お内裏様とお雛様
それは2月下旬の事だった。高橋夫妻は悩んでいた。そんなにお金がない。だけど、今年の端午の節句のためにひな壇とひな人形は揃えないと。1人娘の光がすくすくと育ってくれるために必要な事だし、日本の伝統行事だ。なんとしてもやらないと。
「端午の節句はどうしよう」
「そうだねぇ・・・」
2人は人形店に来ていた。だが、なかなか見つからない。どれも高いのだ。それに、安いものはみんな売り切れている。こんなにもして、ひな祭りをやらなければならないんだろうか?
と、高橋夫妻の妻、菜美恵は何かを見つけた。それは、とても安いひな壇とひな人形のセットだ。それらは少し古いものの、まだまだ使えそうだ。とても気になるな。
「あれっ、これは何だろう」
と、そこに店員がやって来た。店員はどこか怪しげな表情だが、優しそうな口調だ。高橋夫妻は全く怪しいと思っていなかった。
「あぁこれ? いい噂、聞かないんですけど、いいですか?」
店員は少し困ったような表情だ。このひな壇に何かあるんだろうか? あるんだったら、話してほしいな。
「いいですよ。安いのなら」
だが、2人は買う事にした。安いのならそれでいい。お得にひな祭りを楽しめるのなら。
「わかりました」
2人はそのひな祭りセットを購入する事にした。その様子を見て、店員は何かを思い浮かべていた。
後日、そのひな祭りセットは高橋夫妻に元に届いた。そのひな祭りセットはとても素晴らしいもので、どこか歴史を感じる。高橋夫妻は見とれていた。こんなに素晴らしいひな祭りが、この値段で買えるなんて。まるで夢のようだが、これは現実だ。
「これがそのひな祭りセットなのか。なかなかいいじゃないか」
「でしょ?」
少々ほこりまみれになっていたものの、店の人がほこりを取って、新品にしたという。まさかここまでしてくれるとは。商品をとても大切にしているんだな。
「歴史を感じるデザインだ」
「そうね」
2人は時間を見た。そろそろ寝る時間だ。明日はひな祭りだ。この日、夫の宗太朗は仕事があるものの、菜美恵と一緒に楽しもう。帰ってきたら、宗太朗も祝おう。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみー」
2人は2階に上がり、寝る事にした。菜美恵は1階の電気を消した。その時、菜美恵は知らなかった。その雛人形が動いているのを。
その夜、2人はとんでもない夢を見た。そこは戦国時代の日本のようだ。周りには武士がいて、剣を持っている。戦のようだ。まさかこんな夢を見るとは。とても驚いていた。
「うーん・・・」
「えっ、ここは?」
やがて2人は戦に巻き込まれ、剣で切り付けられ、殺されてしまった。お腹からは血が流れている。
「うわぁぁぉぁぁ!」
真夜中、2人は目を覚ました。どうやら夢だったようだ。だが、あまりにもリアルで、とても怖かった。どうしてこんな夢を見たんだろう。全くわからない。
「どうしたの?」
宗太朗は横を向いた。菜美恵がいる。菜美恵も汗をかいている。同じ夢を見たんだろうか?
「いや、なんでもない。ていうか、そっちも悲鳴を上げてたじゃないか」
宗太朗は知っていた。今さっき、寝ている菜美恵も悲鳴を上げていた。
「なんか、侍に斬られる夢を見たの」
「僕も」
まさか、2人とも同じ夢を見るとは。いったい、どうしてだろう。何か、不吉な予感の前兆だろうか?
「どうして私たち、同じ夢を」
その後、2人は再び寝たものの、やっぱり侍に斬られる夢を見た。2人はあまり寝た心地がしないまま、一夜を過ごした。
2人はいつものように目を覚ました。だが、明らかに普通とは違う。寝不足なのだ。あの悪夢のせいで、あんまり眠れなかった。今日1日、やっていけるんだろうか? 不安でいっぱいだ。
菜美恵はいつものように朝食を作っていた。だが、少しふらふらしている。あまり眠れていないからだ。だが、光はいつもの表情だ。全く気にしていないようだ。
「おはよう」
菜美恵は振り向いた。宗太朗がダイニングにやって来たようだ。宗太朗も眠たそうな表情だ。宗太朗もあまり眠れなかったのか。一体、どうしてだろう。
「おはよう」
宗太朗はテーブルに座ると、ため息をついた。昨日の夢の事が忘れられないのだ。いったい何だったんだろう。全くわからない。
「悪夢を見たせいで、気分が悪いわ」
「そうね」
結局、2人とも橋が進まなかったという。光はそんな両親の様子を不思議に思っていた。
食べ終わり、そろそろ宗太朗の出勤の時間だ。宗太朗はすでにスーツに着替えている。出発の準備が万端だ。宗太朗はニュースを見ている。そういえば、今日は端午の節句だ。なのに、光と一緒にいられなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
宗太朗は時間を見た。そろそろ出発する時間だ。早く行かないと。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
宗太朗は出勤していった。菜美恵はそれを見送っている。
「はぁ・・・」
菜美恵はため息をついた。今日は端午の節句だ。光をお祝いしないと。
「光ー」
菜美恵はリビングに戻ってきた。だが、いるはずの光がいない。どこに行ったんだろう。まさか、リビングを出てどこかに行ったんじゃないだろうか? 危ない所に行って、けがをしたら困る。
菜美恵はひな祭りセットの置いてあるお座敷にやって来た。そこには光がうつぶせで倒れている。眠ったんだろうか? 菜美恵は起こそうとした。だが、光は起きない。完全に眠っちゃったんだと思っていた。
「あれっ、光?」
だが、菜美恵は異変に気付いた。光の頭から血が出ている。そして、体が冷たい。えっ、何者かに殺された。しばらく菜美恵は硬直した。目の前の光景が信じられなかった。
と、菜美恵は何かの気配を感じ、振り向いた。そこにはお内裏様の衣装を着た侍だ。
「えっ!?」
次の瞬間、侍は菜美恵を斬り付けた。まさか、こんなのが出るとは。
「キャー!」
斬り付けられた菜美恵は即死だった。だが、誰も気づかなかったという。
夜になって、宗太朗が帰ってきた。まさか、菜美恵が殺されているとは知らずに。
「ただいまー」
だが、菜美恵の声がしない。普通だったら、菜美恵のおかえりの声があるのに。
「あれっ、ただいまー」
だが、菜美恵の声がしない。どうしたんだろう。
と、宗太朗は血の気を感じて、座敷にやって来た。座敷には、菜美恵と光が倒れている。それを見て、宗太朗は驚いた。
「菜美恵、菜美恵!」
だが、菜美恵は反応しない。光も動かない。一体、何が起こったんだろうか? 誰かが侵入して、殺したんだろうか?
「どうして・・・、誰が・・・」
と、宗太朗は何かの気配を感じて、振り向いた。だが、そこには誰もいない。宗太朗は首をかしげた。
「ん?」
宗太朗は前を向いた。そこには侍がいて、宗太朗を斬り付けようとしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げた瞬間、宗太朗も侍に斬り付けられた。宗太朗も即死だった。
これは噂だが、そのひな祭りセットを飾った家は、家族全員殺されているという。