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「どした?」
サークル終わり。今日は珍しくバイトはなくて。でも、何故か合コンの方向に走らなかった為――いや理由は単純にタクマが明日から彼女と旅行だからなのだが――、ファミレスで坂本と夕飯となり。
「ものすーごい、おまえがおかしいのはわかるけど、何があったんだ?」
体を動かしたせいで無駄にある食欲だけはとりあえずミックスグリル定食で落ち着かせて、いつものようにコーラを飲みながらポテトをつまむ。
「……ゆって、しまった」
「? 何を?」
「その…………告っちゃったって奴」
思わず頭を抱えてしまったルカに、坂本は「おお」と少しだけ驚いて。
「返事は?」
「まだ」
「手ごたえは?」
「…………わからない」
わからないから、こんな状態なんだっつーの。
「まじ、すげー美人さんだったねえ」
あ、そうか。あじさい祭りで見られたんだった。
あれから特に触れてこないから、黙殺してくれているのだと安心して敢えて何も話していなかったのだが。
「あれ? でもあの時彼女さん、自分から彼女アピールしてなかったっけ?」
「あれはノリ。あの人、そーゆー人だから」
「ノリって……いやノリで友達に彼女ですって、普通、言う?」
「ゆっちゃうんだよ、あの人は。昔から俺のことずーっと好き好きゆってくれてる」
「何だよ、それ。じゃあ全然気にすることないじゃん。そんなん普通に“彼女”でいいじゃん」
「違うって。あの人の“好き”はそーゆーんじゃないから。ほんっとに、普通に誰にでもゆってる“好き”だから!」
さやちゃん、好き。田所さん、好き。美紅、大好き。からの、るーちゃん、好き。
そう、ゆかりのいつも言ってくれている“好き”は、自分の周りにいる人全員に向けられる“好き”であって、先日心の底からまるで漏れてしまったように溢れ出た、ルカの“大好き”とは全然違うものだ。
「意味がわからない」
「わかろうよ」
「だって。お前のこと好きなんだろ、彼女さん。で、お前が彼女さんに好きって言って、それで一体何が悩むトコなんだよ?」
「だって、好きの種類が違うから」
「何だよ、その種類って。あの時の彼女さんの雰囲気、あれはどう見てもお前に惚れてるって感じしかしなかったよ?」
「惚れてなんて、ないよ。あの人にとっては、俺は息子だからさ」
「んなでけー息子、いるようには見えん」
「ちっちゃいけど、あの人はママなんだよ。清華と同級生の娘、いるんだから」
ルカの言葉に、坂本は黙った。ようやく、多少の理解はしてもらえたらしい。
「まじか?」
「まじ。ちなみに何歳だと思った?」
「え? そうだな、三十行くか行かないか、くらい?」
「三十六」
「嘘だ!」
「嘘じゃねえ。あの人、美紅の同級生だから」
正に、絶句。
坂本のそんな様子に、ゆかりがどれだけ若く見えるのかが伺えた。
そうなんだよ、見えないんだよ。どっからどう見ても三十手前のちょっと大人な女の子なんだよ。
「あー、それで“息子”なわけね」
納得した坂本が言って、ルカは大きくため息を吐いた。
「息子に対してならさ、いくらでも好きって言うもんじゃない?」
「いや、でも俺かーちゃんからそんなこっぱずかしい単語聞いたことないけど」
「俺もないけど」
「うん、美紅さんも言いそうにないけど」
「言わないけど、でもそういうもんでしょ?」
「……かなあ?」
言葉にして“好き”なんて、勿論美紅が言うわけないのはわかっているけれど、それを生活の端々で感じるのが親子だと思うので。
「あの人が俺に好きって言ってくれるのは、結局母親が息子に対して愛情表現してるだけなんだと思う。さすがにこのトシになった息子に愛情表現なんてしねーけど、ちっちゃい子どもならやっぱり母親が息子を可愛がるのって表に出すだろ? 彼女の中で、多分俺は小学生の息子みたいな感じなんだよ」
ああもう。自分で言ってる自分の言葉に誰より自分が打ちのめされているわけで。
わかってるよ。多分、彼女からの答えはそれだ。
その答えが、わかっているけど、はっきり聞きたくないから、こんなにグダグダやってるんだっつーの。
「ま。その。何だ」
坂本が、慰めの言葉を探している。
「はっきり答え、聞かなくてもいんじゃない?」
「ん?」
「ドライブデートのお誘いは、明日はないのか?」
「ない。てゆーか、あれから全然音沙汰無し。最近ずっとくれてたおはよーとかのメッセージもないし」
「うん。だったら、とりあえず逃げてれば?」
「はあ?」
「怖いんだろ? はっきり聞くのが。でも答えはわかってるんだろ? だったら逃げてれば?」
なんじゃい、そりゃ。現実逃避かよ。
「やだ」
「じゃあいいじゃん」
坂本が、にやりと笑った。
「彼女さんがさ、今おまえのこと、考えてくれてるんだろ? ちゃんと、息子じゃなくて男として、考えてくれてるから、まだ何の返事もないんだろ? だったら、そこから答えを出してくれたなら、ちゃんと受け止めて来いよ。おまえのこと、ちゃんと考えて、それで出た答えなんだから」
至極まっとうな意見。
「今までは息子だったかもしれないけど、お前が告ったことで彼女さんはお前のことをちゃんと男として考えてくれたんだ。それで、いいと思うよ。フられたトコで、お前はお前だし。まあ暫くは辛いだろうから、やけ酒ってわけにはいかないからやけコーラくらい、いつでも付き合ってやるからさ。とりあえず、答えが出るまで待って、答えが出たなら、ちゃんとしっかり受け止めな」
そんな、坂本の言葉はルカのグダグダな気持ちを引き締めてくれて。
ルカの最低最悪の一週間は、とりあえずの終わりを迎えた。




