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第二十二話 フレッシャーズ


社務所の中へ案内されると、三人は畳の部屋に通された。

上座に中島師匠が座る。

それを見て、それぞれも空いている座布団に座った。

 


姫川は遅れて中に入り、お茶を配って回る。



「お忙しい所、ウチの弟子が強引にすまない」



「いえ、お構いなく」

 


御縁が率先して答える。

流石、学級委員だ。

 


うんうんと頷き、突如目に力を入れて、中島師匠は全員を見た。



ガラッと空気が変わった。

優しそうなイメージから、キーンと透き通った空気が漂う。



「早速だが、君たちはもう『回避スキル』について大まかに説明は受けていると聞いたが」



「え、はい。伺っております。た、確か、特性を知って、神様の願いを知って祈る……と言う感じかと……」

 


あのクールを保つ御縁でもひるんでしまう程の空気。

幸之助も凄みを肌身で感じる。



「大体はそれで合っている。その為に必要な知識を簡単に教えたと姫川より聞いているが、正しいかい?」

 


姫川が胸を張って、



「勿論よ!」



と、答えるも、



「何が勿論だ。上っ面だけ格好付けるのではなく中身を直せと、あれほど言っているだろうに」

 


と、姫川に物申す。



「すみません」

 


しゅんと、肩を落とす姫川。



「私はこの子たちの気を見れば、どれくらいの熟練度なのか大体わかる。付け焼刃程度の知識しか教えられなかったんだろ? もっと素直になりなさい」



「は、はい~っ!」

 


涙ぐむ姫川は、とても新鮮だった。



「姫川、これからもこの子たちの面倒を見るのだろう? しっかり頼むぞ」



「はいっ!」

 


中島師匠は一呼吸入れると、



「で、本題だ。この術の『力の根源』、『浄化のわざ』、『天皇と国の隠された歴史』の三つを君たちは知っているだろうか?」



と、突然難題を投げかける。

 


当然知るはずもなく。



というか、そのチートのような知識と術は一体何だろうか。

ちょっと厨二病臭い気もするが、一部の人しか知らない特殊能力の秘密が満載なワードにそそられる。


ゲームではなく、ホントに『回避スキル』なるものは、この世にあると分かっていたつもりだったが、それっぽい人に言われると、説得力があるというか。


ゲームの世界に入り込んだみたいだ。



「存じていません」

 


御縁は素直に返すと、



「それも聞いていないのか……。ったく、お前は何をやっていたんだ?」

 


と、中島師匠は姫川に鋭い視線を送る。



「えへへ」

 


微笑みながら頭を掻く姫川。



「えへへじゃない。彼らをどのように誘ったのかね?」



「たたいてかぶってじゃんけんぽんダヨー!」

 


ルーカスがハイテンションで答える。



「なぁにぃ? お前、説明もなしに半ば強引に勧誘しただろ」

 


中島師匠は拳に力を込める。げんこつが繰り出されそうになり、

姫川は「ひぃぃぃっ」と、頭を両手でガードする。



「はあぁ……。怒りきれん。姫川、詳細を説明しなさい」



長いため息を吐き、中島師匠は握った手を緩め、呆れた表情で姫川を見る。



「は、はいっ!」

 


とても素直な姫川。



「えっとね。まず何から話そうか……。そうね、『浄化の術』の出現からかしら」

 


コホンと咳払いをして、姫川は説明を始めた。



「確か、四年程前になるのかな? 『光の御子』という存在が突如噂されるようになって。なんでも、鏡の光を人に当てると癒されるとか。それがきっかけで、鏡で太陽の光を反射させて当てるという事件が起きるようになったのを覚えているかな?」



「ええ、火事や放火が多発して大騒ぎになったとか」



「結局、警察が入ってその事件や悪戯は収まったけれど、それでも噂自体は無くなることなくて。やっぱり『光の御子』はどこかに居るのではないかって、マスコミやらオカルト好きな大人が躍起になって探してね」



「それでどうなったのですか?」

 


御縁の質問に、姫川はこっそりと、囁いた。



「居たわよ。素性は明かせないらしいけれど、その人が中島師匠の師匠なんだって!」

 


