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第14話 課題は成長の元

 今後の課題として、体力づくりをすることになったサフィールは、少しだけ憂鬱そうな顔をしている。

 深夜ということで、魔導隊員であっても町から出る許可をもらえず滞在場所に戻ってきたからだ。


 赤の魔女による襲撃から数日経ったにも関わらず、外の見回りを入れて五人も滞在しているという徹底ぶり。

 元々宿屋だった施設の窓から映る壊れた町並みを見ても、サフィールの心が波打つものはなかった。

 ただ、少しずつ行動し始めた幽霊たちには胸の辺りがわざついて視線をそらす。


 サフィールの心情に気づくはずもないネフリティスは施設内を見て回っていたようで、ひょっこり背後の壁から現れた。


「ねぇ……最初はどの魔女を討伐したいとか、希望みたいなのはあるの?」

「そうだな……。いつ遭遇出来るかも分からないが、脅威としては白、赤、青か……」

(われ)も同意見だ。だが、白の魔女は行方不明。赤の魔女は、数日前に此処を離れた。他の魔女を探すより、遭遇する確率は高い気がする」


 部外者だからと隣の施設に連れて行かれたルベウスが、窓の外から姿を見せる。

 一瞬だけ目を見開いたサフィールは、他の魔導隊員に気づかれないよう大きく窓を開けた。

 軽々と中へ入ってきたルベウスの重そうな尻尾も音を立てることはなく床につく。


 神出鬼没な魔女は突然どこからか現れて、町や村を破壊して気づいたら消えている――それが、よく聞く話。

 ただ、魔女が町や村を破壊したあと、目撃情報も少なからずある。

 森の高い木の上で突っ立ていたとか、雲のように空を飛んでいたり、はたまた歌を歌っていたなんて話まで……。


「人形も、町や村を破壊するのに制限無視な魔力を使って、疲れたりすると思うか?」

「うーん……分からないけど。魔力量が多くても常に全開にしてたら疲れるわよね?」

「魔女を生き物に当てはめられないが、元は人間だ。肉体自体も人形ではない」


 自宅を破壊したことで魔女に関する資料らしいものはないが、それらはすべてサフィールの頭に入っている。

 当然、白の魔女以外は元になった少女たちの身元についても……。


 数も限られているということで、寝る場所は相部屋のためルベウスを入れるわけにはいかず、人気のない階段裏へ移動する。

 就寝部屋は二階なため、寝ずに頑張っている魔導隊員は足を運ぶことが少ない。ただ、すべてが終わった町で、寝ずに頑張る意味がサフィールには分からなかった。


「……ルベウス。他の町や村でも、魔導隊はこんなに頑張っているのか?」

「基本的に三人から五人は常駐していた。行く当てのない人間のために、早く復興させたがっていた」

「そこはサフィールにない海みたいなひろーい! 優しさよねー」

「……海には巨大で凶暴な魔物ばかりだぞ?」


 例え話を素で返すサフィールにネフリティスも目を見開いて引いている。

 そんなネフリティスの提案で、現在分かっている赤の魔女について共有することにした。

 サフィールが知る情報は、すべて魔導院から渡された資料で、調べたらすぐに分かることしかない。ただ、ネフリティスが知りたいのは魔女の元になった哀れな少女たちについてだった。


 サフィールに魔女のなり損ないと言われたことで、ずっと気にしていたらしい。


「全部サフィールが悪いんだけどね!」

「俺は本当のことしか言ってない。まずは、素性だ。……名前はメラ・レジアス。上流貴族の令嬢だな。派手な衣装をして大人ぶっていたが、おとぎ話に出てくる王族へ憧れていたらしい」

