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第23話 〇〇の研究資料

 名前の下に暦が書かれていることへ気づいた二人は目を見張る。


「――これは……五百年前の物だ。正確には……魔導暦:四百九十年台か」

「へぁ! なんか、怖いんだけど⁉」

「意図して隠しておいたのか……此処を使っていたのか。でも、机と椅子がないしな……」


 考えても意味がないため、文字をなぞらえるように次のページを開いた。


 『拝啓 この手記を見つけられた者へ』

 下の内容からして手記であることに変わりはないが、まさか第三者へ読ませる意図のある物は見たことなく、困惑したまま無言でページをめくっていく。


 『この手記は研究資料でもあり、日記や生きた記録として書いている。一重に、すべての魔女を討ち果たし、平和を取り戻すため――』

 薄々感じていたとおり、手記は魔女に関するものだった。

 ペラペラとページだけめくっていき、約二年ほど。魔女と対峙した際、書かれたように思われる内容だった。


「ねぇ……これ、とっても重要な手記じゃない?」

「ああ。そうだろうな……この時代では、魔女を倒せる者がいなかったみたいだ」

「五百年前で終わってるって、ちょうど白の魔女が誕生した年よね?」

「――白の魔女が生まれてから、新たな魔女は生まれていないんだよな……」


 主な内容は、自分の相棒について書かれている。

 なぜか意図的に隠された名前……。ただ、分かることはギーア・ルジストルという男が、相棒を最強の魔導師と自慢し、実験内容からして女だということ。

 『女が魔女を殺したらどうなるか? 歴史上、女魔導師による討伐記録はない。それを無謀にも相棒は実行しようとしている――』


「……確か、ペルル・プリエールが初めて魔女を討伐して姿を消したんだったか……」

「それ! わたしも知ってる! 戦闘の跡と、燃えた形跡が二つあっただったかな……」

「ああ。魔女の魔法は三日間消えないからな……。まさに、あの廃屋と同じ――いや、まさかな」


 ペルルが始末したと思われる魔女はすぐに調べて判明していた。それから何十年経っても、その魔女が姿を見せないことで本当に始末したと断定されている。

 ただ、最強の女魔導師ペルル・プリエールが亡くなった翌日、事件は起きた。遺体のないまま行われた葬儀の最中に、新たな魔女――白の魔女が、ペルルの亡くなったとされる街へ姿を現す。

 当時の記録は混乱の最中、英雄を悼むため持ち込まれた魔導具によって、意図せず悲劇の映像として残されていた。


 いまでも記録映像として極一部の者だけが閲覧可能になっている。


 この出来事があったことで、女魔導師は討伐を禁じられた。以前まで、男より魔法力が弱いから討伐出来ないと皮肉られていたが、実際は女魔導師の方が優れている。

 それは嫌な形でも実証されているのが、魔女症候群だ。ネフリティスもかかった魔力熱は、圧倒的に少女の方が多く発症していた。


「でも、魔女は女魔導師だから、そう呼ばれているんでしょ?」

「まぁ、そうなるな。魔法界は男社会だからな……歴史上で活躍した人物も男が多い」

「今回、わたしたちって何を目的に調べてるんだっけ……?」

「魔女の深い部分について……表向きじゃ分からないことだな」


 サフィールが見つけたギーアの手記はとても興味深い。

 『赤の魔女、来たる時。空は炎のように赤く染まる。青の魔女、来たる時。空は海のように青く染まる――』

 空など一々気にしていなかっただろうことまで一部抜粋して書かれていた。

 だが、肝心な部分が書かれずに終わっていたことから、作者であるギーアも当時亡くなっていることが分かる。

 『明日、実験の結果を明らかにする。それによっては、相棒を失う可能性もあるが……自分には止められない。これが最後にならないことを願って――』


 魔女を討伐する算段がついて、決行して帰らぬ人になったのが正しいだろう。

 ただ、ペルルは有名人だが、当時一緒に働いていた隊員の記録は一切ない。

 それは白の魔女が誕生した同日、二つの大都市を襲い、一つを更地に変えた。それがインフィニートである。当時、わずかに残ったのは時計塔。魔導院の総本部も残ったが、魔導隊の原型だった部隊は細かく資料をまとめていなかったらしい。


「ざっと見た限り、重要なのは女魔導師が魔女を殺したらどうなるかの実験か。この頃は、いま以上に魔女を討伐して減らすこと以外考えていなかっただろうからな……」

「あとは、空の色……? もしこれがペルルだったら、物凄い大発見だけど……。失敗したのかなぁ……なんか、分からないけど胸が痛いな」

「それに、思ったより時間が経ってるな。一度外に出て、ルベウスと合流しよう」


 胸に手を当て、元気を無くして見えるネフリティスへ掛ける言葉が浮かばないサフィールは、話題を変える。


 ギーアのいう相棒がペルルという証拠や確証は一切ない。ただ、魔導隊の中でも魔女を殺すこと以外で、独自に調べていた二人の勇敢な英雄がいたことは分かった。


 外に出ると太陽は沈み始め、黄昏時が近づいていることが分かる。

 辺りを探す間もなく、ルベウスの姿を発見して軽く手を挙げた。

 人気のない路地裏で情報交換するため、建物の横を通って角を曲がる。

 その刹那、背後で隠れる姿と視線を感じた。


 ネフリティスが言っていたように、居住区だからか出歩いている人間はいない。

 ただ、そんな路地裏でルベウスはもちろん、魔力感知が出来なくなったサフィールも背後から殺気に似た視線を感じて、壁に囲まれた建物が入り組んだ場所で立ち止まった。


「――尾行ならもっと上手くやれ」

「未熟な人間。出てきたらどうだ」

「えっ? 何々⁉ わたしだけ、気づいてないんだけど……」


 ザッと振り返る二人の前に、無表情な顔をした全体的にスラリとしているが、胸の有無は分かる女が現れる。

 項までの黒髪で、揃えられた前髪に鋭い一重の眼光は一身にサフィールを捉えていた。

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