一同、中島師匠に視線を送った。



「ああ、本当だ。私の師匠が起こしたとある事故が原因で、散らばった鏡を集める組織が生まれた。そのメンバーの中に、コピー能力を持つ鏡を所持している奴が居て、その能力を使用して、元となる鏡を含めた四つの鏡が生まれたのだよ。その内の一つを私が所有している。その反射光が癒しの根源で、別名『浄化の術』だ」



「どんな力が使えるのかしら?」

 


メモ用紙とペンを取り出して中島師匠に差し迫る御縁。

モードに入ったのか、目をキラ付かせている。

凄く生き生きとした目だ。



「鏡をかざすと、悪気や悪霊を浄化させることができるわ。体の異常や穢れを打ち払い、その人の持つ本来の力を取り戻せるようになるの!」

 


御縁の後ろで姫川は解説する。

すぐさま振り返って、御縁が急いでメモを取った。



「その、効能と言うのか、もっと具体的に」



「運気向上、危機回避、回復力向上、直観力向上、特殊能力取得と、あらゆる効果が期待できるわ!」

 


御縁が興奮で思わず、よだれを垂らしそうになる。

 

ふと、幸之助は御縁と目が合ってしまい、彼女は鼻を赤くして目を反らした。

 

幸之助は見ていなかったことにしようと、中島師匠に質問して誤魔化す。



「えっと。その鏡と今回の件とで、どういう関係が?」



「君たちの能力向上と辻褄合わせの為に、この『空間の鏡』を使えと、『光の御子』から依頼を受けている。それと合わせて、姫川を含む君たち四人に、鏡と同等に匹敵する【神器の模倣品】を使って、災厄の被害軽減に尽力頂きたいのだよ」

 


唐突に凄い依頼が耳に入る。

災厄の被害軽減。

それはつまるところ、災害を防ぐということだろうか。

もし、そうなのであれば、相当の力を有しなければ防げるはずがない。


例えばこの間の、弾道ミサイルの不発と言ったように。


確かに、言霊を使って周りに影響を与える力は僅かながら有している。

でも、それだけだ。

まだ使いこなせてすらいない。



「だ、大丈夫ですか? 一般人に毛が生えた程度の力しかないと思うのですが」



ルーカス、御縁も顔を見合わせる。



「問題ない。姫川程の力は無理でも、三人寄れば文殊もんじゅの知恵とか、三本の矢と言うじゃないか」



「は、はぁ」

 


このフランクさは師匠譲りなのかと、幸之助は中島師匠の言動で何となく納得する。



「それに私は、君たちに無理をさせるつもりはないのだよ。神器を渡すとも言っただろ?」



「神器とは、『三種の神器』の事でしょうか?」

 


御縁が確認すると、



「姫川、準備をするからその質問に答えてあげてくれ。すまない」

 


と言い、中島師匠は急に席を立って部屋を出て行った。



「師匠は話題に出た神器を取りに行ったのよ。いつも、こんな調子だから。びっくりしちゃったでしょ?」



姫川は滅多に見せない気遣いを御縁にする。

何時もそうであってほしいところだが。



「いえ、大丈夫です」

 


クールを未だに装っているが、緊張していたのか御縁の手が少し震えている。



「気にしないでね。で、神器についてだけど。四種のタイプを総まとめで『秘術』と言ったわよね? その四つの根源を超えた頂点に位置する秘術を行使できる品を神器と呼んでいるのよ!」

 


姫川はこっそりと静かな声で話を始めた。

三人は聞こえるように姫川の下に寄る。



「他言無用でお願いするわね。御縁の言う通りで、『八尺瓊勾玉やさかにのまがたま』が皆に渡す神器よ」



「……」



 一同、言葉を失った。

あの天皇家が所有する神器だ。

模倣品とは言え、そんな代物しろものを扱って良いのだろうか。


というより、何故そんなものがここにあるのだろうか。

 


ふと、二人を見る。

ルーカスは意味が分かっておらず、「ドウシタノ?」と、

周りの異常さに首をせわしく動かしている。



御縁は事の重大性に冷静さを失ったのか、ボソボソと、何か呟いている。



「え、えっと? ちょっと待って。今、『八尺瓊勾玉』って言いましたよね?」



「そ、そうよ、御縁さん」



「天皇しか所有できず、見ることも許されないトップシークレット品ですよ!」

 


