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affection  作者: 月那
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my girl-1-

 ゴールデンウイークも空け、いよいよ本格的に授業が始まると、予想以上に多忙な毎日が続くことになった。

 先輩からのアドバイスで、一年生の間に取れる単位はしっかり取っておこうと坂本とがっつり時間割を組んだのだが、一コマ目から四コマ目までほぼ毎日ぎっちり組んでしまった為、朝九時から午後四時四十五分まで学校にいることになり。しかも、バイトのシフトが入っている日は五時からバイト。バイトがなくてもサークルは活動しているから、その場合はそこからバスケ。

 こんな毎日を繰り返すことになり、高校中退で大学生に偏見を持っている美紅が、入学前には「大学生なんてヒマなんでしょ?」なんて鼻で笑っていたのだが、もはや「大学生って毎日忙しいのねー」と感心し始めて。

 自宅から通学しているので、朝八時過ぎには家を出る。自転車で三十分程の距離にある大学は、高校とは逆方向ではあるが、距離的には殆ど変わりなく、朝練なんてやっていた頃に較べればかなりのんびり登校できるのだが、とにかく夜は帰宅時間が完全不定期で。

 結果、朝食こそ美紅が用意してくれるが、夕食に関しては「いるかいらないのかわかんないもの用意する身になってよ! もうルカの分は作らないから勝手にしなさい」と言われ。

 高校を卒業したらそのまま就職する道もあった。

 中学卒業後の進学先に工業高校を選んだ時点でそのつもりでいたのだが、建築に関しての興味が、もう少し専門的なことを学びたいという気持ちになり。

 自宅通学と奨学金で学費を賄うという条件で大学進学を許された立場である。

 さすがに“小遣い”こそ貰わないけれど、家に入金できる状況でもないので、美紅の用意してくれる朝食だけでもありがたいと思わなければいけない。

 基本的に真面目人間であるルカとしては、毎日きっちりとすべきことが決まっていて、それを淡々とこなしていく日々は、それほど苦ではないのだが。

「俺、大学入ったらもうちょっと遊べると思ってた」

 バイト先こそ違うが、ほぼ毎日同じスケジュールで動いている坂本が、学食で日替わり定食を食べながら大きくため息をついた。

「絶対サークルは誤算だったよなー」

 先輩にラチられて、強引に入部させられたとは言え、元々バスケが好きだったルカとしては、それはそれとして楽しんでいるのだが。

「バスケは嫌いじゃないけどさー、うちって女子部員いなくね?」

「そりゃ、しょーがないじゃん。女子は別で女子バスケ部があるんだから」

 そう、坂本的にはこれが辛いらしい。

 男子バスケ部は本格的なバスケ部と、うちのお気楽サークルと二つあるのだが、女子バスケ部は本格的なバスケ部のみで。その本家バスケ部が、男子部と違ってガチ系じゃない分、部員の幅が広いのだ。故にお気楽サークルとしては「女子歓迎」なんて言っても女子は殆ど見向きもしてくれない。

 ただでさえ女子率は低い学校である。

 せめてサークルでの出会いなんてものを期待したいという坂本の気持ちもわからなくはないが。

「女子いないと出会いないじゃん!」

「こないだS大のコと合コンしたじゃん」

「誰からも連絡来ない」

「そりゃ……」

「みんなとライン交換したのに!」

 さすがー。マメだねえ。

 社交性抜群の坂本らしい発言に、ルカは苦笑した。

「でもさ、坂本。おまえ昔から好きな人いるってゆってるじゃん? その人とはどうなんだよ?」

「どーもこーもないよ」

「なんで? コクったりとかは?」

「無理。だって彼女結婚してるし」

「え?」

「あれ? 話したことないっけ?」

「ないない」

 坂本とは高校のバスケ部で出会った。

 ルカの方が背は高いが、中学時代からルカと同じくフォワードとしてプレイしていたという坂本とは話が合ってすぐに打ち解けた。

 元々人懐っこい性格の坂本がルカに声をかけてきたのが始まりだが、何しろ当時の話題はバスケか勉強のことばかりで。

「好きな人がいるってのは聞いてたよ。でも彼女もいたよな?」

 ルカが高校時代に一度彼女を作った時、その子の友人を紹介してお互いにカップル同士で出かけたこともあった。

「うん。けど昔から好きな人ってのはいるんだよ。でもこないだその人、結婚したし」

「結婚、かー。そりゃどうもしようがないね」

「だろー? わかってんだよ、それは。昔から。でも、何となく忘れられないっつーか」

 その気持ちはわかる。

「夢だよね、それは。だからさ、現実的に彼女が欲しいわけさ」

 いや、そこはわからん。

「え? だって、永久片想いだよ? だったら現実的には別に彼女作らないとってならない?」

「かなあ? でも俺、それやって失敗したけど」

 高校時代。ゆかりのことを好きな気持ちを抱えたまま、どうにもならないからとりあえずの彼女を作って。

 でも、ダメだった。

 気持ちが入っていない状態で付き合った彼女は、すぐにルカの真意に気付き、離れて行った。

「うん、まあそうなんだけど。でも、付き合ってるうちに忘れられるかなって思うし」

「そんなに都合良くはいかない、と思う」

 ルカの言葉に、坂本も口籠る。

 わかってはいるんだよね。それは。忘れないと次に進めないし、忘れる為に誰かを利用してもうまく行かないことは。

 だから、坂本は「モテたい」に逃げるし、自分はただひたすらに片想いを続けるわけで。

「ま、きっといつか出会えるんじゃないのかな?」

 ルカが希望を込めて言うと、

「いつかっていつだよ?」

 坂本に突っ込まれた。

「そんなの知らねーよ」

「今会いたいんだけどなー」

「じゃあまた合コン行けば?」

「だから時間がないんだっつの」

 正に堂々巡りである。

「でも次の合コンにはルカも来いよな」

「何で?」

「一緒にセイシュンしよーぜー」

「サムいこと言ってんじゃないよ。ほら、メシ食ったら次はF棟だ。ここから結構遠いんだから、行こうぜ」

「ルカが冷たいー」

「冷たくないー」

 まだ合コン、合コンとぼやいている坂本の腕を引き、学食を後にした。

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