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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

帰り道の怪談

作者: 狗ろA夏

「あっぢぃ〜……。」

じんじんと皮膚を刺すような日光に、嫌気がさす。コンクリートに照りつける熱は、陽炎となって視界を歪ませる。あまりの暑さに、無意識に日陰をさがす。最後に日陰に入ったのは、知人の家の玄関に訳あってクーラーボックスを置いてきた時以来だ。今はその帰り道、照りつける日に耐えながら一人家へ向かっている。

「あのクーラーボックスの中にあったアイス三本ぐらいくすねときゃ良かった…ちくしょー!」

まあ、要は帰ればいいのだと思うことにした。そのためなら、多少遠回りになっても日陰を通りたい。例えばここからなら商店街が近いだろう。あそこならほとんどの場所に屋根がついているし、人通りも少ないはずだ。

「や〜っと着いた……。」

あいつの家から5分とかかっていないはずだが、この暑さのなかでは体感30分くらいに感じる。休日にもかかわらず、人ひとりいない商店街は、ほんの少しだが涼しい。それに、この俺佐伯はちょっとしたオカルトマニアでもある。この商店街、実は怖い噂があるのだ。

…しかし、何でガキの時行ったきり来なかったんだっけ?まあいいか。その噂というのは、この商店街の横を流れる川に、呪いたい者の髪の毛と自分の爪を3枚剥がして川に流し、『ミグヅリさま、ミグヅリさま、ミグヅリさま、これで○○を呪ってください。』と唱えると、呪いたい者に一つ呪いが降りかかるのだそうだ。自分の爪を3枚と相手の髪の毛さえ用意すれば何回でも呪えるが、この儀式を人に見られてはいけない。もしも見られたら、見たものを殺さなければ逆に自分が呪われてしまうのだそうだ。

「ん?じゃあハゲなら最強じゃん。呪われないから。」

そんなふざけたことを考えられるほどに、ここは涼しかった。今思えば、それはある意味異常だったのかもしれない。

ぶぢり、という生々しい音と、低くくぐもった女のうめき声を聞いてしまった。絶対に見てはいけない。見つかってはいけないと、このオカルトマニアの知識が警鐘を鳴らしている。だが、好奇心を抑えきれなかった。それが大きな間違いだった。

商店街の壁から、川の橋に立つ女。右手にはペンチと、少量の髪の毛を持ち、左手は血に染まった爪を、震えながら握っている。どうやら、あと1枚で3枚のようだ。指先からもだらだらと血が流れている。

ぶぢり。最後の1枚を女が引き剥がす。小さなうめき声だけが聞こえてくる。よくそれだけのうめき声で済むものだ。彼女は一体誰を呪おうとしているのだろうか……。

「ハァ……ハァ……ミグヅリさま、ミグヅリさま、ミグヅリさま…これで………佐伯時也を…呪ってください……。」

「ッ!?」

「誰だっ!!」

思わず声を漏らしてしまった。いや、誰だってそうなるだろう。『佐伯時也』は、俺の紛うことなき本名なのだから。いろいろと気になることはあるが、今はとにかく逃げなくてはどのみち殺される!

「までぇ!!!」

必死に逃げるなか、走馬灯のように駆け巡る記憶。思い出のように重ね合わされる記憶。

あぁ、思い出してしまった。昔、ここで一度だけ見てしまったのだ。何とか逃げきれたが、その時に髪の毛をちぎられて、ものすごく痛くて怖かったのを覚えている。不幸なことに、その時は学校の帰り道で、名札をつけたままだった。まさか……あの女……!

とにかく力の限り逃げる。こんなところで俺は死ねない。

「止まれ!!殺してやる!!!」

幸か不幸か、身長が伸びたり髪色を変えたりしているせいか、俺が佐伯時也本人だということに気がついていないようだ。しかし、なぜこんなにこの商店街は長いんだ。段々と足に疲れが募っていく。

「ッしまっ!?」

なんでもない段差に、つまづいて転んだ。転んだ拍子に右足を左足で思い切り蹴ってしまった。

「い゛っ……」

激しい痛みに耐えながら起き上がる。その間にも、あの女は死にものぐるいで追いかけている。下敷きになった右足を庇いながらとにかく走る。

そのまま横断歩道を脇目も振らずに駆け抜けた。神に選ばれたのか、女の前で信号は赤く光る。

しかし女は止まらなかった。道路に飛び出した女に、乗用車が突っ込む。

「危ない!」

もちろん、もう遅かった。脳裏に焼き付いたのは、宙に浮いた女の、ありえない方向に曲がった腕だった。けたたましく鳴り響くクラクションがなり終わるのと同時に、鈍い音がどしゃ、と聞こえる。

「き、救急車!」

我に返り、携帯電話を取り出し震える手で119と入力する。幸いにも病院の近くで、数分程度で救急車がついて女は運ばれて行った。

その後、無事ではすまなかったが、家に帰ることができた。気晴らしにアイスバーでも食べようかと思い切りかじると、何か固いものが歯に当たる。慌てて口からそれを出すと、その固いものは人の爪だった。

最後に出てきた人の爪が「呪い」なら、今回儀式に失敗した女は、今回以外にも佐伯に呪いをかけていたことになりますね。一体女は何回佐伯に呪いをかけたのでしょうか。何枚の爪を犠牲にしたんでしょうか。佐伯のこの後がとても気になりますね。

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