姫川に近寄って問いただす。



「そうよ。だから、今回渡す品は仮説を基に作られた模倣品よ。とはいえ、明治神宮建設時に内密で分魂を行った物だから、力は本物と言えばいいのかなぁ? お借りしているものと言えばいいのかなぁ?」



「は? え? 本物の力を引き継いでいる。それを私が?」

 


御縁は「どうしよう、どうしよう」と連呼し、目は血走ってご乱心。

興奮が止まらないのか、遂に発狂する。



「ドーユーコト?」



「えっと、神様の品をレンタルするって事かな」

 


わかりやすい言葉を選んだつもりだったが、これで伝わっただろうか。



「オー。なるほど! だから、マジョはクレイジー?」



「そういうこと」

 


ルーカスはうんうんと深く頷き、凄く納得している。



「待たせた。君たちに今からこれを託す」



中島師匠がお盆に三つの勾玉を乗せて持ってきた。

勾玉は、間に様々な形をした数珠玉じゅずだまが入り、円状に結びつけられている。

何か規則性のあるような配列だ。



「こ、これが『八尺瓊勾玉』ですか?」

 


幸之助は立ち上がり、近づいてみようとする。



「あくまで資料を基に作り上げた模倣品だ。本物はどんな形をしているのかは分からずじまいだ。ただ、歴代の天皇はこの勾玉を使い、星々の運行や季節を読み、祭事を執り行ったとされている。いわゆる、万能の暦、時間を司る神器だ」



「す、凄い……」

 


宝飾品と言われるだけあって、ツヤツヤと光沢が見受けられる。

きらびやか、とまではいかないが、シンプルな造形の中に神々(こうごう)しさを感じる。

ふれるのが恐れ多いという感覚だ。



「実は、もう私も付けているんだ~」

 


姫川が首元から、それを見せる。

何だろうか。

姫川が付けている様を見ると、一気に庶民の装飾に見えるのは。



「ああ、通りで。だから、姫川さんはそんなに力が強いのですね」

 


幸之助が棒読みで姫川を褒めると、



「いいや。鍛錬しないとコイツは扱えないぞ!」

 


と、普通のテンションで答える。



「はい? 付ければ、能力向上するのでは?」



「試しに着けてごらんよ。百聞は一見に如かずでしょ?」

 


姫川に言われた通り、中島師匠から神器を首に掛けさせてもらった。

その瞬間、幸之助は気を失った。





「はい、起きるのよ!」

 


顔をビシビシと、姫川にビンタされて目を覚ます。

先程の部屋の天井が見える。



「ね。わかったでしょ! 己の力が負ければ、装着できないのよ」

 


姫川はスタイリッシュに、指を立ててウィンクを決める。



「なるほど。えっと、その」

 


動揺して目を動かす幸之助。



「何かしら?」



「そろそろ、そこをどいてくれると嬉しいのですが」



「あっ、ごめんなさい!」

 


馬乗りになっていた姫川はうなじまで真っ赤にして離れる。



「それと、姫川さん。残りの話がまだなのでは……」

 


御縁の指摘で、我に返る。



「ああ、えっと『力の根源』だったかしら? 学校で教えた通り、神器で使う根源は『言霊』よ! 発動の流れは説明したわよね? イメージと言葉の意味を神様に祈ると、担当が能力を許可するの。曲里君は、拳銃の精霊の許しがあって、弾丸型にイメージできるのね。他にも、物に力を込めたり、気を送るような動作をして発動したりできるのよ。ま、許されないと、具現化されないけれどね。後は、詠唱ね。さっき言った祈りの流れが速くなると、頭の中で発音するような感じになって、無詠唱で発動できるわ。それに、師匠の鏡でこれから本質を浄化するから、どんどんステータスを上げてもらえるのよ!」



今までのアレは、神に繋がりやすくするための授業ってことか。



「神様の目的って何かしら?」

 


