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第二十七話 代償


静岡で【ひかり】に乗り換え、呆気なく品川に到着する。

品川駅から山手線で原宿へ向かう為、三人は乗り換えロビーを足早に歩いた。

行きかう人は皆マスクをしている。


電車に乗り込むと、三人並んでシートに座り、電車に揺られる。

なんだろう。

デジャブのようで。


あのミサイルが落ちた日の事を思い出す。



「そう言えば、あの日もこんな感じだったわね」

 


御縁も同じことを考えていたようだ。



「御縁さんもそう思った? 僕もだよ」



「あの時と同じで、ルーカス君寝ているし」

 


ふふっと、御縁は彼の寝顔を見て笑った。

あの日も、今日も、御縁の可愛さは劣らない。



「違うのは降りる駅ぐらいか~」



「なんか、選択肢が変わったみたいな言い方ね」



「え? そう? なんかマズいかな」

 


口を閉じる幸之助。



「言霊使いなんだから、フラグは折らないと!」



「す、すみません」

 


反省して頭を下げると、「えいっ」と、言う声と共に、チョップが幸之助の頭に振り下ろされる。



「これで許すわ」

 


顔を下にしたまま、幸之助はほくそ笑んだ。



空気を読まずに『原宿駅』到着直前アナウンスが入る。

二人はあたふたと体勢を整えた。


幸之助は肩にもたれかかるルーカスを揺さぶって起こす。



「オウ……。モーニングコールはノーセンキュー」



「良いから起きろ」



「もうスベてオワッタ。ヤマノテ、もういっしゅうしたらゴーホームするヨウ」



「おい、終わったとか言うな。言霊使いなら自重しろよ」



「ん? ジチョウカチョウ?」

 


幸之助が最終兵器をカバンから引き出すと、

ブロンド天パー金髪野郎は、ぱっちりと目を開けてドア前にスタンバイする。



「ヨーシ、イチバンにカエルでゴザルヨ!」

 


屈伸もして見せる。

空元気なのが分かる程、顔は笑っていない。

 


そんなにトラウマなのか。



「ウォーキング、ウォーキング。アイムハッピー。クモのスくぐって、まわれみぎ!」

 


ルーカスはどこかで聞いたことがあるような意味の分からない歌を口ずさみ、

原宿駅の改札をスタートゲートに見立てて走り出す。



「負けないわよ」

 


御縁も自然と走り出した。



「え、ちょっ」

 


幸之助も後を追った。



明治神宮の境内を駆ける。

夜風が少し冷たい。



師匠二人に、無事役目を終えたことを報告せねば。

二人も同じ気持ちなのか、笑顔で足を動かしている。

 


この後、どうなるのだろうか。

役目を終えた後も、回避や言霊は使えるのだろうか。


また退屈な現実が訪れるのか。

それとも、ワクワクするような今が続くのだろうか。



思い返すと、ホントにあの日、あの場所で、姫川に逢えてよかった。

ゲーム以外、幸之助の現実を埋めてくれる存在はなかった。

そこから、彼女は連れ出してくれたのだ。

蓋をしていた世界にもう一度、誘ってくれたのだ。



姫川に逢ったら、あの日の話をしたい。

今までもチャンスはいくらもあった。

でも、素直に伝えることが恥ずかしくて言えずにいた。

心に留めていた。


全てが終わった今だからこそ、改めて。

感謝の気持ちを伝えたい。



「イチバーン!」

 


幸運の持ち主ルーカスはやはり持っている男だ。

 


後続の二人はほぼ同時に到着。

久しぶりに走ったせいか、息が上がる。



「ナカジマシショウ! カエッタヨウ!」

 


ルーカスが社務所の玄関を開け、叫ぶ。

 


中は照明が付いておらず、どんよりと暗い。

留守だろうか。



幸之助と御縁は、異様な空気を察して顔を見合わせる。



「とりあえず、中に上がらせてもらおうか」

 


御縁が靴を脱ぎ始めた。


ルーカスは放り投げるように靴を蹴散らかして廊下を駆ける。



「タダイマデース!」

 


勢いよくルーカスは襖を開けた。





「ナンダコレ?」





異様な空気に流石のルーカスも察して自重する。

その場に立ち尽くして目を伏せた。



背後から追って覗くと、模擬ロウソクの火で薄暗いオレンジの明かりに包まれた何かが目に飛び込む。



横たわっている。

周りには花と布団。

写真と白い布。

線香の香り。




「え、何? どういうこと?」

 


御縁は口に手を当てた。

涙が今にも零れそうだ。




「おい。嘘だろ。フラグ立っていたからって、そんな展開期待してねぇんだよ」

 


幸之助は声を震わせて、やり場のない怒りを吐き出した。








「姫川……冗談だろ……」

 





遺影に写っているのは、紛れもなく。

スタイリッシュなお姉さんだ。




「え? 冗談よね。ドッキリとか、布取れば違う人とか?」

 



苦笑いで御縁は呟く。

 

ルーカスが静かに布を取るも……。

無言のまま、目を瞑った。

 



背後から足音。

幸之助が振り返ると、そこに喪服姿の中島師匠が立っていた。



「君たち……。帰ってきたのか」



「どういうことですか!」

 


幸之助は涙交じりに、説明を求める。

 

バツが悪そうな顔。

中島師匠は目を反らして、口を開くのを拒んだ。





「すみません! こちらが姫川さんのお宅でしょうか?」

 



