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第二話 金髪野郎、現る



「あ~。資料ダメになっちゃった~。バイバ~イ!」



 反対のホームと線路に散乱する資料。彼女は電車と人々に踏まれたそれに向けて手を振った。



「あ、あの。今のは……」



 幸之助の声に反応して、くるっと彼女はこちら側に振り返る。

 その場に正座する幸之助の視線に合わせるように、彼女も膝を曲げて座り、幸之助の顔を覗いた。



 間近に彼女の顔が迫り、鼓動が早くなる。死を目の前にした恐怖なのか、緊張なのかは、分からない。が、荒っぽい息を深く呼吸をして落ち着かせて、彼女を見つめた。



 サラサラの茶髪ストレートをポニーテール風にヘアゴムで止め、耳も眉もしっかりと見えるように横分けしている。

 おかげでくっきりとした眉と可愛らしい目が印象に残る。

 正に就活生と言った格好。

 すぐ埋もれてしまいそうなのに、どこか格好良さが際立つ。

 胸にサングラスがあるからだろうか。

 加えて、華やかなコロンの香りが、さらに彼女をフレッシュにさせている。

 胸は感想を控えたい。

 要するに、注視したくなる程の良いモノをお持ちと言うことだ。




「少年、大丈夫?」



「だ、大丈夫です」



「本当に?」




 彼女は幸之助の状態を気にかけ、しっかりと彼の目を見て、首をかしげる。



「ホントです」



 心配されないようにと、はっきり答えた。

 それを聞き、彼女は少しニヤニヤと悪戯に微笑む。

 明らかに何かを含んだ目をして「じゃあ」と切り出した。




「私、魔法使いなのって言ったら、少年は信じてくれる?」




 サッと日差しが入り、駅上空に虹が一瞬だけ現れる。



「えっと……まあ」



 幸之助は目を反らす。



「ふふ。素直な子なのね。からかってごめんなさいね。怖がらなくていいのよ」



 幸之助の反応に彼女は微笑み返し、そのまま彼を抱きかかえて頭をなでる。

 柔らかな胸の感触を顔面に感じる。

 急なことで、幸之助の耳は真っ赤になってしまった。




「めっちゃ、ええ感じでんがな!」




 突然、背後から大きな声がした。



「へっ?」



 彼女は後ろを振り返った。

 ブロンド髪の高身長な青い目の男子生徒がすぐ傍で二人を見ている。

 聞き覚えのある声とストライプ柄のズボンとネクタイ、紺色のブレザー。

 そして、彼のトレードマークである天パーが視界に入り、幸之助は思わず目頭に手を添えた。



「オー。コレがジャパニーズニンジャ! クノイチなのか? イロジカケもスゴイな! コウタロウ?」



「ちげーよ、ルーカス。誤解だ。というか、僕は幸之助だ!」



「スゴイヨ! ソラとんでたヨ! クールジャパンサイコー! フゥー」




 彼はルーカス・ロバーツといい、昨年の春、上野五條高校に共に入学した同士だ。

 なんでも、中学の時に日本のアニメにハマり、アニメを理解しようと日本語を学んだそうで。

 聖地巡礼をしたいが故に留学を熱望し、隠れゲーマーだった叔父に両親を説得させた上、資金全てを叔父が立て替えてくれて、東京へやってきたのだ。



 その代わりとして、その叔父からの買い物代行は絶対で、学校を休む理由の大半がそれだ。

 なので、電化製品やアニメグッズの宝庫である秋葉原に、彼はよく出没する。


 

