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一目惚れ。

「だっ…誰だお前は!!」

 俺は目の前の光景を目の当たりにしてそんな怒号の声を発する。心拍数がバクバクと上がっていくのを感じ、身体も雪の降る寒い日の様に小刻みに震えている。頬には飛び散って来た生暖かい鮮血がこびり付いており、それは俺に死を間近に感じさせる要因にしては十分過ぎる程だった。

「少年、生きてるかしら?」

 極めて日常的な…まるで喫茶店で偶然出会った級友に話し掛けるかの如き口調の女性。"血がドップリと付いた銀色に輝くナイフ"を真っ白なハンカチで拭いている彼女にとっては、それが日常なのかという気さえしてくる。

 彼女は風貌こそ二十代前半…下手すれば十代にも思えそうな若々しい見た目をしており、艶やかな黒髪に色白で美形な顔立ち…そして女性的な身体の魅力を残しつつも無駄を削ぎ落としたかのようなスレンダーなスタイルをしている。しかし、発している雰囲気はいくつもの死線をくぐり抜けてきたかのような熟練の猛者を思わせるものだ。

「これは…何だ…?」

 女性に踏みつけられて動かない死体に視線を向けて俺は思わずそう零す。

___刹那の出来事だった。突然正面の紅い眼をした男に襲われたかと思えば、次の瞬間には女性がその男をナイフで刺して殺していた。

「申し訳ないわね…本当は一般人である君に、この惨状を見せるつもりは無かったのだけども」

「…?」

 優雅な…されども何処か毅然とした様な佇まいをした彼女は、血を拭き終わった銀のナイフを脚に付けているホルダーに仕舞い込む。そして両手を広げ、腰を抜かしてヘタリ込んでしまっている俺を見下ろす形でこんな質問を投げかけてくる。

「貴方は吸血鬼を知っているかしら?」


____この数年、俺は命を救われた彼女の元で吸血鬼を殺すための修行を行ってきた。戦闘能力、技術力、判断力、適応力…吸血鬼を殺すために必要な様々な力を、直接この身に叩き込まれた。結果、俺は師匠である彼女に「一人前」と認められる程の実力を得ることが出来た。

 そして今日、俺は初めて単独で吸血鬼を狩りに行く。どうやら師匠曰く、これが俺にとって"見習い吸血鬼ハンター"としての最初の任務で最後の試練らしい。

「すぅ…はぁ…」

 軽く息をつき、改めて装備の確認をする。腰には拳銃と弾薬、脚にはナイフが3本、そして背負っているショルダーバッグには予備の弾薬などの諸々の物資が入っている。

 人気の無い路地の角、抜いた拳銃を構えている俺は耳を済ます。この角を出た所から数mの位置から足音が聞こえてくる。足音はこちらに向かってきており、数秒後には今いる角に辿り着くだろう。

 コツコツコツ…と足音を立ててゆっくりと進んでくる。俺との距離が9m…7m…5m…と縮まる。

「・・・・・」

 足音が3mまで近づいて来た瞬間、俺は角から出て相手に姿を現して銃を構える。

「・・・!?」

「え…ど、どなたですかっ…!?」

 殺すつもりだった。人を喰らった吸血鬼は人類の敵だから。それが正しいと思っていたから。だが、その考えは"その姿"を一目見ただけで完全に書き換えられてしまう。

「可愛い…」

「・・・ん…?今何と?」

「可愛すぎだろ…!!」

「ひゃひゅっ…!?」

 そう、目の前の吸血鬼は可愛い過ぎたのだ。「可愛いは正義」そんな言葉を昔聞いたことがあるが、当時の俺はその言葉にピンとこなかった。

 しかし、今の俺ならば理解出来るだろう。可愛さ…それは今まで自分の信じてきた正義を書き換える程の力を持っているのだと。

 銀髪の長い髪の毛は漆黒のリボンによって両サイドで括られてツインテールになっており、吸血鬼特有の紅い瞳も通常と比べると透き通るように見える。肌の色は師匠に負けず劣らず白く、手足は何もしなくとも折れてしまいそうなほど華奢だ。そして何より、その顔立ちがめっちゃタイプ!僕が思わず放った言葉を聞いて少し赤らめられている頬が尚良い!この瞬間俺は運命の赤い糸で繋がれているかの如く確信した。この少女が俺にとってのお姫様だと・・・

「なあ、俺と一緒に逃げないか?」

「はひぃっ…!?」

 そう、つまるところ俺は一目惚れしてしまったのだ。この最高に好みな銀髪の"吸血姫"に___

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