第四夜 噂とキモい夜
教会の外に走って去った信者たちは
今見てしまった出来事を話し
出来立てホヤホヤのお話は
すぐに町中に広がり
町から街へ、西都リュウにあっという間に広がった。
西都リュウから王都へ。
王都から地方都市へ。
王都からから国中へ。
国から隣の国へ。
稲妻のように話は駆け巡った。
噂に、もちろん大きな尾ひれもついて。
曰く
醜い2人の男女が
大勢の信者や教皇・高位聖職者たちが見守る前で
激しく2人で腰振りダンスを踊っていたと言う… .。
各国の政治にまで口を出していたその教会を
疎ましく思っていた各国も
積極的に噂を利用し
あっという間に教会を崩壊させた。
後に
もしかしたら、あのこ汚い聖職者が
ピンクのゴールデンフィッシュレディーに手を出そうとしたから
あの教会は崩壊したらしい
と噂も立った。
大騒ぎだった教会で
何人かが聞いたという。
美しい女の高笑いが響いていたと。
「ピンクのゴールデンフィッシュレディーに手を出すな。
世界一の権力者がその椅子から転げ落ちいるぞ」
そんな噂が西都リュウに
湖に一雫落ちた後の
水紋のように広まっていく。
それでもいつもと変わらず
ゴリラの獣人シェルドは
噂を気にすることなく
月に1度
満月の夜に「ゴールデンフィッシュ」の
看板の明かりを灯している。
噂が噂を呼び
せめてそのピンクのゴールデンフィッシュレディーを
一眼見たいと男たちはやってくる。
彼女の柔らかそうな唇を彩る色香に惑わされたくて。
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「コーラルたん!
パパは言いましちよね!
あの、ハゲ散らかしたおっさんに
関わったらメッ!よっていいまちたよ!」
いかついゴリラの獣人のおっさんが、
手のひらに乗るくらい
小さな黒いほわほわの毛の子猫に
気持ち悪い赤ちゃん言葉で怒っている。
ここは
ゴリラの獣人シェルドの自宅。
シェルドの自宅は
食堂の2階にあり
そこで3匹の子猫と住んでいる。
シェルドの掌に乗る
ほわほわの黒い毛に覆われた子猫は
首を可愛らしくかしげた。
愛くるしいまん丸で金色のおめめ。
少し大きな耳。
長いしっぽはクルンと巻いている。
よく見ないとわからないけれども
額にはピンクに輝く宝石があり
その爪も同じくピンクに輝いている。
「うにゃん。パパ!
コーラルは何も落ちてましぇん。
ちょっとおてちゅだい(お手伝い)
しただけでしゅ!」
「それもめっ!
ラインは変態だから
近付いてもいけましぇん!」
「おい!」
柔らかな太陽の光を集めたような金髪を持つ美丈夫の
元勇者ラインハルトが鋭く突っ込む。
だがシェルドはラインハルトをきれいに無視して、
コーラルと呼んだ子猫を大事そうに抱え込む。
「コーラルたんはかわいいから、
自然とおっさんが近づいてくるでしゅよ!
あー!
やっぱりゴールデンフィッシュナイトは
やめたほうがいいかもしれない…。」
「そんなことしたら
あの子猫たちは勝手に娼館に働きに行くぞ!」
「ダメだ!、パパの心臓がもたないでしゅよ〜!」
いかついゴリラの獣人のおっさんが体をくねらせ、
それでも手に乗せた子猫を落とさないという
器用な芸を見せてくれる。
「シェルド、あなた気持ち悪いんだけど・・・。」
魔法使いコーネリアが呆れたように言う。