my girl-2-
「ルカー、携帯持ってる?」
バイトが終わってぐったりしながら家に帰ると、美紅がリビングで待ち構えていた。
「え?」
そう言えば、授業前にマナーモードにして、そのままバイトに行ったので鞄の中に放置したままだ。
ルカは元々携帯に依存しているタイプではないので、一度マナーモードにするとその存在自体を忘れることも多々あり、連絡の取れない美紅にこうやって睨まれることは珍しくない。
「もー。何のために携帯してんだか」
「ごめん、ごめん。何か用があった?」
「ゆかりがさ、連絡取りたいからライン入れたけど全然既読付かないから心配して電話してきたのよ。後で連絡したげて」
「わかった」
「じゃあ、お風呂まだお湯入ってるから、出る時ついでに掃除しといてね」
「えー? 俺仕事帰りだけど」
「大した手間じゃないでしょ。そのかわりと言っちゃなんだけど、ごはん残ったから冷蔵庫におにぎり入ってるから、食べていいよ」
「うっ……それはありがたい、けど」
賄いという名の売れ残り商品がサンドイッチだけだったので、正直とてもありがたい。
「じゃあね、おやすみ」
にやりと嗤って美紅はリビングを出て行った。
冷蔵庫から件のおにぎりを取り出すと、レンジで温めながら携帯を開いた。
未読メッセージが数件入っている。
坂本からのメッセージ。週末のサークルの話だから、後でいいや。
美紅からのメッセージ。はい、今聞いたのでオッケー。
ゆかりからのメッセージは、と。
“るーちゃん、金曜日あいてる?”
ん? 金曜日?
スケジュールを確認すると、バイトのシフトはなかった。ので。
“あいてるよ”と返信した。
と、次の瞬間電話が鳴る。ゆかりだ。
「るーちゃん、今話せる?」
「どしたの?」
その声は少し慌てている様子で。
「あのね、七時からなんだけど、デートしない?」
また、無邪気にそんなことを言ってくれる。
「ちょっといろいろあって、るーちゃんに彼氏役やって欲しいんだよね」
「何それ?」
「今さー、会社で面倒な奴がいてさー。言い寄ってくるんだけど、タイプじゃないんだよねー。だから、るーちゃんあたしの彼氏やってよ」
ああ、そういうことか。
「おー。ゆかりちゃん、モテモテ」
「そーよー、モテるのよー。バツイチ子持ちなのにねー」
ケラケラと笑いながらゆかりが答えた。
ゆかりの虫を追い払う役なら勿論喜んで引き受ける。
「もうねー、七海と二人でいればそれでいいのにね」
「ゆかりちゃん若いから。まだもう一花咲かせないと」
「ありがとー、じゃあるーちゃんが彼氏になってよー」
また、そーゆー心にもないことを。
ルカは内心突っ込んだ。
そんなの、できることならとっくになってる。
「明後日、じゃあ彼氏させてもらいますよ」
「わーい、ありがとー。ちょっとだけおしゃれしてきてね。相手にお金出させるからちょっとだけいいお店指定しちゃった」
「お、悪いなーゆかりちゃん」
「ふふん、悪女なのよ、あたし」
電話の向こうで舌を出してるゆかりを想像して、ルカは笑った。