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閑話  とあるパーティーの破滅譚:第一章 前


「―――凶火(ゴーザン)!」


 真っ赤な髪の少女が叫ぶ。

 身の丈ほどもある杖を、薙ぐように振る。

 黒く双眸に、巨大な怪鳥共を映して。



 その直後。

 何十匹もの鳥共の、一匹一匹に炎が取り憑く。消えず、絶えず、羽を落とし皮をぐずぐずに破り、その断末魔までひとかけらも残さず、燃やし尽くす。


 最後の一匹が声をなくし、炭になり、そして灰になる。それでも残った火種をぐしゅりと踏み、赤髪の少女は振り向いた。


「もう大丈夫。魚とか入った荷車も来れますよ」

「あ、ああ……ありがとうございます」

「護衛として雇われた身ですから」


 恐縮する商人を後目に、荷車の荷台に飛び乗る。馬鹿でかい杖を置いて、肩を回し、一息。


「……はぁ」


 忘れたことを忘れたような。

 そんな言いようのない不安が、グリミアの胸にわだかまっていた。
















「で……銀三枚。今買いだめている食料も含めて、六日分くらいになるね」


 シルマギから、道を辿れば二日はかかるところに、アイニという町がある。

 渓流や森の近い田舎ながら、それ故に狩人や行商人の休息所として発展してきた地だ。シルマギより二回り大きなその町は、昼過ぎということも相まって、ちょっとうるさいくらい人がごった返していた。


「少ねぇな。もっとせしめてやればよかったんだよシューベルト」

「これでも一日護衛の報酬としては破格なのですよ、マルテロ」

「ハイルもよく見つけてきたよね」


 昼下がりの、そんな町の広場の片隅。

 人の行き交う市場の前で、肩を寄せ合う四人の冒険者がいた。


「単に運が良かっただけですよ……というか、こんな道も整っているところで護衛依頼なんてあるとも思っていませんでしたし」

「『森を通り抜けて近道したい』、なんて……なかなか冒険する方だったね」

「商人向いてなさそうだよな」

「……なんでマルテロはそんなにあの人を嫌ってるの?」


 髭もじゃで背の低い男―――マルテロは、鼻を鳴らしてそっぽを向く。答えのない答えに苦笑しながら、背の高い優男―――シューベルトは、ふとその隣に声をかける。


「大丈夫、グリミア?」

「……あ、私?」

「大丈夫ですか、顔色が優れないようですが……何か、あったのですか?」

「……ううん」


 ぼーっとしていた赤髪の少女―――グリミアが、そっと首を横に振る。白っぽい礼服の男―――ハイルは、それに首を傾げながらも、あえてつっこむようなことはしなかった。

 一方マルテロはつっこんだ。


「どうした? 自分の名前忘れたのか?」

「んな訳ないじゃないあんたじゃないんだから」

「なにおう! 自分の名前忘れたことなんかねぇよ!」

「マルテロあんた、朝いっくら名前呼んでも反応しないじゃない」

「それに関しては私も声を挙げたいですね」

「あんたも似たようなもんよ、ハイル」


 ちょっとした冗談を百倍の皮肉にして返され、そしてなぜか話がわき道に逸れる。その逸れた話に同調しようとして背中を刺されたハイルがすごすご引き下がる。

 喧々諤々、仲良く文句は発展して長くなっていった。


「大体グリミアが早すぎるんだよ!」

「日の出と一緒の起床のどこが早いのよ」

「いやあなた、普通に日の出前に起こすじゃないですか……」

「それにダンジョンの中じゃ、起きるべき時に起きられなかったら死あるのみよ? 大事なことじゃない」

「それはまぁ、一理ありそうですが」

「ハイルはどっちの味方なんだ!」

「敵味方の話なんですか?」


 声が大きくなって、段々喧嘩は議論めいてくる。道行く人が二度見するくらい意味不明な話に進んでいって、余計におかしくなってくる。

 そんないつも通りのじゃれ合いに、思わずシューベルトは笑った。


「まぁ、心情的には……マルテロですかね?」

「あんたはどうなの、シューベルト?」

「そろそろ議論が終わらないかと……嘘だよごめんって杖を向けないでグリミア」


 いつもより止まらないな、なんて考え始めたシューベルトにも火の粉が降り掛る。

 その杖に本当に魔力が集中しているように見えたのは気にしないことにして、少し首を捻る。


「まぁ……グリミアの言い分の方が納得できる、かな?」

「同数だな」

「同数みたいね」

「……」

「……」

「なんで睨み合うの?」

「決闘でも始まるんじゃないでしょうか」

「ハイルまで煽りに入ったら僕はどうすればいいのかな……」

()()で楽しく観戦しましょう」

「楽しいのかなそれ……」


 喧々諤々、丁々発止、あるいはぐだぐだした迷走。

 そんないつも通りを、違和感も覚えずにやり合って。



「ネイン! あんたはどう思うのよ!」


「ネイン! お前はどっちの味方だ!?」


「そうですよネイン、今日こそは都合のいい中立役から離れて……」





 最後に言ったハイルが、一番最初に気がつく。

 それから二人もはっとする。


 ネイン・ドッホ。かつての仲間のいないことに。


 自分達が、追い出したことに。


「……ハイル、ここからはいつも通りで大丈夫かい?」


 凍りついた場から目を瞑ろうと、シューベルトがパーティーの参謀役に声をかける。

 頭のいい彼は、その意図をきちんと汲み取った。


「……そうですね、ダンジョンでの食料はもう揃えていますし。日の沈むまでは自由行動で」

「了解。それじゃ僕はいつも通り鍛冶屋に行ってみようかな」


 今度はもう少し上手く目を逸らして、おどけたみたいに声を出す。呆けていた二人が頷くのを確認して、彼も頷きを返した。

 締めるみたいに、ハイルが手を叩く。


「明日から、渓谷のダンジョンへ挑みます。あまりはしゃぎすぎないようにだけ気をつけて下さいね」

「……分かってる」

「……うん」

「それでは、また」


 珍しいマルテロとグリミアの素直な返事を珍しいとも思えないまま、彼らは無言で町へ繰り出す。ずっと、ずっと歩いて、鍛冶屋の方かも知らない路地裏まで歩いて、シューベルトはそっと息を吐いた。


「……はぁ」


 数分ぶりの、空気を吸った心地に肺を満たす。満たしすぎて咳き込み、それを笑おうとしてみる。結局くすりとも言えなくて、シューベルトはまた溜め息をつく。


 ふと、その袖が目に入る。

 ほつれて、何かにひっかかってしまいそうなほど伸びた糸。


「そうか……裁縫も、覚えなきゃか」


 笑おうとして、笑えない。

 結局口からこぼれるのは、溜め息だけだった。



一章、終わりです。区切りもいいので、明日は活動報告書いて、明後日から更新を再開しようかと思います。

今後ともお付き合いくださると嬉しいです。

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