御縁が腕を組みながら、さらに質問を投入する。



「神様の目的は、正常な状態に戻すことよ!」



「正常な状態?」



「そうよ! 皆、ネガティブな言葉ばかりを使い過ぎたのよ。ネガティブな言霊が積み重なって、伝承や伝説とされていた『終末の世界』を現実化させるところまで膨れ上がってしまったの。皆、そのことを知らないで平然と生きているけれど、このままだと、もっと酷い災害が起きて大変なことになるわ!」

 


ざっくりと凄い事を説明している気がするが、幸之助はとりあえず頷くことにする。



「もうマイナスのエネルギーを帳消しにはできないから、神様は『ポジティブな言霊』を捧げることで軽減させようと考えたのよ! それが神様の目的よ! その為に私たちは集められたのよ!」

 


三人は壮大な計画に呆然とした。



だが、おい、待て。集めたのは姫川、お前だろうが。



「それと、『天皇と国の隠された歴史』っていうのは、その言葉通り。簡単に言うと、日本は『天地創造の神様直系の国』ってことよ。信じられないかもしれないけれど、その証があらゆるところに隠されているのよ。そして、あらゆるご尽力のおかげでその神の血は今日まで守られているのよ。その末裔が天皇家、スメラミコトなの!」



「え? 本気ですか?」

 


姫川の目に迷いはなかった。



「え、でも、天皇の事を知って、何が変わるんだ?」



「国に対する意識よ。天地創造の神様の末裔を失う事は、何に繋がると思う?」

 


幸之助はその言葉の重みにゾッとして息を呑む。

地球が終わると、容易に想像ができる。



「言わなくても分かるわよね? 加えて、『八尺瓊勾玉』を扱うとなれば、それなりに神に近い血を継いでいる必要があり、災害から国を守る意識が必要になるって訳よ!」

 


点と点が繋がった。

だが、あまりにも責任重大ではないか。



「はい、そうと決まれば、夕方毎日特訓ね。『浄化の術』で本質を浄めてお祈りを通じ易くするわよ! 神器が装着出来るようになったら、きたる日の災厄に備えるの! そうじゃなきゃ、この力を許された意味がないわ!」

 


座り込んでいた幸之助の身体をグイっと引き起こして、姫川は彼の背中を叩く。



「ちょっと待って。結局、災厄について詳しく聞いていないんですけど」



「そりゃぁ、気絶している間に話しちゃったし!」

 


姫川は話そうか、話すまいか迷う仕草をして幸之助をからかう。



「はぁ。ならいいですよ……」



「うそうそ。話すから!」

 


慌てて訂正する姫川。

背後で威圧を感じたからだろう。

幸之助からは凄みのあるオーラを漂わせた中島師匠がはっきり見えていた。



「いつ起こるかは分からないわ。けれど、近いうちに起きると、あらゆる伝承から予言されているのよ」



「流石にもう驚かないよ。色々、突拍子もないことだらけだからね」



「良い心掛けね! そうでなくっちゃ!」

 


ビシッと、姫川は指を幸之助に向ける。



「色々な言い伝えがあるから、どれが本当なのか分からないのだけれども。噴火・火事、それに流動して、地震が起きて。爆弾の火が降り、天から火球や隕石が降り、病原菌蔓延と食物の不作も生じるといったような伝承よ」

 


いつもにない迫力で言葉を紡ぐ姫川に圧倒される。

差し迫る危機をひしひしと、感じた。



「それを救う、地球防衛隊。それが私たち、『フレッシャーズ』よ」



「ダサっ!」

 


思わず声に出てしまった。

ええい、やけだ。



「ダサって何よ!」



「この際だから言わせてもらうけど、それじゃ、新卒者の集まりみたいな組織じゃないですか!」



「え? 格好良いじゃない! 爽やかそうで、響きも良いし」



「曲里君! その通りよ」

 


御縁よ、わかってくれたか。



「超格好良い響きなのが分からないの?」

 


マジか。



「オー! ピカピカのキラキラなネーム!」

 


ルーカスはサムアップした。

何じゃ、これは。



「ということで、『フレッシャーズ』始動よ! 神器を装着できるために、これから毎日、鍛錬ね!」

 


姫川は胸ポケットから眼鏡を取り出し、掛ける。

キラッと光るグラス。



「決まったわ!」

 


突っ込み所が満載なのはさておき、幸之助たちの『回避スキル』向上特訓が幕を開けた。


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