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第17話 特殊魔導隊

 橋を渡った先にある町で滞在していた魔導隊に聞き込みしてすぐ、赤の魔女は被害の大きさから専用の特殊班が出来ているという情報を得る。インフィニートに在住していたサフィールは、白の魔女と遭遇してから担当にされていたため、他の魔女ニ体のことはまったく知らなかった。

 その情報を元に特殊班がいるという少し大きめの街へ向かう。


 半日ほどで到着した街はインフィニートの半分はある規模から、活気が見える。赤い屋根で統一された街並みは、沈みかける太陽で黄昏色に染まって鮮やかだった。

 到着してすぐ、街の人に魔導隊の常駐している施設を教えてもらい、裏通りに向かった。

 表通りとは違って静かな街並みに、魔導隊の施設に向かう間、少しずつ壊れた家屋が目につく。

 場所を教えてくれた街の人から物騒な話も聞かされた。


「実は……赤の魔女が襲撃した日に、魔導隊員の人も動こうとしたんですけど……。最近、巷を騒がせている物騒な連中にやられて魔導院に運ばれたと耳にしたんです……」


 少し顔を上げると、尖った帽子のような形をした黒い施設が見える。魔法歴の名残りである元魔法局を使った建物だ。

 昔のおとぎ話だと魔法使いは奇抜な帽子を被っていたらしい。


 路地を抜けて魔導隊のいる施設を前にしてサフィールたちは目を見張る。

 遠くからだと見えなかった施設は半壊していた。


「ねぇ……これって、さっきの話――」

「だが、施設の中に二つほど魔力を感じる」


 ルベウスの言葉で開け放たれたままの施設内を覗き込む。

 施設は二階建てだったが、黄昏時にしては薄暗く、明かりがついていないのが分かった。

 そんな中、ぼんやりとした影が二つ。ルベウスが近くの魔導灯に魔法で灯りをつけると、暗い顔をした二人の魔導隊員がいた。


「――何があったのか話してくれないか?」


 サフィールは一言だけ告げると、懐から魔導隊の証である徽章を見せる。事情を聞くと、魔女を崇拝する闇の結社による襲撃を受けて、仲間三人が病院送りになったと話してくれた。

 よく見ると二人も腕や足に包帯を巻いていて、顔にも薄い傷があった。


 闇の結社なるものを知らなかったサフィールは視線を横へ向ける。ルベウスは知っていたようで小さく頷いた。

 魔導隊員が話してくれた情報で、発足されたのは数十年前らしく、動機や背景は不明。


 また、襲撃した犯人も「魔女様に栄光あれ」といって自害したため証拠も残らず、自害の方法が赤の魔女の炎によるもので、魔導隊員二人は肩を震わせている。

 他の魔女たちにはなかった二体の特性……。赤の魔女の炎は死んでも三日は燃え続け、消すことすら叶わない。灰も残らないという。


「……闇の結社も人間じゃない……あんな死に方を選ぶなんて、化け物だ――」

「……不気味な組織だが、情報提供感謝する。あとは、俺たちに任せてくれ」

「……ふ、二人だけで……? 相手は、規模を拡大していまでは五十人前後いるぞ?」

「“人間相手”なら問題ない。魔女と比べたら、小さな数だ」


 呆気にとられる魔導隊員を放置して、外へ出たときには少しだけ肌寒く、闇が深まり微かに星が煌めいていた。

 魔導隊員を襲撃したのは、サフィールたちが立ち寄った赤の魔女が町を襲ったときだったと聞き、特殊班以上に魔女のことを把握している過激派の魔女崇拝者を、赤の魔女を探しながら探すことに決まる。


「今日は遅い時間だから、宿で一泊して明日の早朝に発とう」

「そうね! 睡眠は大事だからねっ! 賛成ー!」

「ああ。(われ)は関係ないが、貴様には必要だ。食事も提供してくれる宿が良い」


 妖精族であるルベウスの言葉はいつも同じだった。

 ただ、食事にだけはうるさいらしい。

 表通りに戻って宿を探し始めてすぐ食欲を唆る香りが漂ってくると、サフィール以外の二人が反応した。


「香辛料のとっても良い匂いがするんだけどー!」

「幽霊に匂いなんて分かるのか?」

「悪くない香りだ」

「いまの幽霊差別だからねー! 食べられないけど……味覚、触覚はあるんだからっ!」


 幽霊差別と言われてもサフィールは気にせず、二人が主張する匂いの発生源へ向かう。

 そこは酒場と宿屋が一体になっている建物だった。一階が大衆酒場で、食事も絶品と謳う店。二階が宿屋だ。朝食だけは泊まる際、伝えたら酒場のまかないを提供してくれると看板に書いてある。


