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第21話 魔法書の都

 魔女になれなかった形損(なりそこ)ないのネフリティスだが、青白い光が包みこんだ秘湯はキラキラと輝き、硝子の割れる音がした直後サフィールはハッキリする視界に両手を水面から上げる。

 支えていたルベウスの腕が離れても自分の足で立て、震えが消えていた。

 ただ、気を張っていたことで倒れそうになるサフィールを受け止めようとしたネフリティスは交差するよう通り抜ける。


「大丈夫か」

「あ、ああ……悪い。力が抜けた――それから、ネフリティス。お前に救われた。有り難う」

「う、うん……。当然でしょ⁉ 会った当初から言ってたけど、わたしは天才美少女魔導師だからね!」


 再びルベウスに受け止められたサフィールは、複雑な表情で目が泳いでいるネフリティスへ首をかしげた。すり抜けたネフリティスは背後から横を回って前へ戻ってくると自慢げに胸を張る。変化をもたらした秘湯はキラキラ輝いたままだった。

 男の魔女であるサフィールがどうにも出来なかったことを、正確には魔女ではないネフリティスが相殺したことになる。


 サフィールの心配をよそに明るさを取り戻したネフリティスは、自分にも出来ることがあったことで空中を飛び回り喜んでみえた。


 服を着たままルベウスに乾かしてもらうサフィールは、地図を見ながら運悪く死にかけた元凶の魔女と行方不明な少女について考えを巡らせる。


「あの魔女は、間違いなく赤の魔女だった……と思う。ただ、俺たち以外の人間が気づいていないことから、普通は視認出来ない可能性がある。それと、魔女になった少女でもなかった」

「そう言われてみたら……そうかも! ただ、なんか……あの女を見た瞬間。世界が変わったっていうか……時間が止まったみたいに感じたわね」

「時間が止まったか……。言われてみると、あの女に目を奪われた瞬間。視界がすべて奪われた気はしたな……」

「時間の魔法は幽霊の専売特許と聞く。魔女は幽霊と反対の立場だが、生き物と言えるのか不明だ」


 服が乾いて立ち上がるサフィールは、おもむろに東の方へ向き直った。

 ルベウスが見せてくれた地図で、森を抜けた先に三大都市へ次ぐ大きな街がある。

 魔女について考えていたサフィールたちは数日で様々な知識を得たが、まだ足りない。

 その街は知識の宝庫である魔法書が溢れた“魔法書の都”と呼ばれている。


「此処に行こう。俺は一度も立ち寄ったことがない街だ」

「魔法書の都か。悪くない。あそこには様々な知識が眠っている」

「えっ⁉ 魔法書の都って、わたしが通ってた魔導学校もあるんだけど! 懐かしいなー……」


 嬉しそうな顔をしたと思ったら眉を下げるネフリティスは情緒が不安定に見えた。

 チラッと横目でルベウスを見るサフィールは、先導する後ろを歩きだすが「わたしが案内するんだからー!」と、再び元気な声で張り合っているネフリティスに肩を落とす。


 二人の案内で獣道を抜けた先に見えた街を見上げた。

 他の町とは違い、要塞のように厚い魔法鉱物の壁で覆われて中は見えない。

 ただ、街の上空を飛ぶ魔導師の姿があった。外からは侵入出来ないのか、近くを飛ぶ鳥は街へ近づいた途端方向転換して去っていく。


「……防護結界魔法の類か?」

「ああ。魔法書の都と呼ばれるだけはある。入るのも通行証が必要だ」

「わたしも、長期休みで自宅に戻ったときは魔導学校の徽章で通ってたなー」

「なるほどな……。俺は、魔導隊の徽章で入れるか?」


 懐から何度か活躍した徽章を取り出して厳かな門へと歩み寄った。

 魔法書の都だけあって、外から来る魔導師も多いのか列が出来ている最後尾で立ち止まる。

 中へ通される者、肩をすくめて来た道を戻っていく者が横を通り過ぎていった。


 さすがに門番へ喧嘩を売る頭の悪いやつはいないようで、平和な時間を過ごして順番が回って来る。

 ただ、どこの街もそうだが、門番も魔導隊員の管轄だった。


「おっ! 仕事以外で魔導隊員が街に来るのは久しぶりだな。歓迎するぜ」

「あ、ああ……そうなのか。長居する気はないが、邪魔する」

「妖精族も久しぶりに見たなー。デケェ……」

「身分証だ」


 ルベウスはどんな身分証を出すかと思っていたサフィールたちの目に、手に収まるほど小さい透明な杖が映る。

 ルベウスは小声で「魔力生命樹(マギア・リラフト)で作られた杖だ」と教えてくれた。

 何やら人間と友好を結んだ妖精族が共同で作ったらしい。だから杖としての役割はなく、通行証代わりになっていた。


「妖精族は最初から杖なんて必要ないしな……」

「杖に収まるほど小さな魔力は持ち合わせていない」

「うわー……これだから妖精族は! 人間だって、いまでは高等部までなんだからっ!」


 文句を言うネフリティスの声は当然ルベウスに届くはずもなく、騒音としてサフィールの耳へ響くだけである。

 一難あったサフィールにとって、初めて訪れた三大都市インフィニート以外で大きな街の門をくぐり抜けた先は、想像を超えていた。

 ルベウスが珍しいからか、数名こちらに視線を投げる姿も垣間見える。藍色のローブでフードを目深に被る怪しげな人物も……。


 中心に見える巨大な渦を巻いた純白の塔。目を引く建物は明らかに魔法書の都で象徴だと分かった。

 入ってすぐの表通りは見渡す風景も他の町と違って屋根は勿論、家屋の形すら統一感がない。

 魔法書の都へ来たことがある二人と違い、サフィールには刺激が強すぎたようで開いた口が塞がらない状態だった。


 左側を見ると青い巨大な本が開かれた状態で無造作に置かれていたり、右側には巨木で吊るされた魔法書まである。

 目が回りそうな光景の数々にも関わらず、あとから通された魔導師たちは顔色を変えることなく先を歩いていった。


「――この街……大丈夫なのか?」

「面白いでしょー! 魔導師の夢が詰まってるわよねー。魔法を研究してる人しかいないんだって!」

「……だから、魔法書の都なのか。それにしても、これは……目が回りそうだ」


 家屋も全面ガラス張りや、虹色だったり、透き通っている。様々な形の家屋があふれている表通りの中央で立ち止まるサフィールたちは、明らかに邪魔なため悪目立ちしていた。


 周りの視線で気づいて移動しようとしたとき、上空から小さな声が聞こえ、見上げてすぐ目を丸くする。

 魔法の箒で空を自由に飛び回る生徒らしい制服姿の少年少女が、杖を使って魔法を繰り広げていた。

 町中で魔法はご法度にも関わらず、教師まで一緒になっている。

 呆気にとられるサフィールは、羨ましさと寂しさが合わさったような表情で、数時間前まで死にかけていた自分がおかしくて肩を震わせて笑った。

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