消えない想い-3-
「さーかーもーとー!」
「うるさい、黙れ!」
道中“今から行く”とだけラインを入れておいたら、自宅の前で坂本が待ち構えていた。ので、叫ぶと、すぐさま突っ込まれる。
「おま、何時だと思ってんだよ! 俺が母ちゃんにどやされるだろ」
言われて、素直にごめんと謝る。
確かに、既に夜十時を回っているこの時間、住宅地で大声を出すのはさすがに憚られるだろう。
「このままそこのマック行こうぜ」
「俺、財布ない」
「…………わかった。おごってやる」
しぶしぶではあるが、ちょっとだけ負い目のある坂本がそう言ってくれたので、素直に甘えることにした。
坂本の家から五分程歩いて大通りへ出ると、この時間でもまだまだ交通量の多い場所であるため、人通りもなくはない。
とは言え、二十四時間営業の店内は閑散としていて、二人はコーラとポテトだけ注文すると二階の隅のボックス席に陣取った。
「知ってたのか」
「…………ごめん。俺、遠回しとか下手だからさ、うまいこと伝えらんなくて。お前のこと怒らせちまったし、俺もなんか、頭に血が上っちゃって」
うん、確かに結構がっつり“好きかもしれない”なんて言ってた気がする。
いやでも、それはあの時点では絶対に信じられなかったし。
今だって……好きだと言われた今でさえ、半分信じられないでいるのに。
「しいちゃんがさ。田所にそれとなくナルのことオススメしてくれないかな、って」
「篠田のモノマネ? キモイんですけど」
「えー、キモくねーし」
「低い声でその口調はキモイって」
「結構似てると思うんだけどなあ」
「そんなん知らねーよ。篠田の声なんか気にしたことねーし」
「こう、ちょっと大人っぽい感じでー」
「そんな説明されても困るし。だいたいお前が篠田とどんだけ会ってるのかも知らねーし」
「そりゃ、あれから毎日会ってるからねー」
「おーお、そりゃお幸せなことで」
「勿論幸せですよー……って、話が進まん!」
お互いに目を見合わせて笑って、コーラを飲んだ。
なんだ、仲直りできてるじゃん。
「だからさ。今度、美術館で二人がいい感じになるように、ちょっとだけお前に成瀬のこと意識させたかったんだ」
「意識、かー。あ、ちょっと待って。したら四人になるってのも」
「そう、仕組んだ。佐竹たちのことは最初から誘ってない」
……俺、かなり鈍いのかも。
何の疑いもなく坂本たちと四人になるということを受け入れていた自分に蹴りを入れたくなった。
「何で断ったんだよ。成瀬とお前、美男美女ですげー似合ってるじゃん」
「美女と野獣だよ。いや、そういう問題じゃない」
「お前はもっと自信持て」
「持てません。モテませんから」
「うまいこと言ってんじゃねーよ」
「だって実際モテないからね。俺好きな人にフられたばっかだぜ? どーやったら自信持てるんだよ」
もうずっと昔から、当たり前のように好きだった、この人のことだけは絶対になくしたくないとずっと思っていた人に、フられた。
そんな、気持ちの整理なんてまだまだ全然ついていない状況で、自分に“自信”なんて一ミリも感じられないくらいの状況で。
まさかの告白を受けるなんて、想像もできるわけがない。
「成瀬、泣いてた?」
「うん、泣いてた。昔はさ、俺の方がフられたんだけどなー」
「そん時お前、泣いた?」
「いや、泣いてない」
「だろうね」
そう。
当時はフられて当然だとちゃんと自覚していたから。
ゆかりとのことがうまく行かなくて、ただ勢いだけでヤってしまったから。
そのまま責任を取るようにして付き合っていただけだったから。
そんないい加減な気持ちで接している自分に、彼女の方が嫌気をさしてしまったのは当然のことで。
「これもさ、最近しいちゃんから聞いたんだけど。あの頃もほんとは、成瀬がルカにすごい惚れてたんだよ。でも、お前が自分のことを見てくれていないことが辛かったから、自分から別れようって言ったんだって」
「…………」
「成瀬さ。あんな感じじゃん? まあ、しいちゃんもだけど。入江ちゃんと三人、結構派手目な雰囲気のグループだから周りからはかなり遊んでるように思われてるらしくて。いや、実際俺もあの頃は遊ばれてるんだろうなって思ってたんだけどさ」




