第八話 『真』の回避マスター決定戦
ホームルームが終わると、生徒が姫川を取り囲む。
質問攻めだ。
「どこに住んでいるの?」やら、「何が趣味なの?」やら、「彼氏はいるの?」と、いった具合だ。
姫川は落ち着いた表情で、サングラスを手に取って掛けたり、ヘアゴムを取って髪をなびかせたりして、スタイリッシュさを醸し出しながら、「東京よ」とか、「文字の意味とかを調べることかな」とか、「いませんよ」と、テキパキ答えていた。
全て質問し終えると、最後に姫川は幸之助を手招きする。
「放課後、話したいことがあるから、進路指導室まで来てくれる?」
周りに聞こえないように、小声で姫川は囁く。
「何ですか?」
「少年、じゃなかった。曲里君だっけ? これからについてのお話をしたいの!」
「それは一体どういう……」
「それと、朝、一緒にいた二人も連れてきていいわよ!」
相変わらずのマイペース。人の話を聞いちゃいない。
「連れて来いってことですか?」
「うーん。そこは任せる。曲里君は絶対よ!」
「えっ」
面倒なことになった。昨日で関係が終わると思っていたこと自体が甘かった。
「じゃ、宜しく!」
スタイリッシュにビシッと、姫川は敬礼を決めた。
割と真剣に授業を受けたのは久々だった。
その為なのか、超絶身体は疲れ、昼休みは机に突っ伏したまま眠りこけた。
帰りのホームルームが始まる前に、ルーカスと御縁には姫川の呼び出しについて伝言しておいた。
二人とも二つ返事でオーケーなのは、意外だった。
皆が教室から出ていく中、三人は進路指導室へと移動する。
「失礼しまーす」
御縁が室内を確認。扉を開けた。
三人は中に入ると、向かい合わせに置かれた机と椅子、傍観用なのか教室の端に置かれた二脚の椅子、机の上には『ピコピコハンマー』と『ヘルメット』が一つずつ置かれているのが目に入る。
滅多なことや面談を行う以外、この教室はほぼ使わない。
埃の籠った匂いがする。
カーテンも閉め切ったままだったので、御縁が「開けるわね」と、言って束ね始める。
それにしても、姫川はこれで何をするつもりなのだろう。
机にあるものから察すると、おおよその流れは見当つくが。
「やあ。みんな集まっているわね!」
片手を挙げて、姫川は軽く挨拶をする。
「単刀直入に聞くが、これから何をするんだ? 内容次第では帰らせてもらうぞ」
「まぁまぁ。曲里君、落ち着いて。少しゲームをしようと思ってね! 言っておくけど、ただのゲームじゃないよ?」
「ゲームだぁ? 僕に勝てると思っているのか?」
姫川は仁王立ち。腕組みまでしちゃって気合十分、自信満々なご様子。
「そのつもりで用意させてもらったわよ!」
「ふん。面白い」
ゲームと聞いたら、黙っちゃいられない。
「えっと、私とルーカス君はどうすれば」
御縁が片手を挙げて、姫川に質問。
「そこの椅子で見ているか、気が向いたらゲームしてくれてもいいわよ!」
姫川は端に置かれた椅子二脚を、くるくると指差して答える。
「で、どういうルールだ?」
幸之助はいきり立った勢いで椅子に足を乗っける。
ゲームが無くて一日中ウズウズしていたんだ。
この状況は今日一、ワクワクする内容だ。
幸之助の様子を見て、御縁とルーカスは目が点だ。
「えっとね、『叩いて被ってじゃんけんぽん』って知っているかな?」
得意げに幸之助は解説。
「勿論。じゃんけんに勝った奴がハンマーを素早く持って叩き、負けた奴がヘルメットを素早く被るアレだろ? 防御成功の場合はじゃんけんが続き、防御失敗の場合は叩いた人に勝利点が入る。つまり、ハンマーで叩く方がヘルメットを被るより早く頭を叩けば勝ちだ!」
