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第二十四話 成長、そして、奥義



「それで、曲里君は何ができるようになったのかな?」



姫川がひょっこりと、幸之助の顔の傍から顔を出し、ステータス表を眺める。



「ち、近いですよ」



「なぁに? 気にしてるの?」

 


ニヤニヤと、笑う姫川。幸之助は耳を赤くした。



「全体的な能力向上、それと潜在的に『言霊可視スキル』、『拳銃型言霊使用スキル』をそれぞれ五十万点所持している時点で、飛んだ逸材だわ!」

 


ステータス表を指差して話す姫川。

だが、幸之助は彼女と身体が密着し、それどころではない。



「ちょっと、聞いているの?」



「え? 聞いていますよ」



「さっきの事と言い、エッチなこと考えているでしょ?」

 


ニヤニヤと、少し小馬鹿にしたような視線を含んだ笑みで幸之助の頬を突く。



「や、やめて下さい……」



「あ~、否定しないのね。曲里君も『強運スキル』欲しかったり?」



「いえ。間に合っていますから」



「それ、どういう意味か詳しく!」

 


首に腕が回り、締められる。胸が余計に当たって、頭が真っ白に。



「あぁ。もう、やめて」

 


両手を挙げて降参を伝える幸之助を見て、姫川も手を離した。



「仕方ないわねぇ。今日はここまでよ」



「今日はって……。またやるつもりですか」



「まぁね」

 


また、あの怪しげな笑み。

加えて、スタイリッシュにすっと足を交差し、腕組みで胸が強調される。

思わずため息が漏れ出た。

いや、決していかがわしい意味ではない。



「エネルギーアップしている筈だから、先ず射撃練習をしてみて、言霊に慣れるっているのはどうかな?」

 


と、いつものペースで本題に戻す姫川。



「そうですね。試しに出してみますか!」

 


幸之助は、背中からスナイパーライフル型の言霊を引っ張り上げる。



「あれ? 軽い……」

 


ライフルの形状が変わり、ショットガンになる。



「変形しました! これもステータスが上がったからか?」

 


銃をまじまじと見る幸之助。



「能力値の底上げがきっかけで、適材適所の言霊を扱えるように向上したのね、きっと!」

 


指を立てて微笑む姫川。

何も変わったことはないのかと思っていたが、これは嬉しい。



「なるほど。オールマイティーならではの能力を見せつけることにしますか!」



「うむ! だいぶ曲里君も、フレッシュになったわね!」

 


ビシッとサムアップ。腰に手を当て、キリっとした立ち姿。

キレキレのスタイリッシュ。

 


幸之助もサムアップで返す。



「さ、みんな。もう一つ。勾玉を得たからこそ使える神器秘術を教えるわよ」

 


姫川の呼びかけで、彼女の元に集まる。丁度、御縁も襖から顔を出した。



「あれ? ルーカス君は?」

 


姫川が聞くと、



「あ、それなら疲れたみたいで、ちょっと休んでから来るみたいです」

 


と、御縁が説明する。



「そうなのね! 了解!」

 


ビシッと姫川は疑うことなく敬礼する。

 


御縁もニコニコと少し不気味な笑みを浮かべる。

敵に回してはいけない人を、ブロンド天パー野郎はやってしまったらしい。



「じゃあ、話をしてもいいかな?」



「是非!」

 


御縁は今か今かと待ちきれない様子だ。



「この術はとても尊いの! 何と何と! 時空を操作する能力よ!」



オーと、ありきたりな歓声が二人から上がる。



「何種類かあってね。一時停止ポーズ瞬間移動スキップ緊急回避アボイド無力化ナリファイ、晴れ乞い。そして、奥義は『時渡り』よ。意味を理解していれば、詠唱言語は何でも大丈夫よ!」

 


またもや感情のこもっていない歓声が上がる。



「二人とも! この凄さを分かっていないな?」

 


御縁は顔をふるふると、横に振る。



「いえいえ。寧ろ凄過ぎて反応に困るというか」

 


幸之助も頷いて反応する。



「それもそうね!」 

 


姫川は眼鏡をさっと胸ポケットから出して、スタイリッシュに装着する。



「これらの術は基本、聖霊から許しがないと発動できないの」



「具体的にどうやって発動するんですか?」

 


幸之助が手を挙げて質問する。



「祈ると神様に遣われた聖霊の言霊が聞こえるのよ。後は行いたい術と動きをイメージして、動作、詠唱等で発動させるといった感じかな? 目標は無詠唱ね!」

 


姫川は注目を集めようと、指を立てる。



「で、君たちには必ず奥義である『時渡り』まで習得してもらうわ! 災厄を防ぐにはこの力がどうしても要るのよ。やっと……ここまで到達できる人たちが現れて……本当に良かった」

