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affection  作者: 月那
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ever after-4-

 エントランスで、部屋の番号を入れる。

 すると無言で、扉が開く。

 それが、ゆかりが自分を受け入れてくれたサインだと確信して。

 エレベーターを待ち、ゆかりの部屋の前まで進むと、扉の横のインターホンを鳴らした。

 初めて訪れるこの部屋の扉が、開くことだけを信じて。

「……るーちゃん」

 ドアを開けて、自分を見たゆかりのその呟きを、だからルカは抱き締めることで塞いだ。

 扉は、開いたのだ。

 そして、ゆっくりとルカの後ろで扉が閉まる。

 そのまま、小さな愛しいその存在を想いのままに抱き締めた。

 ずっと、こうしたくて。

 ただの挨拶のハグじゃない、本気で気持ちを伝えるように、自分の胸の中に包み込む。

 勿論挨拶のハグすら、もう長くしていなかったから。こうして触れられるだけでも、自分にとって本当に嬉しくて堪らない距離で。

「るーちゃん、苦しい」

「あ、ごめん!」

 想いのままに力を込めていたせいで、どうやら息苦しさを感じていたゆかりが言って。

 慌てて放すと、いつものようにくすっと微笑み、今度はゆかりからハグして来て。

「ありがと、るーちゃん」

 小さな声。

 それを聴いて、嬉しくなって、ルカはゆかりにキスをした。

 ほんの少しの抵抗。

 けれどそれを許さず、今度は深く口づけた。

 するとゆかりの舌が答えてくれた。想いが、繋がる。

 ゆっくりとそれを感じ合って、ゆかりの吐息が溢れた時、ルカはその隙間に「ゆかりちゃん、大好き」と囁いた。

「るーちゃん、ありがとね」

「ダメだからね」

「え?」

「もう、今更だから」

「何が?」

「ゆかりちゃんも、俺のこと好きだよね?」

 目を見て、はっきり言うと。

 ゆかりが照れたようにはにかんで…………頷いた。

「こんなトコに突っ立ってお話するのもアレだし、中、入ろっか」

 観念したゆかりが言って、確かに玄関先で立ち話もどうかってことで靴を脱いで「お邪魔します」なんて改めて。

 廊下を進むと突き当りの扉を開け、リビングのソファに座った。

「るーちゃん、コーヒー淹れようか?」

「うん、ありがと」

 本気で、初めて入る部屋である。

 勿論清華はいつも出入りしているのだが、ゆかり達がここに住み始めてすぐ、美紅から「ルカは立ち入り禁止だから。女の子二人の部屋に若い男が出入りするなんて外聞悪いから、行っちゃだめよ」と言い渡され、実際用があるわけでもないのでここに来るなんて考えたこともなくて。