突然、玄関から大きな声で家主を呼ぶ女性の声。

切羽詰まった感じに聞こえる。

 



幸之助を払い、中島師匠は玄関に向かう。



「はい、確かに。でも、彼女はもう……」

 


見知らぬ女性に中島師匠が話を始めると、



「私、彼女の友達の時雨結菜しぐれゆなと申します。彼女、美作澪さんですよね。今は、姫川結衣を名乗っているとか。彼女に合わせて下さい! 行方不明になってからずっと探しているんです!」

 


と、強引に迫ってきた。



「申し訳ない。彼女には逢わせられない。いや、正確には逢うことができないんだ」

 


凄く辛そうなくしゃくしゃな顔で、中島師匠は頭を下げた。



「それは……どういう意味ですか。彼女は居るんですよね?」

 


時雨は靴を脱ぎ、中島師匠の間をすり抜けようとするも、片手に阻まれる。



「行かせてください。彼女の手がかりをやっと手に入れてここまで来たんです。逢わせて下さい!」



「ダメだ。お引き取り下さい」



「嫌っ!」

 


時雨は中島師匠の脇の下を潜り抜け、襖の奥へと足を踏み入れた。



一呼吸置いて、聴こえる悲鳴とむせび。



「なんで、なんで!」と、やり場のない想いが轟く。



「中島師匠、何があったのかお話して頂けますよね?」

 


冷たく悲しみに満ちた声色と表情で、傍で話を聞いていた御縁が確認を取る。


クールを通り越して、凍り付きそうな程の言霊が部屋の温度を一気に下げた。




「分かった。落ち着いたら、神前に皆来てくれ」

 


そう言い残して、中島師匠は奥の部屋へと消えていった。


 





三人は俯き、神前に正座して待機した。

一緒になって、時雨も正座をして待っている。

 



奥側から音を立てずに綺麗な所作で中島師匠は現れた。


四人の中央まで来ると、対面して正座する。



「先ずは姫川と私との出会いについてから話そうか」

 


そう、中島師匠が口を開いた。

 


皆、無言で中島師匠を見つめる。

重い空気が漂う。




「私は『光の御子』から鏡を分け与えられ、東京で神器を扱うのに相応しい若者を探すよう指示をされた。神器は探すまでもなく、ここで密かに保管されていたことを知っていたので、後は、目ぼしい人を探すだけだった。君たちは『一度』、時渡りをした者で良いのかな?」

 



中島師匠は三人に目を配らせる。



「ああ、そうだ。それが、どうした?」



「曲里君、時渡りの『最後の条件』を覚えているかね?」



「ある条件を達成した者にしか伝えられない『代償』でしたよね」

 



幸之助が答えるより先に、御縁が返答し、中島師匠は頷いた。



「その条件が、『一度以上』なんだ」



「あのぉ……。すみません」

 


隅で申し訳なさそうに手を挙げる時雨。



「私、その、『時渡り』とか、異次元のような力? っていうのは知らないのですが……私みたいな一般の人が聞いていいものなのかなぁ? 私にもできることがあるんじゃ!」



「君は才能というか、神や聖霊と交流できる程の力を有していないみたいだから。聞いても問題ないが」

 


中島師匠は何も躊躇いもなく答えた。



「え、あ。そうな……んだ」

 


とても残念そうな顔でしょげてしまった。

自分も何か力を得られるのではないかと、若干期待していたのだろう。



ごめんよ、時雨さん。

貴方のその想い、無駄にはしないから。



「気を取り直して話すが……。代償は『寿命』だ」

 


該当者は顔を青くする。

 


やはり、そうだったのかと、幸之助は納得。

命に関わることだろうと、何となく予測していたが、直結しているとは。



「じゃあ、姫川さんが亡くなったのも……」

 


御縁が中島師匠に問いかけると、



「そうだ」

 


と、一言で返す。



「じゃ、じゃあ姫川……。先生は、僕らに『寿命』が近いことを黙っていたのか!」

 


幸之助が確認するも、



「そうだ」

 


と、それ以上語ろうとしない中島師匠。




「なにかいうことはないデスか。それでも、ヒメちゃんのししょうデスか」

 


隣から怒りの籠った流暢な日本語が聞こえた。

 


普段、ヘラヘラしているアイツがあんな顔をするなんて。


怒りと悔しさがにじみ出た何とも苦しそうな顔で中島師匠を睨むルーカス。

 


中島師匠は頭を下げた。



「ああ、わかっているとも。全ては止めきれなかった私のせいだ。彼女は私の忠告をすり抜けて、気づいた時はもう……手遅れだった。悔しいに決まっているだろう!」

 


中島師匠も眉間に皺をよせ、感極まって叫ぶ。

 


騒然とした空気に気まずくなり、すまないと、付け加えた。

 


ルーカスは目を思いっきり瞑った。



「ナンデ、デスカ。ヒメちゃん、いってホしかった。なら、ボクがタスケルばんデス!」

 


ルーカスは合掌し、祈り始めた。

が、許可が下りず、何も起こらない。



「ナンデ、なにもおきないデスカ!」

 


やるせない想いが、神前内に響き渡る。

 


中島師匠は、彼の背中を擦って宥めた。



「どうか落ち着いて聞いてほしい。どうして姫川はこうなったのか。彼女はどういう人生を送っていたのか。包み隠さず話すから」

 


そう呟くと、中島師匠は深呼吸をして、口を開いた。



「彼女と出会ったのは、病院だった」




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