 ぶっ飛び過ぎているので関わるのを避けていたのだが、高二から同じクラスになり、ゲームをしているのを休み時間中に見られてしまい……。

 通学の方向が同じと言うこともあって、良くつけられるようになった。




「え、なんで? アレが見えていたということは、時間停止の言霊ことだまが効かないってこと? そんなバカな……」




 彼女もこの状況に動揺しているようだ。




「トモダチ、タスケテくれた! アリガトゴザマス!」




 ルーカスは彼女の手を取って握ると、ブンブンと振って感謝を表現。




「……ありがとうございます」




 複雑な気持ちだが、ここはルーカスに便乗して、助けてもらったお礼を伝えなければ。感謝の言葉を聞き、動揺を隠して素早く立ち上がる彼女。




「れ、礼には及ばないわ。困っている人を助けるのは当然のことよ。私、フレッシュでスタイリッシュに決めるがモットーなの!」




 スタイリッシュさんは腰に手を添え、悪戯な笑みを含んだドヤ顔を繰り出した。

 何故だろうか。妙に説得力がある。きっと、リクルートスーツのせいだろう。




「オー、サスガだってばよっ! ニンジャ、ハラキリ!」



「お前、ちょっと黙れ」




 幸之助は立ち上がると、ルーカスの口元を抑えた。




「さて、少年! 君はフレッシュさが足りないっ!」



 ビシッと指をさされる幸之助。



「はぁ?」



 あまりにも突然で、腑抜けた声が出てしまった。

 人生経験豊富の大人に言われるのでもなく、就活生にご指摘をいただくとは思ってもいないわけで。幸之助は少しイラつくのを我慢した。

 

 自称スタイリッシュさんは構わず、幸之助の身なりと顔をじっと見回す。




「死んだ目をしているね」



「死にかけたからね」



「そうね。ならば、この世界を楽しむ秘訣を教えてあげるわ」



 

 ヘアゴムと取り、さらさらと髪をなびかせて上から目線な口調で教示が始まった。幸之助は適当に「はあ」と、相槌しておくことにする。



「オー。ナニがでる? ごきげんよう? サイコロふっちゃう?」



 ブロンド天パー野郎が何か横で言っている。




「君はこの世界が退屈と不幸であふかえったクソゲーだと感じているでしょ?」



「はい、その通りですが、何か?」



「ボクはそんなことナイヨー」



「ルーカス。ちょっと黙っていてくれ」




 ルーカスの頭を軽く小突く。




「でもね、それは違うのよ」



「貴方もこの状況で続けるんですね」



 もう疲れてきた。ああ、もうどうにでもなれ。



「オフレコなんだけどさ、実はこの世界はね」



 と、スタイリッシュさんは幸之助の耳元に小声で囁き始めた。



「ええ」



 幸之助も耳を立てる。ルーカスも真似して近づく。





「運・回避・回復スキルを神様から上げて貰った人が無敵化する世界なのよ。要は、困難から『回避した者勝ち』なの! 凄いでしょ!」





 スタイリッシュさんは「ふふ」と、微笑む。



「凄いことを教えてくれた様ですが、神にスキルを上げてもらう? 本気で言っているのですか?」



「え? 勿論、本気よ! 神様はいるわ!」



 スタイリッシュさんの目に曇りはない。



「えっ、マジですか」



「うん、マジのマジ」



「ウワォ! スゴイヨ! ゴッドのパワーがテにハイるヨー!」



 ルーカスが目をキラキラさせて雄叫びを上げる。



「で、早速だけど君! 私の弟子にならない? 君、素質ありそうよ。ルーカス君も一緒に! 二人とも適応者だと思うの! どう?」



「結構です」



 幸之助は迷うことなく、あっさりと答える。



「モチノロンで、やりマース!」



「えっ、ちょっ。ルーカス!」




 幸之助はルーカスの手を引いて止める。



「フワッツ? コウタロウはやらないの?」



 ルーカスはオーバー気味にびっくりした顔をする。

 スタイリッシュめ、新手の勧誘か? ブロンド天パーとは違って騙されないぞ。



「え~、そんなぁ~。それはないよぅ」



 ぐすんぐすんとスタイリッシュは目に涙を溜めた。明らかに嘘くさい泣き方だ。

 あー、もう。馬鹿馬鹿しい。



「はい。では、自称スタイリッシュさん、僕は失礼します」



 幸之助は言われた通り、スタイリッシュさんを回避することにした。



「え~、泣いている女の子置いて行くなんて信じられないっ! ちょっとぉ~、待ってぇよぅ。しょうねぇ~ん!」


 

 幸之助は捕まらないように、急ぎ足で乗り換え口に向かう。

 ルーカスは残念そうに、とぼとぼと幸之助の後を付いていく。




「あ~あ。フラれたちゃったなぁ~。まぁ、いいか。あの校章からして、まだ会えそうな希望あるし」



 と、自称スタイリッシュが意味深な事を呟いたのを耳にしつつも、幸之助は振り返らずに足を進めた。


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