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affection  作者: 月那
11/51

situation-1-

「タイキー、次の高瀬先生、休講だってー」

 一コマ目が終わって移動中、同じサークルの佐竹が向こうからやってきた。学科こそ違うが、次の授業は一般教養の大部屋だから一緒なのだ。教室のあるF棟前の掲示板にあったらしく、先に見てきたようだ。

「ラッキー。じゃあ昼どっか飯食いに出る?」

 坂本が言うと、

「あ、じゃあウチ来る?」

と佐竹が言い出した。

「すぐそこだし、こないだBSでやってたNBAの試合録画しておいたからさ、ルカも一緒に観ようよ。お昼はピザとか頼めばいいし」

 ふわふわした印象の育ちのいいお坊っちゃまタイプの彼は、坂本がたまたま隣の席に座っていたってだけでサークルにナンパしたのだ。

 元々バスケをやっていたわけではないらしいが、特にサークルも決めてなかったみたいで、わりとあっさり入部を決めてくれた。

「マジで? やったー。行こうぜ、ルカ」

「あれ? 佐竹って県外出身だっけ?」

「うん。駅前のマンションで一人暮らししてるんだよ」

「すげー、一人暮らし! 俺まだ一人暮らしの家って行ったことない」

「俺も。坂本も俺も家近いもんなー。一人暮らしってちょっと憧れる」

「そんないいもんじゃないよ。家事も全部自分でしないといけないし、洗濯とかは慣れたけど自炊は慣れないから大抵外だよ」

「メシ、作ってる暇もないよな。バイトとかは?」

「今はまだバイトはしてない。親からの仕送りで何とかやってるんだ」

 そんな話をしながら、学校を出て十分程歩いた先にある駅前の新築マンションに向かった。

 駅前の新築マンションに一人暮らししながら親の仕送りで生活。

 つまり。

「うっわー。佐竹って金持ちー」

 坂本がはっきり言う。

「何でだよ。賃貸だってば」

「いやそういう問題じゃないくて」

「ウチの親がセキュリティに煩いんだよ。だからここになっただけ」

成程セキュリティは相当しっかりしている。だって、自動ドア(勿論完全オートロック)の向こうにコンシェルジュなんて人がいる。しかも最上階だし、一人暮らしなのに2LDKって、どれだけ金持ちだよ。

 坂本もここに来るのは初めてらしく、ルカと同じく面食らっていた。

「お邪魔しまーす」

 戸惑いながら二人が言うと、佐竹がくすくす笑いながら、

「お行儀いいんだねー。僕の連れなんてそのままずかずか上がり込むよ?」

と二人にスリッパを出した。

 すげー。

 ルカも坂本の家にはよく泊まりで遊びに行くが、スリッパなんて履いたことがない。いや、坂本が田所家に来るときも同じだが。

「それって地元が同じ友達?」

 坂本がリビングに向かう廊下を歩きながら訊いた。

 広い上に綺麗にしている。男の一人暮らしとは思えない。

「うん」

「え、それって彼女?」

「違うよー。男、男。頭いいからそこの国立大行ってるんだけど、ここ駅近いからちょいちょいウチに来るんだよ」

 なんだ、男かよ。と坂本が呟いた。

 よく来る彼女が掃除とかしてるのかと思った。

「お茶でいい?」

「あ。しまった、コンビニ寄れば良かった」

「いいよー。アイスコーヒーとかならすぐ出せるし」

「いや、お茶でいい、お茶で」

 坂本と二人、リビングで立ち尽くしていると、

「立ってないでソファ使ってよ」

キッチンから促される。

 二人とも一人暮らしの部屋に来るのは初めてなので、どうしていいやらわからず。

 しかも。

 勧められたソファにしろ、目の前にあるTVにしろ、やたらとデカイ。まるでモデルハウスにでも来たようで落ち着かないことこの上ない。

「佐竹、ボンボン?」

 思わず坂本が訊いて。

「えー? 一般家庭だけど」

「嘘だ! 親の職業言ってみろよ」

「……地元で旅館とホテル経営してる」

「ほらみろー。ボンボンじゃねーか」

「何だよ、僕がボンボンだといけない?」

 坂本に突っ込まれ、さすがにちょっと拗ねた佐竹が膨れて言った。

「いけなくないけど、羨ましい」

 潔い坂本に、佐竹はぷっと吹き出した。

「何も羨ましがられることなんて、ないよ。僕自身は何も持ってないし、結局親の庇護下から自立しようとしても、こうやって援助がないと生きてもいけないし」

 笑いながら言っているけど、少しだけ、表情が曇る。

「早く大人になりたいから、親の望む経営学から逃げて、手に職付けたいと思って工学部に進んだんだよ。でも、あっちの方がうわてだよね。僕の逃げ道すら、親の作る道なんだから」

 意外とコンプレックスだったようで、ふわふわといつも笑っている佐竹とは思えない沈んだ声だった。

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