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第36話 港町ルイーバ

 海に近いことで、潮風が頬を撫でる港町ルイーバへたどり着いたサフィールは目を見張る。

 他の町とは違って扉のない、くり抜かれた門から囲むような白い壁。太陽の日差しでキラキラ光ってみえるのは、材料に魔法の貝殻を使っているからだという。


「此処は町の屋根も白いんだな……何で出来ているんだ?」

「ああ、あれは貝殻らしいよ? 青玉(そうぎょく)(キミ)は、家屋に興味があるのかい?」

「いや……魔法界は、町によって色があるみたいだからな。白は見たことがなかっただけだ」

「海に近い町は結構白いらしいよ? あーでも、海を渡った先の港町は宝石みたいな魔法生物を加工した屋根が流行っていると聞くね」


 伊達に長生きしていない妖精族のグランツは、聞いてもいないことまで話してくれた。実は情報共有したときに、ニルとグランツ、二人は年齢の近いことが判明する。グランツの表情が暗くなったのは言うまでもない。二人の距離はさらに跳ね上がり、精神面が大人だったニルは三人旅と違って軽口を言わなくなった。


 元々、他人と距離を取っていたサフィールも、対立関係な二人に対して気を使うことなく平然としている。

 一番やきもきしているのは、サフィールしか視えないネフリティスかもしれない……。


「ねぇ、本当に大丈夫なの……? この二人、いつ始めてもおかしくないわよ……」

「――さすがに本当の町中ではしないだろう。グランツの相棒も、この町にいるらしいからな」

「どうかしたかい? ああ、もしかして僕のパートナーに興味があるとか? 残念だけど、彼女は気難しくてね……僕しか相手は務まらないと思うよ」


 キラキラした爽やかな笑顔を向ける男は、恋愛沙汰に興味のないサフィールでも分かりやすかった。

 いまの魔法界は他種族恋愛の規制などないが、寿命の違いから発展する者は少ない。妖精族同士でも子供を身籠ることはなく、気づいたら魔力生命樹(マギア・リラフト)の下に新たな生命が誕生しているらしい。そのため、血の繋がった親兄弟はおらず、全員が家族のようで他人だという。

 だからか、この世界に混血種は存在しない。


 白い屋根に壁はすべてキラキラと輝いていて、平屋が立ち並んでいる。二階建てはほとんどが宿屋だった。

 人工で作られた港町ルイーバは小高い大地に立っていて、少しだけ階段のようになっている。坂を登った一番高いところには、魔導隊の宿舎があった。他の町とは違い、黒い帽子のような建物ではなく、白くて貝殻のような姿をした二階建て。


「人工の町だけあるな。見ていて飽きない」

「僕もこの港町は大好きだよ。海鮮料理も美味しいし、素朴なところがいいね」

「まぁ、魔法書の都には負けるけどね!」


 自慢げにいうネフリティスへ怪しまれないよう視線を流す。グランツが仲間に加わることで、事前に話をしていた。

 普通の幽霊なら、魔力持ちは姿が見える。だが、ネフリティスは特殊であって男の魔女であるサフィールにしか見えない。


 反応が返ってこないことは分かっているネフリティスも、不満げな顔をしている。

 知る由もないグランツは港へ向かって歩きだした。


「港も凄いんだよ? 白い砂浜に青い海……そして、複数の船。巨大で凶暴な魔物がうようよしているなんて嘘のようだよね? その中でも、目を引くのは……僕たちが乗ろうとしている“魔導船”さ」

「……魔導船か。残念ながら一度も乗ったことはないから楽しみだ」

「魔導船でもないと次の町まで三日はかかるからね? まぁ、魔導船は魔導院の関係者しか乗れないけど……僕のパートナーが手配してくれてるからさ」


 魔導船は、装甲部分に高波でも沈むことのない魔法鉱物を使い、快適さも重視されていて、雨などが降っても中まで音が響かない魔法も施されている。水はもちろん、風にも強い。しかも、船の周りには中位の魔石が嵌め込まれ、強度も増されている。大きさも三種類あったが、動力は消耗品の魔石で貴重なため、いまでは大型船二隻しかない。


 坂道を下り、港に到着するとグランツのいう白い砂浜、青い海が広がっている。

 その中で一隻だけ、異色を放つ船があった。他の船が潮風で生まれる波に揺れる中、微動だにしない黒い装甲を持つ魔導船。大型船だけあって見上げる高さと大きさに、見た目は巨大で凶暴な海洋性の魔物を模していた。

 ただ、黒には色々な意味がある――。


「――黒か……迫力があるな。もしかして、海の乱暴者、竜属(ドラッヘ)を模しているのか?」

「ああ、そうらしいね? 見た目に拘る部分も、人間の面白いところだと思っているよ」

「……想像以上に大きいわね。思わず呼吸するのを忘れたわ……」


 幽霊だから呼吸をしなくても死なない――すでに死んでいるだろうと指摘したいサフィールは息を呑み込んでやり過ごす。


 魔導船の周りでは忙しなく動き回る船員らしい姿があった。

 グランツの相棒らしい女の姿は見当たらない。


 爽やかな笑顔のまま船員を捕まえるグランツから少し離れた場所で待つサフィールに、無言を貫いていたニルが素敵な笑みを浮かべていた。


「オレは変身魔法で魔導船に何度も乗船したことがあるんだけどさぁ……。この海域には、一定の周期で現れる凶悪な魔物がいるって知ってる?」

「えっ……海の魔物は大体凶悪だろう? 俺の知る限り……あっ、一つだけ。擬似人魚(セイレーン)……だったか。妖精族の人魚に類似した魔物。大洪水を起こし、船を沈没させて集団で狩りをする……魔物の中では珍しい種類だったな」

「御名答……さすが、天才で秀才なサフィールだ。年に数回被害報告があるんだけど……オレの予想だと――」


 不意に話を途切れさせるニルの視線を追う。魔導船から、こちらへ歩いてくるグランツとフードを被った女……。

 ただ、特徴的なローブの色に思わず笑ってしまいそうになる口元を手で隠す。


「……偶然にしては出来すぎてないか?」

「いや……あの男がいたって聞いたときに、彼女のことは把握してたかなぁ?」

「やぁ、お待たせしたね? おや? 僕のことは気にせず、青玉(そうぎょく)(キミ)と好きに話したらいいのに……」

「いやぁ……どこかの長命なだけで、オレと年齢が近いって聞いて敵意を剥き出しにする、妖精族のそばで話す内容じゃないからねぇ……」

「――それは、即刻殺して欲しいって要望であってるかい?」


 再び火花を散らす年長者二人にサフィールはもちろん、パートナーという女も呆れたため息が漏れ聞こえた。

 ネフリティスは威圧感で怖がってサフィールの背後に隠れている。


 サフィールはフードで顔を隠す女へ視線を向けた。女も気づいた様子でフードを取り去り素顔を露わにする。


 スラリとした体型で、(うなじ)までの艶っぽい黒髪をなびかせる女。揃えられた前髪に鋭い一重の眼光は、一身にサフィールを捉えて離さない。

 いがみ合っていた二人も彼女へ顔を向ける。


 魔法書の都と同じ視線を送るのは、相変わらず無表情なフロワ・カルムだった。

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