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第27話 再臨・天才(美)少女魔導師

 魔導塔の扉部分に触れると、緊急信号である赤に染まる。そして、魔力認証することなく扉が開いた。

 普通なら魔力認証が必須だが緊急時は開いたりする。

 扉の消えた入り口からまんまと侵入した。


 侵入してすぐ、上空から炎の渦が魔導塔へ降りかかる。


「ちょっと! このままじゃ、炎が中にも入ってくるわよ⁉」

「――想定はしていたが、吹き抜けの中心部に転移魔具(ポルタ)はなしか……」

「貴様は(われ)が運んでやる」

「ルベウス……悪い。頼む」


 外壁と同じく、内部も白一色で魔導灯がなくても明るく感じる作りになっていた。中央が吹き抜けになっていて、壁周りにはズラッと書棚が埋め込まれ、赤の魔女の襲撃がなかったら壮観だっただろうと感じる魔法書の宝庫。

 だが、内部に人はおらず、貴重な魔法書も既に転移魔法によって安全な場所へ移されて空っぽだった。


 思わず見惚れてしまう三人の背後から渦巻く炎が一階部分へ侵入してくる。燃え広がるだけと思っていた炎は床を這い、明らかに生き物のような動きをしていた。狙いがサフィールであることは間違いなく、ルベウスの浮遊魔法で地面から足が離れ浮かび上がる。


「――まさか、追尾魔法……!」


 音に反応して口を開く魔物のように、加速して炎の渦がとぐろを巻く動きで一気に迫り上がってくると、ルベウスもサフィールと共に吹き抜けを一気に飛び上がった。


 魔導隊へ所属してから他人任せであるサフィールは少しだけ表情を強張らせていたが、そんな繊細な状況じゃないことから左手で持っていた魔導銃を空中で放つ。

 サフィールの片足に絡みつこうと、うねる炎の渦はあと一歩のところでパキパキと音を立てて凍りついた。

 赤の魔女の炎が凍りついた直後、サフィールの脳裏に一瞬だけ知らない少女の残像が映る。


「――えっ……?」


 思わず声が漏れるサフィールは、脳内で少女の情報を照らし合わせた。

 足下にある氷の柱は魔導塔の半分から下まで伸びている。しかも、炎の勢いは止まることを知らず、氷の中で赤く揺らめいている姿は神秘的にすら見えた。

 いままでなら相殺出来た魔法が形を残すほど強力なことが分かる。


「……いまのは、赤の魔女(メラ・レジアス)


 サフィールの脳裏へ映った少女は、魔導隊で資料に載っている赤の魔女の素体になったメラ・レジアスだった――。

 魂は消滅している魔女の肉体に残る記憶だろうかと、考える暇はない。


 狙われるサフィールを見たネフリティスは真剣な表情で魔導塔の壁をすり抜けて飛び出していく。

 急な行動に当然待ったをかけるサフィールに壁から顔だけ出してきた。


「お前……どこに行くつもりだ」

「――赤の魔女のところ! わたしが、囮になる!」

「ハァ……どうしてそうなるんだ……。幽霊でも、危険かもしれないんだぞ」

「わたしも、サフィールの役に立ちたいから!」


 制止の声も聞かず姿が見えなくなるネフリティスに呆然とするサフィールは、肩を叩くルベウスへ向き直った。


「上だ」


 指をさす上空にはサフィールが目指していた塔頂がある。

 そこからなら外にいるネフリティスが見えるため、ルベウスの魔法で一気に飛翔した。


 塔頂へ降り立ったサフィールは魔導塔を形成している魔法鉱物に手をついて確認する。

 無鉄砲なネフリティスは赤の魔女と同じ高さで立ち塞がっていた。


「あいつ……囮になるって言ったが、事前の合図すら考えてないぞ――」

「幽霊娘は特殊な魂の存在だ。我も目に映らず、声も聞こえない存在に念話は出来ない」

「……まったく。幽霊になってまで、人の役に立ちたいとか……。どれだけお人好しなんだよ」

「貴様に見つけてもらえたのが相当嬉しかったのだろう」


 ルベウスの言葉はむず痒く、サフィールは辛うじて口の動きが読めるネフリティスを凝視する。

 ネフリティスは体を動かして表現もしているが、職業柄口を読めるため大体何を言っているか分かった。

 極めつけは人差し指を伸ばした明らかな挑発行為。魔女に効果があるとは思えないが……。


 当然、ネフリティスの挑発に乗ることなく沈黙している赤の魔女だったが、微かに体の向きが変わる。明らかにネフリティスを認識している動きだ。


「――ネフリティス! 攻撃が来るぞ!」

「えっ……?」


 魔導塔から少しばかり離れた距離にいるネフリティスへ普段より声を張り上げるサフィールの声で、赤の魔女が再び手の平からまき散らす花弁――ではない炎を辛うじて避けている。

 幽霊に効果があるか分からないが、動きの鈍いネフリティスは見ていて危なかしく、サフィールの言葉は激しく燃える炎によってかき消されてしまい、呼び戻すため上空に向けて魔導銃を発砲した。