「正にそれよ、それ!」
姫川は人差し指を立てた。
「で、何でコレをやるんだ?」
「ふふ。それはねぇ~」
姫川がニヤニヤと、いかにも企んでいる顔で幸之助を見て笑みを浮かべる。
「勝った方は何でも言うことを聞くっていうお馴染みのルール付きで、どっちが『運と回避スキル』を極めし者なのか、この際にはっきりさせようと思ってね!」
「何でも言うことを聞くかぁ。へぇ、やりがいあるなぁ」
あんなに重かった身体が嘘のように軽くなり、やる気が満ち溢れてきた。
「あ、言っておくけど、いやらしいお願い事は無しね! ちなみに……、私が勝った時の条件は、君達三人に弟子になってもらうことだから!」
「は? え? 私も?」
御縁は慌てた様子で自分に指を向けて、弟子該当者なのか姫川に再確認。
姫川はニヤニヤ笑って、うんうんと頷く。
「ボクは、【ダシ】になってもいいヨー!」
「ルーカス君、それじゃ料理されているから」
ルーカスは意味が分かっていないのか、首を傾げる。
「じゃ、僕が勝ったら、授業中にゲームをしても感知されない回避術を教えろ」
「ちょっと、何言っているの?」
御縁は幸之助の発言を見過ごせず指摘するも、
「わかったわ。勝ったら教えるわよ!」
と、姫川は容認する。
「え、ちょっと姫川先生。負けたらどうするつもりなんですか?」
強めな口調で不安を訴える御縁。
「大丈夫、大丈夫! 私、負けないから」
とても余裕そうに姫川は答える。
「なめられたものだな、早速勝負だ」
「よしっ! じゃあ、三回勝負ね」
席に着くと、両者真剣な目つきでにらみ合い、両掌を机に乗せてスタンバイする。
「御縁さん、掛け声をお願い」
姫川に促されて、御縁が口を開いた。
「せーの」
「「叩いて被って、じゃんけんぽん!」」
三回の勝負は一瞬だった。
というのも、必ず一発目で姫川が勝利し、目にも止まらぬ速さでハンマーを持って、幸之助を三連続で殴ったからだ。
運が最強と自称するだけのことはある。
まるで勝つことが最初から決められているような。
迷いのない動きだった。
ゲームスキルを発揮することさえも許されず、タコ殴りにされた幸之助。
心もボロボロだ。
幸之助自己流『回避スキル』は、見事に大敗したのである。
「さーて、弟子になってもらいますよ、曲里君! それとも、もう一戦交えるかい?」
「いえ、結構です……」
頭から煙を出して、机に貼り付いて動けない幸之助。
「これは……ワタシのデバンですね」
流暢な日本語でルーカスが組んだ手を口元に当て呟く。
「おっ、やる気ね!」
姫川も腕まくりをして気合を見せる。
「いや、その前にルーカスに突っ込んでよ」
「ボクのチョウゼツ【イカレタ】ノウリョクでセンセーをハイカにいれるヒがくるとは!」
「【イカレタ】って、それ、何時もだから。【イカした】の間違いでしょ」
痛々しい言い間違いを見ていられなかったのか、御縁は首を横に振り、目を瞑った。
「御縁さんもこの後やるかい?」
「あ、私は、遠慮しておきます」
両手を振って全力で御縁は拒否する。
「オーケー。そうしたら、弟子になる感じで良い? 違う勝負でもするかい?」
「あ、もうそれで、結構です」
「ふふ。宜しくね!」
すんなり御縁の弟子が認定される。
「ゴタクはここまでだ! さらばだ! ヒメカワ!」
流暢なブロンド野郎が、幸之助を外野席へはじき出して座る。
それを見て姿勢を正し、反対側に陣取る姫川。
ルーカスが目を光らせて叫ぶ。
「ファイッ!」
この日を境に、ルーカスは『ハンマー恐怖症』になった。