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第26話 防護結界魔法

 赤の魔女を覆っている防護結界魔法に大きな亀裂が入っていた――。


 廃屋で遭遇した赤の魔女にはなぜかなかった防護結界魔法。白の魔女相手に、一度も亀裂すら入れられなかった絶対的強者感を演出していた鉄壁へ、初めて攻撃が通った瞬間だった。


「――防護結界魔法に亀裂が入った……」

「凄い! だけど、やっぱり廃屋で遭遇した偽魔女は、なんだったのかな……」

「偽物にしては完璧だった……。分身魔法もあるが……魂のない人形だからな……」


 他の魔女はサフィールの魔法なら打ち砕くことが出来て、結果二体を討伐している。

 他の魔女も時代によって討伐されていた。だからこそ、いまは三大魔女と呼ばれる三体しか残っていない。


 亀裂が入ったことで赤の魔女にも異変が起きた。先ほどまで、無差別に行使していた魔法が止まり、空中へ伸びていた細い両腕が下に垂れる。


 サフィールと違って魔法も使えるルベウスは、いま一度試したいことがあると言って赤の魔女目掛けて飛翔した。

 だが、赤の魔女はルベウスに興味を示しておらず、切りつける鋭い爪への攻撃も威力の高い氷系統の上級魔法すら避けることなく受けている。

 攻撃のすべて亀裂が入っている防護結界魔法に当たるが、何も変化はない。きっと魔女自身にも攻撃は通じないだろうと、戻ってきたルベウスの顔はつまらなさそうにさえ見える。


 ただ、ルベウスの攻撃を受けている間も一切身動きすらせず、いまもどこを見ているかすら分からない赤の魔女は不気味だった。


「……あのとき、どうして目が合ったんだ……錯覚か?」

「あの顔は、本当に不気味よね……。ルベウスのこと完全無視だし」

「ああ、我を認識していないだろう。魂のない形があるだけの厄災だ。本当に視認しているかも定かではない」


 ルベウスのいうことは正論かもしれない。視界を覆うものが居なくなった途端、再び手の平から赤い花弁を舞い散らせ始める。

 ただ、その花弁は町へ降り注ぐことなくサフィールに向かって渦巻きながら飛んできた。


 同じ魔女だからか、サフィールへの狙いは継続されているらしい。

 だが、狙いを定めたことで生身の体でも避けられる。路地裏の道に立ち止まっていたサフィールは、横へ回転して避けた直後、もう一発を赤の魔女目掛けて放った。装身具の効果もあって、回転しても振れることがない。


 赤の魔女も今度は警戒していたようで軽く体を反らす。亀裂の入った場所を狙った魔弾は少しズレたが、防護結界魔法に命中して縦から横へ電撃が走った。

 サフィールの持つ魔弾は三つの魔法が込められている。再び新しい亀裂が入ったことで、魔法は属性問わず効いていた。


「魔法ならなんでも効きそうだな。だけど、そう上手くはいかないか……」

「サフィール……なんか、あの魔女怒ってる気がする!」

「魂のない器に感情はない。単純に形態変化の兆候の可能性がある」

「えっ……形態変化? そんなの、聞いたことがないぞ」


 討伐した魔女二体も防護結界魔法を破壊したら簡単に魔法で倒せている。

 だが、壊す以外で魔女本体を攻撃する術はないためサフィールに選択肢はなかった。


 それにしても息の合った掛け合いをする二人は声が聞こえているんじゃないかと錯覚するほど揃っている。


 赤い花弁に見えていた赤の魔女の魔法が姿を変えた。起き上がってすぐ移動するサフィールの目へ、花弁ではない赤い炎が映る。


「なっ……まさか、あの花弁は全部幻覚魔法の一種だったのか」

「我にも大きな炎へ変化して見える。花弁ではなく、例えるなら一つの花か」

「あんな大きいのが複数とか避けられないし! この一帯……火の海じゃない!?」


 補充していない魔弾は残り三発。腰の革袋には大量の予備があるため、すかさず連続で二発を魔法へ狙いをつけて撃ち込んだ。

 初心者とは思えない銃捌きで、一つに命中する魔弾から放たれる氷魔法が他も巻き込んでいく。

 だが、魔女の広範囲魔法に対して単体魔法しか入っていないサフィールの方が不利だった。


 赤の魔女は、先ほどよりも高らかに燃え広がり二メートルほどの炎壁(えんへき)を作り出す。加えて、反対の方から微かに声が聞こえてきた。


「サフィール。他の魔導隊がこちらへ向かってきている」

「えっ⁉ ちょっ、それまずいんじゃ……」

「最初から目的は魔導塔だ……。俺からの贈り物(ギフト)最後の一発(・・・・・)を受け取ってくれ――」


 声など届くはずのない赤の魔女へ一言告げたあと、魔導銃へ装填された最後の一発を放つ。

 赤の魔女がまともに受けるはずもなく、大きな炎の渦を亀裂が入った場所へ展開して相殺された。


「――悪いな。魔女に対して正攻法で戦ったりするわけないだろ……」


 サフィールは残り一発を撃った直後、すでに次を装填済みの魔導銃から二発放つ。

 一発は二つの亀裂を広げる役割を担う氷魔法で防護結界魔法を白く染め上げ、二発目に威力の増した雷魔法が一点集中で貫いた。

 バチバチッと激しい音を立てて亀裂にめり込み、硝子の砕ける高い音が響く。


 上空で飛散する防護結界魔法は、キラキラと輝くように降り注いで宙で舞って消えていった。


「よし……まずは目的達成だ」

「うひゃー‼ 魔女の防護結界魔法破壊しちゃった!」

「油断するな。他の魔女とは違って此処からが本番だ」

「待て……やっぱり、アンタ何か知って――」


 先ほどの形態変化についても、何かを知っているようなルベウスへ問いただすサフィールの言葉を遮って、上空から奇声が発せられる。

 再び視線を上空へ向けると、血の涙は流していないが頭を抱える赤の魔女に注意を向けた。サフィールとルベウスが注視する中、背後から叫び声が聞こえて振り返る。


「――違っ……! 前、まぇぇぇえ‼」


 叫ぶネフリティスの言葉で向き直ってすぐ、燃えていた火柱から揺らめく影が三体現れた。

 最初は逃げ遅れた被害者かと息を呑むが、よく見ると赤い花弁の集合体で作られた炎の化身。

 ただ、赤の魔女が生み出した得体のしれない敵であることは間違いなく、触れられたら命がないため、目の前に向けて残り三発を放ち応戦する。

 氷魔法は一発しか入れていなかったことで、炎の化身である二体は効果が薄く消えずに揺らめいていた。


 しかも再び奇声をあげる赤の魔女へ視線を向けると、先ほどまでなかった頭上に浮かぶ金色の輪、一部鋭い針のように伸びた“何か”が輝きを放っている。

 だが、変化のあった直後――。


 赤の魔女の瞳から血のような赤い(しずく)が線となって流れる。


「えっ……あの頭に浮いてるのって、もしかして!」

「魔女には異質だった髪飾りだろうな……」

「あれにはどんな効果がある」

「わたしが読んだおとぎ話じゃ、ただの王冠だったけど……王族にとってはとても大事な物だから!」


 魔女の素体である少女にとっても死ぬ間際、一番特別なモノだったはず……。

 予備の魔弾を装填し直して、倒し損ねた炎の化身を撃ち消したサフィールたちは、赤の魔女の攻撃が来る前に目前まで近づいた魔導塔へ侵入を試みた。

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