「わたしは関係ないけど……ここが良いと思う!」

「ああ。仕込みが早いから早朝でも朝食を提供してくれるようだ」

「――って、どこに行ってるんだよ……」


 いつの間にか姿が見えなくなっていたルベウスは酒場の店員を掴まえて話を聞いていたようだ。

 ちょうど一部屋だけ空いているとのことで、サフィールたちは店内へ入ると受付を済ませ空いているテーブル席に座る。


 酒場は出入り口から活気に満ちていて、黄昏色の魔導灯が仄かに外へ漏れていたが、中はさらに明るく中央には中心に魔石が嵌った円型で、色鮮やかな宝石の装飾がされた大型の魔導灯がキラキラと輝いていた。


「あれは、金で出来た上質な魔導灯のアームに支柱だな」

「本当、キレイ……でも、そんな説明はいらないから! それより美味しい料理頼んでよー」

「食べられないのにか?」

「うぐぐっ……代わりに食べて‼ 見て楽しむからー!」


 騒がしい店内でサフィールの独り言にしか見えない小声は聞こえない。

 ルベウスは大体察しているようで、少しだけ表情が崩れていた。


 カウンターは敢えて作っていないのか、その分テーブル席が多い。代わりに窓側で一人席も用意されていて、静かに飲んでいる客の姿もある。

 出入口から反対側の壁には様々な酒が並んでいて、右側に調理場の入口。左側の奥に、二階の階段が佇んでいる。


 注文を取りに来た明るい茶色髪をしたおさげの店員に、ルベウスは食欲を唆る匂いがしたと告げた。笑みを浮かべる店員にお勧めと果実水を二つ頼む。

 サフィールはルベウスに対して不満顔だった。


「……俺に酒を飲むなって言うけど、アンタは飲まないのか?」

(われ)も嗜む程度に飲むことはある。だが、数日町に滞在するときだけだ」

「わたしたちは旅してるんだし、サフィールはお酒弱いんでしょー? うぷぷ……可愛い」

「……無視しても良いんだぞ?」

「ひっ……ゴメンナサーイ‼」


 平謝りするネフリティスに短い息を吐くサフィールたちの元へ果実水が運ばれてくる。不満げに口をつけるサフィールは他の客が話す言葉へ聞き耳を立てていた。

 その中で、重要な話をしている町の住人に自然と目線だけ動かす。


「まだ直せないのかねぇ……」

「ああ。闇の結社だか、知らねぇが、同じ魔導師を襲うなんて人間じゃねぇ」

「物騒なのは魔女だけでいっぱいだってねぇ……」


 闇の結社という名前も周知されているらしい。

 そのあと、二人が口を揃えた料理が運ばれてくると、サフィールも目の前に置かれた湯気を出す肉料理へ視線を奪われる。


「当店自慢のホロホロ肉のワイン煮だよー! 熱いうちに食べとくれ」


 店の前では反応が薄かったサフィールも喉を鳴らした。食べられないネフリティスも上からキラキラした眼差しを向けている。

 女将さんと思われる金髪の髪を後ろで束ねた元気な女性の声で、二人は料理に手をつけた。


 ホロホロ肉と言われるだけあって、ワインで煮込まれたことによりナイフを差し込んだだけで切れてしまうほど柔からかい。

 中からは肉汁が溢れ出し鼻に刺激を与えた。

 フォークで一口刺して口に入れた瞬間。ホロホロと舌だけで消えていく。思わず目を見張るサフィールに、ネフリティスはうっとりしていた。


「いいなー。凄い美味しそうー」

「……まぁ、悪くないな」

「素直になるのは悪いことじゃない。良い肉に味付けだ」


 ネフリティスの手前、素直になりきれないサフィールだったが、ナイフとフォークを握る手は止まらない。気づいたときにはルベウスより先に食べ終えてしまっていた。

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