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第二十六話 祈祷の日


翌朝、十月一日。目が覚めて幸之助はダイニングルームへと向かった。

先に起きていた御縁が、椅子に座ってスマホを弄っている。



「あ、モーニン! 曲里君!」



「お、おはよ。何しているの?」



御縁の表情が少し曇っている。



「うーん。あれから、姫川さんからの連絡が来なくて」



「あー。今日までに来なかった場合は、僕たちだけでやるんだよね?」



「そういう話だったわね。三人だけで大丈夫かしら」



幸之助は腕を組んだ。



「まぁ、多分。大丈夫かと……」



ぶっちゃければ、不安だ。

彼女ほどのカリスマ性は自分たちにない。



「でも、こうなった以上、やるしかないわね」



「ドーシタ? おフタリさん!」



ルーカスがハイテンションで現れる。



「お、ルーカス」



手を軽く上げて幸之助は返事を返す。



「モーニン! ルーカス君」



「グッモーニン! キョウもブイッとイクンダヨ~!」



ルーカスはピースをビシッと繰り出す。



「ごきげんようですわ!」



ソフィアが釜めしを持って背後から現れる。



「オー! スゴイね!」



「近場のお店に、昨夜注文しておきましたの! どうぞお召し上がりくださいな」



「ありがとう、ソフィアさん」

 


幸之助の言葉に、微笑んで会釈するソフィア。

三人は座席に座って、釜めしにありつく。



「食べながらお聞きくださいな。事任八幡宮までの地図を用意いたしましたの」



「ありがとう、ソフィア」



咀嚼そしゃくを終えた御縁が、手を伸ばし、それを受け取る。



「そちらまではどうやって行かれますの?」



「それなら大丈夫よ。瞬間移動スキップできるので」



「なしてそったなこどがでぎるの?」



ソフィアは驚いていた。



「あ、コホン。失礼しましたわ。どうしてそんなことができるのでありますの?」

 


ソフィアは照れつつ、気を取り直す。


今のは一体、何だったのだろう。



「えっと、言霊で時空を扱う術を習得しているので」



「本当ですの?」

 


ソフィアが御縁の元に迫る。



「ほ、ほんとよ」



「それは凄いですわ! 時空を扱う言霊はエネルギーの消費が酷く、耐えがたいものですのに……」



「うん。というか、言霊をご存知なのですか?」



「私も多少なり扱えますの」



「そうなのですか! 私たちは、ほとんど神器と聖霊の力を借りているので」



ソフィアは目を丸くした。



「今なんておっしゃいましたの?」



「え、神器と聖霊の力を借りて」



「なななな、なんですって! それは、ひじりの方の聖霊ですの? 神器?」

 


フラフラとよろめくソフィア。



「貴方たち、凄過ぎますわ……。交流すら中々許されない聖霊と繋がるなんて……」



「そ、そうなのかな」

 


ソフィアの驚き具合に御縁は照れて、顔を赤くする。



「流石、あの方に認められて、派遣されただけのことはありますわ」

 


ソフィアはとても感心しているようだった。



「では、後の事は任せますわね。私はこの後起きてくるお寝坊達のお世話がありますの」



「ありがとう。ソフィアさん」

 


幸之助がお辞儀すると、



「大したことではありませんの!」

 


と、可愛らしくスカートをつまみ上げ、お辞儀する。



「それでは、ごゆっくり」

 


ソフィアはキッチンへと去っていった。



「私たちも行きましょう」



「そうだな」



「レッツゴー! キョウダイ!」

 


御縁はソフィアから受け取ったパンフを広げた。



「行くよ。皆、イメージして」



幸之助は手を横に広げ、拳を開く。

それを見た二人は手をつなぐ。

準備完了だ。

 


言霊が聞こえる。



「汝らの求める所へ、移動を許し給う」

 


頭の中で瞬間移動スキップを唱え、スッと息を吸い込むと、瞬時に三人はダイニングから姿を消した。






周りに木々。

澄んだ空気と鳥のさえずり。

風のざわめき。

鳥居が三人の目の前に現れる。

 


人はまだ誰もいないようで。

早朝を選んだのは、どうやら正解だったらしい。



「さて、『ポジティブな言霊』を奉納すると言っていた様だけど、どんな言霊にすればいいのかしら?」



「それぞれの特殊スキルを含めた方が、災厄に対応できるのではないかな?」



「タシカニ! エムピーアイデス!」

 


ルーカスが手をクロスして目をキラ付かせた。



「えっと、どういう意味だ、ルーカス」



「マジ、パネェ、イノリ、デース!」

 


幸之助はカバンに仕込ませてあったピコピコハンマーを取り出す。

途端に、ルーカスはその場で固まった。



「で、災厄に備えられそうな祈りを言霊にして伝える必要があるってことだよね?」



御縁に確認を取る幸之助。



「そうね。ちょっと考えてみるわ」

 


そう言うと、御縁はタロットカードを出して、切り始める。

彼女の身体とカードに翡翠色の光が集まった。



「これよ!」

 


適当に切った山札の一番上のカードをめくる。

背後から覗くと、『世界』のカードだった。



それを見て、メモとペンを取り出す。



「うーんと。『世界』だから、この世界の平穏と言う所かしら? となると、災厄からのガードの言霊とか?」



「それイイネ! ボクはフコウをコウウンに!」

 


二人とも贈る言葉が決まったようだ。



「曲里君はどうするの?」

 


御縁が首を傾げた。



「オールマイティーの僕は……率直に『より良い運命』とか……かな?」

 


幸之助の発言に二人は目をときめかせて反応する。



「それ! 良い!」



「ボクモそうオモウ!」

 


二人に褒められると、照れくさい。



「じゃあ、行こうか」

 


幸之助の合図で、三人は一斉に鳥居内へ足を踏み入れる。


 

賽銭箱の前で、三人並んで祈った。

 

御縁は世界の平穏を。


ルーカスは不運を幸運に変える奇跡を。


そして、幸之助は、運命を好転させる力を。

 


ふと、声がした。



二人も気が付いて、御縁は「え? 何?」と、驚いている様子。




「汝ら言霊使いの願い、己等乃麻知比売命ことのまちひめのみことが承る。言霊に宿りし力を軽ずる事無く、己が責務に努めよ」

 



柔らかな女性の声。

耳に入ったその名は間違いなく、事任八幡宮のご祭神だった。




「今の……」

 


御縁は言葉を失った。

感激のあまり涙を頬に流していた。



「大丈夫。これで、僕らの役割を果たせたね」

 


幸之助は御縁の肩を優しく撫でた。



「ここまで長かったのか、短かったのか。なんか終わってホッとしたら気が抜けちゃった」



「ダイジョウブ?」



「ルーカス君、大丈夫よ」

 


ハンカチで御縁は涙を拭って微笑んだ。



「落ち着いたことだし、帰りは奮発して、二人とも、明治神宮の社務所まで新幹線で戻ろうか。二カ月後なら過去に飛んで戻らなくても、大丈夫でしょ」



「それもそうね。私は曲里君の意見に賛成よ」



「ボクモ! サンセー!」



「うしっ。帰ったら、何もしなかった姫川に説教だ~!」



「そうね。二カ月後っていうのも釈然としないし」

 


御縁はサムアップ。



「ヒメチャン! クビをあらってまってろヨウ!」

 


三人はバスで掛川駅まで行くと、新幹線に乗り込み、東京を目指した。




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