記憶
気が付くと私はあそこに居た。親の居ない又は親に捨てられた子供が集まる施設、いわゆる孤児院と言われるところだ。
そこでの生活は毎日が楽しかった。友達の名前はわからなかった、厳密にいえば字が読めなかったではなく皆名前がなかったが正しいのだがそれでも仲良く過ごしていた。
施設に居た子供たちは皆様々な過去を抱えている。その中で多かったのは虐待で、私も実の母親に虐待されていた。「愛し方がわからないから」とか「私が育てたら不幸になる」とか母は施設のスタッフに話していたがそんなの綺麗ごとで、ただ単純に母は私を捨てたのだと齢六歳で理解した。本当のところは新しい男が出来たとかそういう理由なのだろう、今になってはそれを知ることはできない。
施設の生活は家での生活より全然快適で楽しかった。家では毎日のように罵声と暴力を受け、体だけではなく心もじわじわと傷だらけになっていくことに気づくのはそう遅くはなかった。自分の中に闇のように黒くて歪な何かが少しづつ膨らんでいく感覚がし始めたのは確か四歳のころだったろうか。もし、施設に行くことなくあの生活を続けていたら、その黒くて歪な何かは私の心だけではなく体も飲み込んできっと人間ではない何かになっていたかもしれない。
施設に来てからはしばらくの間誰とも関わらなかった。また傷つけられるのが怖かった、もう痛い思いをしたくなかったから。だが、同じような境遇の子供がいると分かってから打ち解けるのは早かった。半年もすれば施設の生活に馴染んでいた、この頃の生活は本当に楽しかった。時間も忘れて遊んで夜は皆で眠くなるまで話して気が付いたら寝ている、こんな生活がずっと続けばいいと思ったそれを願った。だが、こんな生活は長くは続かなかった。そんなんことに気が付くはずもなく明日に心躍らせる。
おやすみなさい。