 七海の部屋とゆかりの部屋、そしてLDKがあるという話は聞いていたが、女の子らしいというわけでもなく、無駄のないすっきりとした部屋である。

「田所さんみたく、美味しいコーヒーってわけじゃないけどねー。インスタントドリップだし」

「いやいや、俺コーヒーにこだわりないから全然わかんないし」

 マグカップに入ったコーヒーは、いつもルカが飲んでいる砂糖なしのミルク入りで。

「えっと。ちょっと、お話してもいいかな?」

 自分用のブラック無糖なコーヒーを片手に、ルカの横に座ったゆかりが言った。

 まあ、確かにそう言われなければ恐らくこのままゆかりのことを押し倒してしまいそうになっていたのだが。

「るーちゃん、ほんとにあの子、彼女じゃないの?」

「ないない。さっきも言ったけど、ちゃんと断ってるから」

「でもすごい可愛かったよ?」

「ゆかりちゃんの方が可愛いよ」

 …………自分で言って、かなり驚いた。

 まさかこんな言葉が自分の口からすんなり出るとは思わず。

「……お世辞でも、嬉しいよ、ありがと」

「信じてよ。俺、ゆかりちゃんのことしか、好きじゃない」

「…………えっと。ありがと。なんだけど、るーちゃん、冷静?」

「冷静です」

「だってあたし、ほんとにオバサンだよ?」

「ななちゃんが、ママはオバサンじゃない! って言ってたよ」

「いやいや、いやいや。まあ、ななとさやちゃんにはそう言い聞かせてるんだけどさ。そういう問題じゃなくて、本気でるーちゃん、あたしでいいの?」

「ゆかりちゃんが、いいの」

 言って、抱きしめようとして。

 でも、再び、ゆかりに止められる。

 完全に“待て”である。

「うー、いいのかなあ?」

「何が?」

「えっとね。ごめん、やっぱりあたし、好きなんだよね、るーちゃんのこと。るーちゃんが助手席に知らない女の子乗せてるの、すっごい嫌だったの。るーちゃんが知らない女の子ハグしてるの、すっごい嫌だったの」

 ゆかりがマグカップを握りながら、言う。気持ちを吐露してくれているのが、嬉しいけれど、その表情が。

「でもね。るーちゃんのこと、大好きだけど、でもあたし、やっぱり七海が大事なんだよ」決して甘くは、ない。

 でも。

「知ってるけど」そんなの当たり前。

「あたし、何かあった時に絶対七海のこと助けに走っちゃうの。るーちゃんのこと大好きってゆってるのに、でもるーちゃんのこと、いざとなったら放り出して七海の方に走っちゃうの。だから……」

「いいじゃん」

 だからの続きを聞きたくなくて、ルカは遮るように言った。

「ゆかりちゃんは、ななちゃんを助けたらいい。だってそれは当たり前だから。いざも何もない、いつでもななちゃんのこと護ってあげてたらいいよ。俺だって、ななちゃんのこと、大事だから。清華と同じ、妹だよ。そんなの大事に決まってるじゃん」

 逃げ道なんて、作ってやらない。逃がして、やらない。

「…………」

「でさ。そんなゆかりちゃんのことは、俺が護るから」

「え?」

「ななちゃん護ってるゆかりちゃんを、俺が護るから。ななちゃんごと、俺が護るから」

 言ってて、これが答えなんだ、と自分で自分に納得した。

 そうか。俺、そうしたかったんだ。

 そう、思ったら何もかもが総て、納得できた。

「俺さ、大きくなったでしょ?」

 コーヒーを置いて、ゆかりの手からもカップを下ろさせる。

 そして、その手を握る。

「きっとね、ゆかりちゃんとななちゃんのこと、二人とも受け止める為に大きくなったんだ」

「……るーちゃん」

「ななちゃんが、俺を受け入れてくれるかどうかはわかんないけど、でも俺は護る気でいるから」

 うん、ちゃんと七海のことも説得する。

 ゆかりの傍にいる、ということを、七海にもわかって貰う。

 だって、ゆかりが大切なのは、七海のことも大切に思うことと同じだから。

「だから。ゆかりちゃん。俺のモノになりなよ」

 ちょっと、強気。だって。ゆかりの気持ちはきっと、自分にある。

「大好きだよ、ゆかりちゃん」

 言って。

 ゆかりにキスをして。

 そのままゆかりを、抱いた。




 幼い頃思い描いていた「おうじさま」像は、今になっては全然思い出せない。

 でも、「おひめさま」は本当にお姫様で。

 初めて抱いたその綺麗な綺麗なお姫様を、丁寧に丁寧に扱うのは至極当然で。

 儚く想い続けるだけの“夢”だったお姫様が腕の中にいることが、幸せ以外の何物でもなく。

 この存在を、自分はこれから先絶対に護り続ける。

 だって、それこそがきっと物語の“お姫様”が過ごす結末だから。

 なりたかった「おうじさま」になると決めた以上、この腕の中の存在は絶対に「おひめさま」。

 お姫様は、末永く幸せに過ごしました。

 という結末を、自分こそが王子様として描くのだ。

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