「王族っていうとお姫様よね!? 分かるなー……女の子はみんな憧れてると思う!」

「発症は十六で、亡くなったのは……約六百年前」


 途方もない年月にネフリティスは口を開いたまま静かになる。白の魔女が誕生して約五百年。魔女は生まれていないことから、他二体の方が生まれた時代は古い。

 他に有力な情報を頭から引っ張り出すが大したことはなく、静かに聞いていたルベウスに話を振ろうとして、ネフリティスが手を挙げる。


「ねぇ、聞いてたら思ったんだけど……。多分、重要なことじゃない話」

「気づいたことがあるなら聞いてやる」

「髪飾り……王冠みたいなのをつけてるんでしょ? それって、おとぎ話に出てくるお姫様じゃないかなって」

「……大したことじゃないな。だけど、基本として人形に変貌した魔女は素体を模したりはしないはず……」


 魔女になった瞬間、素体の魂が消滅することを、魔法界で知らない者はいない。

 今年、新たな魔導院が発足されて、魔女について動いているという情報を魔法新聞で知った。約千年経って、いまさら魔女を討伐すること以外で何をする気かは分からない。

 一年毎に投票で決められる魔導院の魔導師で一度選ばれた者は、五年経たないと再びなることが出来ない決まりだ。

 ただ、五年経って再び選ばれた魔導師は千年の間いなかったが――今年は一人だけ、同じ男の魔導師が選ばれている。

 しかも、サフィールと無関係じゃない男だった。


「今年になって魔導院も魔女の生体について調べているらしいからな……いままでは、討伐することしか考えていなかったのに」

「貴様に見せた魔法新聞ではない過去の掲載で、五年経って魔女の有益な情報を持ってきた男と話題になっていた」

「ああ……アンタみたいな食えない男だ。俺の同期で、二十歳にして魔導院に選ばれたエルピス・ファクト」

「えっ⁉ サフィールに親しい同期とかいたんだ! 魔導隊でのってことよね」


 興味津々なネフリティスを無視してサフィールはため息をつく。十八で魔導隊に入隊して馴れ馴れしくしてきたエルピスは、当時から魔女について独自に調べていた。

 そのときは異質な男だと孤立していたが、魔導隊の実績と魔女に対する熱量によって、当時二十歳という若さで魔導院最年少の枠を勝ち取り、一躍世間を賑わせた実力者だ。


 ルベウスが再び懐から古びた魔法紙の束を取り出して、だいぶ後ろまで巡っていく。

 赤の魔女は白の魔女より百年早く生まれたが、もう一体と比べたら若い方だ。


「赤の魔女は生まれたときから現在までで、白の魔女に続いて多くの人間を殺している。その当時、生きていた人間たちにとって災厄の時代と言われていた」

「まぁ、あの炎じゃな……。それを上回る白の魔女は笑えないが」

「それなのに、何度も一人で挑んだんでしょ? サフィールも人間代表で凄いじゃない!」

「俺の場合……なぜか、白の魔女は俺の魔力が尽きる前に戦線離脱していたから、なんとかなっただけだ」

「へぇ……それも不思議な話ね? なんだか見逃していたみたい」


 サフィールは二十歳から五年間で二体の魔女を討伐した経歴がある。

 だからこそ、始めて白の魔女と対峙したとき、まったくの別次元であることを肌で感じていた。

 討伐した個体は、すべての魔女が備えている防護結界魔法も難なく破壊出来、人形と変わらない体を魔法で貫いて……。

 その実績でサフィールは死刑執行者(ラモール)ナンバーワンに上り詰めた。


 隠れて話をしていたところ、廊下から複数の声が聞こえてきて近くの窓を開ける。


「そろそろ、就寝するのかもしれない。今後についても、此処を立ってから話そう」

「分かった。人間にとって睡眠は大事だ」

「そうよね! わたしや妖精族は問題ないけど、サフィールは寝るのも仕事よ!」

「ああ、分かった。お休み」


 窓から清々しく去っていく後ろ姿を見送る最中、遠目に流れる煌びやかな髪へ目を奪われた。


 色素の薄い茜色……。


 暗がりのため顔は見えなかったが、不思議と風で流れる髪の色だけはハッキリと視認でき、目を奪われたサフィールは耳元で叫ぶネフリティスの声すら暫く聞こえていなかった。

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