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逆かくれんぼ

作者: 辻端耕太郎



子供の頃に『逆かくれんぼ』をやったことはあるだろうか?

高鬼、缶けり、ポコペン、ケイドロetc.

かくれんぼ・鬼ごっこの派生ゲームには様々なものがあるが、そういうバリエーションの一つがこの『逆かくれんぼ』だ。

かくれんぼでは通常、『鬼』役は一人だ。

そして『鬼』役を持ち回りで担当したり、毎回じゃんけんで決めたりする。

時には捕まった人がどんどん鬼化して増殖していくルールで遊ぶこともあった。これは俺の地元ではゾンビ方式と呼ばれていた。


だが、『逆かくれんぼ』では、一人を除いて全員が『鬼』の状態から始まる。

そして隠れている『人』を見つけた『鬼』は、こっそりと自分も『人』になり、隠れてよいというルールだ。

ゲームが進むにつれ『鬼』はどんどん減っていき、『人』が増える。そうして最後まで『人』になれず、『鬼』のままだった者が敗者となるわけだ。

『鬼』が大勢いるうちは、自分が『鬼』でも心の余裕がある。だが、いつの間にか『鬼』はどんどん減っていき、それを感じるにつれ、焦りが募っていく。そしてついに唯一人、『鬼』のままで取り残された者は、『人』になった全員から負けを宣告され、その瞬間に何とも言えない惨めな気持ちを味わうことになるのだ。俺はこの遊びが苦手だった。



※※※


ふと気がつくと、俺は『鬼』のまま社会から取り残されていた。

かつて『鬼』だった仲間達は次々と就職し、家庭を築き、『人』になっていった。

つい最近までは『人』になりきれず『鬼』のままで暮らすものが少数ながらいたので、ひそかに安心していたのだが、彼らもいつの間にか『人』の中に溶け込んでいったようだった。


かつて、俺は自分が『鬼』であることが好きであった。

さっさと『人』になった方が、生きるのは楽なのかもしれない。少なくとも一般にはそう信じられているから、生まれながらに『人』であった者は、わざわざ『鬼』になろうとするものはいなかったし、『鬼』として生まれた者はこぞって『人』になろうとしていた。

だが、俺は『人』になろうとする努力を、真剣にしてこなかった。

正直今でも、どうしても『人』になりたいかどうかと聞かれると、微妙に返事に困る。

だが近頃になって、このままでいいのだろうか、などと考えている自分が、確かにいるのだ。


※※※


『鬼』がこの社会で生きていくためには、少なくとも表面上『人』と敵対しないでやっていくことが必要だ。『人』と仲良くできなかった『鬼』は、さっさと狩られて滅んでいった。


そして今まさに、俺は同胞である『鬼』を狩ったところだ。『人』に協力して、悪さをした同胞を追い詰め、ブッ※した。それが俺の仕事だからだ。


※※※


『人』が『鬼』を狩る時には、どうしても『鬼』の助けが要る。

『人』にとっての好都合な暴力装置が、俺というわけだ。

この稼業をやっている限り、俺は『人』にはなり得ない。

『人』にとって必要なのは『鬼』としての俺だからだ。



※※※


問題はこの社会の仕組みが『逆かくれんぼ』のルールに似ていることで、『鬼』のまま取り残されると、ずっと『人』にはなれないということだ。

俺は『鬼』でいる期間が長すぎた。今さら真っ当に『人』にはなれないだろう。


それでも案外生きていけるものだが、どこかで詰む時が来るのかもしれない。(まあそれは『人』であっても一緒かもしれないが)



※※※


ところで、ついさっき俺が狩った『鬼』は、自分が『人』であると思い込んでいたらしい。『鬼』ではないと思っていたらしいのだ。いや、そう思い込もうとしていたのかもしれない。

その思い込みの結果、『鬼』のツノを隠しもせず、人前にでて自由に振る舞いすぎたために目をつけられて狩られることとなった。

「やめてくれ!私は『鬼』じゃないんだ!私は『人』なんだ!」

その断末魔の叫びと表情は、頭にこびりついてしばらく忘れられそうにない。


※※※


これを読んでいる君が『人』である場合。

おめでとう。せいぜい人生楽しんでくれ。もし自分が『人』であるというのが思い込みでなければ。



もしまだ君が『鬼』であって、そこそこ若い場合。『人』になる機会を失わないうちに、一度生き方を真剣に考えておくといい 。

考えた上で『鬼』であることを選ぶのなら、好きにしてくれ。


『鬼』として長年生きている場合。

お互い強くいきましょう。せめて狩られないようにしてね。俺の仕事増えるから。それか仕事代わってくれ。


〈終〉


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と考えさせられる作品でした。 2回読んでしまいました♪ かくれんぼをしている時に 誰かが姿を消してしまうのは 一度は人間になった鬼が もう一度、鬼へ戻りたいと願った時に 起こる現象な…
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