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閑話 王冠の髪飾り<魂の証>

 約六百年前の話――。


 数百年前に流行った『おとぎ話』が、また女子学生の間で話題となっていた頃。

 中でも一番人気だったのは、自国で虐げられた貴族令嬢が、異国の王子様と出会い、溺愛される話――。


 しかも、ただの恋愛話ではなく、女性主人公の強さにスカッと要素があるものが好まれていた。

 なぜか追いかけてきた自国で元婚約者の王子を、貴族令嬢が一発殴ってせいせいする話。



 今年で齢十三を迎えるメラ・レジアスも、誕生日の前日。町の雑貨屋で王冠の髪飾りを見つけた。

 貴族令嬢が王子様に嫁いだことで、授かった金色の小さな冠。円型で、先端が針のように尖った見た目をして、周りには小さな宝石が飾られている。

 少女たちの憧れる装飾品だ。


 実際、結婚式で似たものを作ってもらって頭に被る女性までいる。

 値段は上から下まであって、髪飾りが一番手ごろ価格だった。


「これ、宝石はついてないけどキレイ……」


 小さな雑貨屋の扉横にある小窓。太陽の光を浴びて、メラの瞳には王冠の髪飾りがキラキラして映る。

 すぐさま下に書いてある値段へ目線は動き、メラの頭は停止した。


 その直後、店から出てくる同い年くらいな少女の前髪を飾る小さな宝石がついた王冠の髪飾り――。

 中流貴族らしい出で立ちの両親と、ふわふわした金髪の少女は笑顔で輝いて見えた。


 去っていく背中に眉を下げた瞳で見つめるメラは再び視線を小窓へ戻す。 

 手ごろ価格とはいえ、まだ十三で仕事も出来ないメラには小遣いで買える値段ではない。

 素材が金で出来ているため、購入するのは中流貴族が多くを占めていた。

 メラは下流貴族の長女で兄弟も他に四人いる。そのため両親は共働きをしていつも忙しくしていた。

 もちろん、両親を手伝うメラは友達と遊ぶこともせず、小さい弟妹の世話をする優しいお姉さん。

 いままで我儘を言ったことは一度もない……。


 不意にカランという音が聞こえ、再び横の扉が開く。夢中だったメラは気づかず、向けられる視線で驚いて肩を揺らした。


 身長百四十センチと小柄なメラよりも遥かに高い白髪交じりな男性。肩幅もしっかりしていて筋肉質。ただ、緑色のエプロン姿、丸眼鏡が印象的で、強張るメラとは対照的に優しげな笑顔を向けてきた。


「お嬢さん。この王冠の髪飾り、気に入ってくれたのかな?」

「……は、はい」

「いま、女の子たちの間で流行ってるらしくて、おじさんの店でも置いているんだ。良かったら、中から覗いてみるかい?」

「い、いえ……! 私じゃ……買えない、値段なので……」


 口ごもりながらなんとか振り絞った言葉を、優しげな店主はにこやかに笑う。

 下を向いてしまうメラの前に影が出来た。ふと顔を上げると、目線の高さに店主の顔がある。驚いて、その場でピョンと跳ねたメラに笑いながら謝罪する店主は「どうぞ」と一言だけ告げて中へ戻っていった。


 メラは少しばかり考えたあと、顔を上げて店内に足を踏み入れる。ぎこちない動きを優しく見守る店主に、メラは恥ずかしそうな顔で笑った。


 ◆◆◆


「メラ、十三の誕生日プレゼント何が良い?」

「えっ……」

「メラはいつもお利口さんで弟妹の面倒を見てくれるから、今年はしっかり欲しい物を言ってごらん」


 満面な両親の笑顔。優しげな店主のときみたいに俯いてしまうメラは、口ごもってしまう。

 両親も分かっているようで待ってくれていた。


 メラは思考を巡らせる。

 店主に見せてもらった王冠の髪飾りは、窓ガラスから見るよりも輝いていて、素材が金なのも理解できた。薄くすることで、これでも値段を抑えているという話。

 雑貨屋の店主にとってそこまで高額商品ではないらしく、あのとき前髪につけてもらっている。

 メラの癖っ毛で赤みがかった金髪にはとても似合っていた。

 人の目を見るのが苦手で、少しだけ長く伸ばしている前髪が片方だけ持ち上がり、しっかりと姿見に映った自分を見たのが久しぶりだったメラは店主と目が合って笑ったこと――。


 両手を握りしめ、顔を上げるメラは真剣な表情をして口を大きく開いた。


「――王冠の髪飾り‼」


 いままで娘から聞いたことがない大声に、一瞬だけ目を丸める両親は、すぐ表情を崩す。

 首を縦へ振る両親に目を輝かせるメラは、すぐ雑貨屋を案内した。


 雑貨屋の店主もメラのことを笑顔で迎えいれ、両親が綺麗な紙で包んでほしいと言う中「此処で、つけていくかい?」と言われたメラは首を大きく縦に振る。


「とても似合ってるよ」

「ええ、本当に可愛らしいわ。私たちのお姫さま」

「お嬢さん、良かったね」


 姿見に映る前髪で輝く王冠の髪飾り。姿勢を低くして目線に合わせてくれる両親の笑顔。

 お姫様になった気分のメラはキラキラした目を向ける。


「はい‼」

 

 いままで以上に、とびきりの笑顔で答えた――。

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華やかでマジカルな魔法書の都にわくわくさせていただきました✨ 本が木に吊るされてたり、出入り自由な家など、魔法世界ならではのファンタジーっぽさが随所に表れていて、くれはさんが生き生きとしながら筆を走…
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