 


姫川の目に涙が溜まっている。


そんなにも嬉しいのだろうか。

わざと演技をしているようにも見えなくはないが。

彼女の嬉しそうな笑みに誤魔化しや嘘の匂いはしなかった。

それだけは確かで。



「その、奥義には発動条件とか、あるのではないかしら? 奥義と言う程なのだから、他の時空術と違うのではないかと」

 


御縁がクールに手を挙げて訊く。



「良い質問ね!」

 


姫川は涙を華麗に拭うと、内ポケットから指示棒を取り出して伸ばして御縁に向ける。



「奥義『時渡り』には、おっしゃる通り厳しい条件があるわ。一つはお馴染み『イメージ』ね。対象者と繋がりたいと、イメージするの。過去に行きたい場合は、昔、実際に目で見た事象を想起させるのよ。過去に起きた時点の自分に入れ替わるような感じね。ちなみに、空想はダメよ。後、個人的な都合の良い場所を指定するのもダメね! 神様の都合や災厄の軽減に繋がっていないと、使用を許されないのよ!」



「未来の場合はどうするのかしら?」



「未来は着地点や人物、対象を選べないの。その人に必要とされる地点へ自動的に落とされるわ。未来は選択肢によって無限大だから、起きる事象の確立が高い仮想時間に飛ぶ感じになるのよ」



「それ以外の条件は?」

 


幸之助も御縁に続く。



「大きく分けて後四つ、留意することがあるわ。一つ目に、この術の権限は神が持っているということよ。重大な改変なので、殆ど許可が下りないのよ。そこで、許可が下りやすい飛び方を考えるのだけれども、【直接災厄軽減に関係する内容】ならば通りやすいわ」

 


御縁がメモを取り始めた。



「それに加えて、過去の物事の改変にも、神様が許す飛行範囲条件があって、事件が起きた際に、その場に居た当事者だけが飛行と介入が許されるのよ。要は、【被害者】、【加害者】、【改変者】の三名ね! 物が対象になることもあるわよ。それと、【改変者】は実際に居合わせなくても、同じ日に事実を視認していれば、後からその時間に入れることもあって、その場合は【最初に入った一名まで】が対象範囲よ!」



「【改変者】は『時渡り』を使った人と言うことですよね? 例えばですが、事件当時、時空術が使えなくて、三名の中の【被害者】に私が含まれていた場合はどうなるのです?」

 


御縁がペンを頬に当てて、姫川に質問する。



「ああ! それは大丈夫よ。範囲の中に入るわ!」



「なるほど。それと、もう一つ。何で三名までなのかしら?」



「良い質問ね! ズバリ、世界の崩壊に繋がるからよ! 一名でも増えると関与する人が増えるから、大きな歪みが生じちゃうのね。それだけ禁忌なのよ」

 


ふむふむと頷いて、ペンを走らす御縁。



「質問が大丈夫ならば、次に行くわね。二つ目の条件、それは【日に対して『時渡り』できるチャンスは一回だけ】なの!」



「つまり先程の話だと、後日、私が時空術を会得して使用しても、【改変者】が既に使用していた場合は飛べないと」



「そういうことよ!」

 


ビシッと、姫川は再び指示棒を御縁に向けた。



「で、三つ目だけど。同時刻に存在する自分がいる場合は、例え対象が非現実の存在だとしても、それらに認識されてはならないということよ。見つかった場合、飛んだ方が強制的に元の時空に戻され、それ以上過去や未来の改変は行えないの。そして、四つ目は……」

 


姫川の目が泳ぐ。何かありそうだ。



「ある一定の基準を超えて『時渡り』した人にしか、伝えられない代償があるのよ。それ以前に代償を知ってしまうと……、『時渡り』を含めた時空術は全て使えなくなるの。代償について無知であることが条件よ! あ、言っておくけれどマイナスの力ではないからね! 神器秘術は両方のエネルギー源を兼ねそろえているし、時空術は変えられない物を変える力だから、大きな負荷がかかるのよ!」

 


少し戸惑う二人。

 

元々あるはずのない力なのだ。

代償があることはおおよそ見当がついていたが……。


どういった副作用があるか分からない薬を飲まされるような気分。

まるで実験体だ。

リスクを負ってまで、飛ぶ必要があるのか。

簡単に決められる話ではない。


御縁も流石に渋っているようだ。表情が曇っている。



「大丈夫かしら。『時渡り』と言う程の力なのですから、代償があると聞くとかなりのモノを手放さなければならないように感じるのだけれども……」



「大丈夫、大丈夫。その証拠に、私生きていますし!」

 