 ただ、サフィールの持つ魔導銃は特殊なオブシディアンという素材で出来ているため発砲音が鳴らない。

 しかも、魔弾は物体に当たらないと中の魔法が発動しないため、ルベウス頼みだった。


「最初からルベウスに頼むべきだったな……」

「いや、(われ)は人間が考えた生活魔法や派手な魔法を知らない」


 遅れてルベウスの単体魔法が魔弾を貫いた瞬間、中から炎で出来た大きな火華(ひばな)が赤い空へさらなる色を重ねる。

 魔物などは音や光に反応するものだが、魔女にも効果はあったようで、ネフリティスから一瞬気がそれて動きを停止した。

 だが、それはネフリティスも同じだったようで、空を彩る美しい花へ遠くからでも分かるキラキラした目をして上空を見つめる姿にため息が出る。


「……あいつ、囮の意味がわかってるのか」

「魔法の効果は短い。すぐに我に返るだろう」

「……ネフリティスが見えてないのに、アンタはどうして分かるんだよ」

「人生経験だ」


 ルベウスの言うとおり、ハッとした表情でサフィールの意図を読み取ったネフリティスが物凄い速さで魔導塔へ飛んできた。

 そして、赤の魔女が気づいて追いかけたときには再び魔導塔内へすり抜けたことで見失い停止する。ネフリティスの囮は成功して半分まで距離が縮まったことで、サフィールは赤の魔女に向けて三発撃ち込んだ。


「――停止する一瞬を待ってたぞ」

「サフィールやっちゃえー‼」


 いつの間にか背後へ立つネフリティスを振り返ることなく、一発の銃弾が赤の魔女の肩に触れた瞬間爆発する。

 入っていたのは中級の炎魔法だった。

 二発は人間と同じ心臓部を狙ったが、見えない壁で弾かれるように跳ね返り、腹部へ着弾してパキパキと下半身を凍りつかせていく。


 だが、サフィールの放った氷魔法は二発とも初級なため、魔女が手で触れただけですぐに砕かれてしまった。


「サフィール、中級の魔法はもうないのか」

「……もう使い切った。この街で買うつもりだったからな……」


 中級の魔法が入った魔弾は大きな街でないと売っておらず、市販のは高価で貴重だった。

 思わぬ魔女の防護魔法に歯を噛みしめるサフィールは、再びネフリティスから自分に標的を変えたことを悟り、攻撃を受ける前に魔弾を補充する。


 赤の魔女は肩から黒い(モヤ)のような揺らぎを出し、相変わらず痛みはない様子でまともに動く片手をスッとこちらへ伸ばしてきた。

 その手から再び赤い炎が生み出されると予想していた三人の目に、炎の竜が現れる。


「跳べ」


 即座に状況を察したルベウスの言葉で一瞬だけ迷ったサフィールは魔導塔が崩れると同時に空中へ飛び降りた。

 赤の魔女が生み出した炎の竜は魔法鉱物へかぶりつくように塔頂はサフィールより先に横を掠めて地面へ落下していく。

 下からローブが広がるように落下していくサフィールは、片手で持つ魔導銃を空気抵抗に逆らって支えるように両手で握りしめた。装身具の効果も合わさり一発を上空の赤の魔女へ放つ。


 狙いはもちろん心臓部の一点集中だ。

 パキッという鈍い音が微かに聞こえた瞬間、赤の魔女の気が触れたように奇声をあげた。

 二度目の反応。魔物は怒りから()えたりするが、感情のない魔女は論外だ。


 少し前まで空を飛び回って魔女を討伐してきたサフィールは喉を震わせて笑う。現在(いま)、自分は空中を落下しながら魔女を討伐しようとしている皮肉さに――。

 

 不安定かつ落下したままで地面が近づく中、もう一発放とうとするサフィールの目と鼻の先に赤の魔女が姿を現した。

 塔頂と同じ高さで浮いていたはずの赤の魔女を間近で見ることになり、目を奪われる存在は本当に人形のように美しい造形と、思ってはいけない畏怖が混在する。

 だが、赤の魔女を凝視していたサフィールはその動きに目を見開いた。


 転移魔法ではない、高速移動――。


 人間は気づいたときには手遅れなのが関の山である、魔女の固有魔法――白の魔女へ続く二度目の“領域支配”。


「なっ――」

「サフィール‼」


 サフィールの脳裏にはインフィニートで購入した身代わり人形が浮かんだ。

 最悪、一度の攻撃なら防いでくれる万能であり、高額な魔導具代表。致命傷を外してくれる装身具は魔女相手では意味がない。


 一応魔女であるサフィールにも防護結界魔法があることは判明したが、同等な相手で試したことはない。思わず防御態勢を取るサフィールの腹部へ赤の魔女の手が触れたと思った瞬間、視界が振れた。


 目の前にいた赤の魔女はおらず、少し上から見下ろす形で姿をとらえる。

 そこには、赤の魔女の薄い手で触れられるルベウスがいた。


「ルベウス……!」

「うそ……でしょ⁉」


 激しい爆発で視界が悪くなる。ルベウスが魔法で位置を反転させたらしく、目を見開くサフィールの目前で口から吐血して落下速度を強める姿が映った。

 腹部から炎へ包まれていくルベウスに動揺する中、赤の魔女が振り向いた瞬間を狙って胸に一発を放った。


「――お前は、此処で終わりだ……!」

 

 先ほど鈍い音をさせた防護魔法が砕け散り、もう一発を放った魔弾は氷の華が咲くように胸に穴を空け、背中にかけて凍りつく。

 その瞬間、防護魔法とは別な何かが砕ける音がして、空中で停止する魔女を見上げるように落下していった。

 サフィールは衝撃に備えて体を縮めるが、地面へ激突する寸前でフワッと浮き上がり着地する。


「――ルベウス!」

「ちょっ、ちょっと⁉ 魔女の炎まともに喰らって……あれ、炎――大丈夫なの⁉」


 遅れて追いついたネフリティスと共に炎へ包まれていたルベウスを心配して駆け寄った。だが、炎は消えていて腹部は焼け焦げて赤くなる白い肌が見えているのに平然とした姿でいる。


 呆然とするサフィールたちに対して、空を指さすルベウスの動きで頭を上げると、両手を下にぶらさげた状態で佇んでいる赤の魔女が視界に映った。

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