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第16話 戸惑う事象

 海には陸の魔物よりも巨大で凶暴な魔物が多くいる。そのため、河口のある川にも稀に凶暴な魔物が入り込んだりしていた。


 太陽の光でキラキラ輝いて映る大きな川や、心地良い風に感動しているネフリティスを放置して、サフィールは視界に入る白い石で出来た大きな橋を注意深く目を細める。

 橋に異常は見られないが、チラッと横目で見据える川は透明で水質が良い。なのに、ある生き物が一匹も見えないのはおかしかった。


「……魚が一匹も見えないのはおかしくないか?」

「ああ。魚のいない川には決まって魔物がいる。この川は海に繋がっている時点で何かあると思っていた」

「えー? ……ん? こんな綺麗な川に魔物がいるの⁉ 言われてみると……魚が見えないかも……」


 幽霊の特性を活かすように水面に頭を突っ込むネフリティスは水中で何かを呟いていたがまったく聞こえない。

 当然、水に濡れるはずもないネフリティスが戻ってきて驚いていた。

 ただ、サフィールは何か思いついた様子で、わざとらしい爽やかな笑みを浮かべる。


「な、なんでわたしが……魔物探ししないといけないのよ⁉」

「魔物に幽霊が消滅させられる例は聞いたことがなかったからな」

「えっ……て、そういう問題じゃないわよね⁉ この天才美少女魔導師を、こういう雑用で使うとか信じられないんだけど‼」


 文句を言いながらも水中に体ごと潜って魚のように泳ぐネフリティスは橋まで向かっていった。実際は飛んでいるだけだが、橋の下まで進んだネフリティスは急に空中へ飛び上がる。


 飛び跳ねた魚のようにパクパク口を動かす姿に追いついたサフィールが、ため息をついたと同時に揺らめく黒い影が水面から飛び出した。


「……思ったより大きいな」

「海の魔物に比べたら小ぶりではある」

「きゃぁぁぁぁ⁉ 冷静な分析してないでくれる⁉」


 ネフリティスは魔物にも視えていないため、食べられても――そもそも幽霊は食べられるかも不明だが、存在を感知して飛び上がったわけじゃない。

 魔導銃を取り出して、すぐさま一発を(まと)の大きな腹に撃ち込む。被弾した体はバチバチッという音を立てて感電した。黒い煙が上がるもの、海の魔物とはいえ雷に耐性があったのか目標を見定めたように低い音を鳴らす。


 サフィールの攻撃を受けてから落下時間がゆっくりだと感じていたら、ルベウスが浮遊魔法を使っていることに気づいた。


「この魔物。一筋縄じゃいかないぞ。それから、少し先に三つの魔力を感じる」

「嘘だろう……。海の魔物で、浮遊魔法を使えるのなんて聞いたことがないぞ」

「サフィール! 狙われてる!」


 短い(ヒレ)が左右に二つついて赤い球体のような大きな体が空中に浮かび上がる光景は異様であり、落下する間に魔物が大きく口を開く。

 ルベウスのいう三つの魔力は魔法を封じられたサフィールに分かるはずもなく、視界に人の姿は見えない。

 魔物の体勢と口の大きさから直線的な攻撃だと分かり、回避すべく前に足を踏み込むサフィールの目に突然、青い帽子をかぶった少年が現れた。


 どこからともなく現れた少年は反対側から走ってきている。そのだいぶ先に男女の大人が走ってきていた。

 サフィールの耳に少年の声が届く。


「ヤッター! お父さんとお母さんに勝ったんだー!」


 少年が足を速くする魔法でサフィールたちのところまで走ってきたことが分かるが、間が悪かったとしか言えない。

 少年もサフィールと視線を交わしたことで、背後にいる赤くて巨大な魔物に気づいて一気に顔が真っ青になる。


 魔物の口は青い渦を巻きながら輝きだし、あっという間に(たけ)る水の閃光が走った。とっさに避けるのを止めたサフィールは魔導銃を構えて閃光目掛けて二発撃ち込む。

 一発目の魔弾へ二発目が着弾したことで、空中に大きな氷の塊が出来た。

 だが、魔力量に撃ち負けたのか、すぐに大きな音を立てて割れる。


「サフィール‼」

「クソッ……」


 ローブを翻して少年を庇うように背中を向けるサフィールを閃光が直撃した。

 ルベウスが防護魔法を展開するより早い動きに、二人揃って爆発で白い煙が立ち込める場所へ駆けつける。

 巨大な魔物も水陸可能じゃないのか、魔法を解除して再び水中へ潜っていった。


「――いまのはさすがに、装身具でも防げないと思ったんだけどな……」

「えっ⁉ うそっ……致命傷どころじゃない範囲だったはずなのに……」

「我も防護魔法を使っていない。無傷は、妖精族でもおかしいぞ」


 水中に潜った魔物は短い尾びれを何度か水面へ打ちつけたあと、ぐるぐると妙な動きをしている。まるで何かに怯えた様子で……。


 白い霧が晴れるように姿を現したサフィールは二人の心配をよそに無傷だった。

 本人も少年から手を離して立ち上がり、背中へ視線を向ける。体だけではなく、ローブに閃光が触れた痕すらなかった。


「……服すら通してないぞ――」

「――あの……! うちの子を、助けていただき……有り難うございました‼」

「……あっ……お父さん、お母さん‼」


 一部始終を見ていた両親らしい男女の青ざめた顔が、少年の姿を確認して一気に戻っていく。いっせいに頭を下げられる両親に抱きつく少年は声を上げて泣き始めた。

 とっさに体が動いただけのサフィールは感謝に対して眉を寄せる。以前のサフィールだったら、自分の身を呈して他人を守るなんて非効率なことはしない。確実に見捨てていたはずだった――。


「……別に。目の前で死なれても寝覚めが悪いから助けただけだ。気にするな」

「――有り難うございます‼」


 最後まで深く頭を下げる親子を尻目に再び歩き出したサフィールは、それよりも自分の体に何が起きているか分からず頭を押さえる。

 サフィールを挟むように横へ並ぶ二人は同時にあることを口にした。


「魔女の防護結界魔法」

「魔女の防護結界魔法じゃない⁉」

「……それは、あるのか――?」


 魔女は常に防護結界魔法を展開していて、三体の魔女に至っては通常の魔法で壊すことは不可能だった。つまり、白の魔女の魔法(呪い)で男の魔女にされたサフィールも同じ効果があるということになる。

 でも、サフィールは(さわ)れて、他の魔女とは違い防護結界魔法による魔法力も感じない。

 そこで再び白の魔女が言っていた言葉と、魔女の文字を思い出す。


「――『男の魔女。魔法を奪われた哀れな魔女に、祝福を……魔女(わたし)を殺して』……だけど、魔法は使えないはず――」

「うーん……魔女になったことで、勝手に追加された能力とか!」

(われ)が調べた限りだと、すべての魔女が防護結界魔法を備えていた」

「ああ……白の魔女もそうだ。俺は一度もあれを壊せずに、敗北した……」


 魔法は使えないが、魔女と同じ防護結界魔法を得られたのは大きい。

 サフィールたちが橋を渡るとき、穏やかな川に戻ったからか魚の姿が見える。色鮮やかでいて、斬新な姿をした海の魔物は完全に姿を消していた。

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