ニヤニヤと、いつものように微笑む姫川だが、何故だろうか。

その笑顔が嘘のように感じる。



「ま、確かに経験者が語っているのだから、ホントだと思うけど」



「そうだよ! 曲里君の言う通り! 私は経験者。その代償を知っていても使えるのだから、なぁんにも心配は要らないのさ!」

 


姫川はドヤ顔を炸裂させる。いつもの如く、ラインの綺麗な仁王立ちと目力。



「そうおっしゃるなら……」

 


御縁はまだ決心がつかないようにも見えた。



「そうと決まれば、基本術を練習よ! 『時渡り』はぶっつけ本番で使用するから、祈りの感覚を研ぎ澄ませるために、神様に祈る訓練ね! そうと決まれば、神前へ集合! ルーカス君も探して連れてきてね!」

 


姫川は一足先に神前へと向かった。

 

肝心なルーカスはと言うと。

懸命な捜索の末、タロットの予測通り、水滴がしたたることのない程絞られた雑巾のようにシワシワな状態で発見された。


これが彼の運命だったのだ。





その後、祈りの練習とイメージングが行われた。

が、何も起こらない。

祈ることがこんなに気を使うものだとは思っていなかった。


神前に三人は正座をして、祈りの練習をし続けるのだが。

ものすごく気力も体力もいることで。


姫川が、いとも簡単に時空術を使う姿を目の当たりにする度、忘れかけていた彼女の凄みが思い出される。


あのミサイルの日の感動は、やはり嘘ではなかった。

そう確信できる。


スタイリッシュさも加わって、今も姫川は本当にキラキラしていた。

目を瞑るだけが祈りではない。

心を落ち着かせるは序の口で。


呼吸を落ち着かせ、我を抑え、気を感じ、息吹を感じ、鼓動を感じ。



「そんなんじゃダメ。神様の願い、人様の願い、己の願いをひとまとめにするの!」



と、姫川からアドバイスを貰ったが、意味が分からない。



次第に足はしびれてくる。雑念が入ってくる。帰りたくなる。




七月十七日。特訓を始めて三カ月は過ぎただろうか。

まだ力を宿す気配がない。

 


制服が夏服に変わり、三人とも上着がポロシャツになる。

 


今日も神前で正座をし、願い、イメージをしている。

屋根に落ちる雨音の振動が全身に伝わってくる。

 


それでも、諦める訳にはいかない。

大丈夫だ。

今は自分を頼ってくれる仲間がいる。


自分にしかできない力がある。

もう、あの時に戻ってやるものか。



一種の気まぐれで始まった現実と言うゲームの攻略。

でも、今は本気で取り組んでいる。


あの感動を、憂鬱の先にある景色を、自分の目と力でもう一度、確かめたい。

 

そもそも、ここまで学んで分かったが、『回避スキル』の存在は、自分だけのものでは無いものだった。


人々の価値観と運命を変える程の希望であり、神様の願いでもあり、貸し与えられた力だ。

そして、間違いなくそこにある。



いや、待てよ。ホントにそう思っているのか? 

自分は心のどこかで、まだこの力を否定しているのではないか?

 


そう気づいた時だった。

幸之助の胸元が翡翠色に輝き始める。

 


体が軽い。

いや、浮いているのだろうか。

温かな空気に包まれたような感覚。

 


ゆっくりと目を開くと、言霊が耳に届いた。



なんじ、目覚めの時。力を用いて災厄を軽減せよ。なんじが、全ての幸せを想うたましいを失わずば、神に遣える者と認め、力を許す。念じ給え。なんじの願い、叶え給う」

 


これが、聖霊の声なのだろうか。

とても高貴で美しく、目に見える言霊のモヤもキラキラと黄金に輝いている。

 


幸之助は声に出して願った。



瞬間移動スキップ!」

 


すると、神前の右隅から左隅へと瞬時に身体が消えて移動する。

 

初めての感覚、始めての空間術に幸之助は興奮を抑えきれず、うおぉぉぉっと、声を上げて喜ぶ。



「姫川さん、御縁さん、ルーカス! 今の、見た? すげぇ!」

 


三人も声を上げて喜び、駆け寄る。



「えっ! 凄い!」



「よくやったわ! 幸之助君!」



「ウワァオ~! ボクもはやくやりたいヨー!」

 


念じるコツを幸之助が二人に教えると、割とあっさり二人も時空術をマスターした。

 


他の術も要領が同じで、一度許されると使用するのは容易だった。

 

姫川は「私の教えが良いからね!」と、自慢げな様子だった。

幸之助は姫川の抽象的な説明が主な原因だったのではないかと、感じずにはいられなかった。



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