第十一話 言われる通りにやってみた
放課後、珍しく御縁がルーカスを連れて声を掛けてきた。
「曲里君、この後時間ある?」
「う、うん。僕は大丈夫」
「了解。そうしたら、帰りに五條天神社へ寄って行かない?」
「何か願い事?」
何をする予定なのだろうか。もしかして、恋愛成就辺りだろうか。それは、もう少し待って欲しいのだが……。
「運気が上がったのを確かめたいし、さっきの話を早速実践しなきゃと思ってね」
幸之助の思い違いだったようだ。早とちりは良くないな。
それに、境内はよく素通りするのに、お参りはしていないのは罰当たりだろうし。
「それは良い。ついでにおみくじも引こう」
「良いわね!」
「でも、御縁さんは自分で占った方が当たるし、意味あるのかな?」
幸之助の発言に、御縁は少し口を膨らませた。
「占いはいつもやっているから、今日はお休みよ」
いつも見せない御縁の表情に、「おい、あのクールな御縁が表情を変えたぞ」と、周りが少しざわつく。それに気づいて、クールに装う御縁。
「おみくじ! ウンメイや、イカに!」
ブロンド野郎が流暢に叫んだ。ルーカスの国籍を二人は疑わざるを得なかった。
学校を出て動物園通りを歩き、三人は目的の神社の西鳥居の前まで来た。
丁寧にお辞儀をして幸之助は境内の中に入る。御縁もその後に続いた。
ルーカスはと言うと、見様見真似になるわけで。
階段を上り、拝殿前まで来ると、お賽銭を入れ、二人は二礼二拍手一拝する。
姫川に言われた通り、幸之助は神様の願いを成就させたいとお参りする。
ルーカスはお賽銭箱にお札を入れ、ヘッドバック級の二礼と大きな二拍手を繰り広げる。
最後の一拝は直角に等しい礼で、見ていて痛々しかった。
「さ、おみくじ引きましょ」
御縁は拝殿から見て右手にある社務所にトコトコと、駆けていく。
幸之助も後に続いて御縁を追いかけた。
「マッテ、コシ、イタイ。オマイリ、キアイがいる」
ルーカスが腰に手を当て、ゆっくりと、こちらに向かってきた。
健康成就のお守りでも買ってやろう。
社務所に全員揃うと、それぞれおみくじを引いた。
「じゃあ、皆で一斉に公開ね」
と、御縁が嬉しそうに二人へ声をかけた。
「せーの」
御縁の掛け声で手の平に包んでいたおみくじを一斉に開くと、あろうことか、全て大吉だった。
「こんな事ある?」
「ウワォー! スゴイ!」
「マジか……」
「詳細はなんて書いてある?」
幸之助が二人に聞くと、
「私は総じて願いが叶いますだって。商売も上場。良いことありそうね」
と、御縁は嬉しそうにおみくじを見つめ、
「ボクもオナジ! ドリームはすぐそこに!」
と、ハイテンションに飛び跳ねるルーカス。
肝心の幸之助は、恋愛の項目に『深く愛される』との記載があり、冷や汗。
でも、それ以外は比較的良い運勢だった。
「ちなみに、御縁さんは神様に何をお願いしたんだ?」
幸之助が尋ねると、
「オカ研に曲里君が入部しますように」
と、迷いなく御縁が答える。
「え、まだその願いは継続していたと……」
幸之助の額から汗が噴き出てきた。
「冗談よ」
「そ、そうだよね」
御縁の表情を改めて確認するが、どうもそうとは思えない。
「ボクは、ゴッドのパワーをサクレツさせマス! そうイノッタ!」
「あー。はいはい。ルーカスなら、できるよー」
野郎の願いは聞いていないのだが。
「オー。サスガ! ボクノマブダチ。コウノスケ」
「おま、初めて名前を……」
奇跡だ。感極まり涙が溢れる。神様ありがとう。
「何? どうした? コウタロウ?」
「撤回だ。僕の涙を返してくれ」
「あはは……」
御縁は口角を引きつらせて苦笑いをした。




