明日の早朝に魔導船でルイーバを去ることを話すと、ミセリアは寂しそうな顔をしていた。この体になって寝たことがないというミセリアの話を聞いて、ルイーバを立つ前にもう一度店へ行く約束をかわして別れる。

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