少年、天使に焦がれた。
「はぁ、不幸だ…」
埃くさい、興味のない人間からしたらただの広い紙の集まりがある乾燥した部屋。
「成績悪くて罰があるなら補習のほうが良かったのに」
「手を、動かしなさい」
凛とした声に振り返るとむっつりとした顔で不機嫌を露わにする同じ学校の制服を身に着けた少女が一人。しかし背には翼が生えていて、それが緩慢な動きをして人間ではない存在だと象徴をしていた。しかしそれも残念なことに丸い机の上に上品さを忘れて足を組んでいる。ついでに誰も見ていないからってシャツのボタンだって外してる。純粋だって思ってた天使のイメージが崩れるのでちょっとやめてください。っていうか見えそうです。やめて。
「働いてるの見るだけって退屈よ」
「うるせー俺だって早く帰りたい…です」
「ふーん、帰ってなにしたいの?」
「腹減って考えられない。まずプレミアムスイーツ買い食いしたい。一秒でも早く口を甘く満たしたい」
「ささやかな幸せね…」
「人間はそういうちっさい幸せ重ねて大きく幸せになってくもんなんです」
日常の幸せはささやかなものが良い。と、いうかそんな盛大なことはできない。
授業の一環の召喚術で呼び出した彼女のランクが高すぎて、校内でひきつれていないといけない日中は魔力供給が追い付かず、そこらの一般市民とまったくもって変わりない程度の落ちこぼれにすらなってしまったのも、この憧れの存在に知られたら恥ずかしすぎる。優等生時代は過去の事。地道にやるしかないのだ。やる気を取り戻したところで羽根を広げた天使様が俺の目の前に浮いてきて悩ましい目で見つめてくる。ちょっと恥ずかしくなる。
「じゃあ、叶えてあげようか?」
「へ?」
「いい加減飽きてきたところだったの」
笑顔と共に積まれていた本たちが一斉に動き出す。書架リストの文字を確認してどこに片付けるか確認した天使様が指を動かせばそれらがふわりふわりと移動を始めていく。まるでオーケストラの指揮者みたいに指示していけば本が片付いていく様子が綺麗で見惚れるくらいだ。窓から差し込む夕暮れの色がまた雰囲気があってとても良い。映画みたいだ。
「…って、最初からそういう魔法使えるなら言ってくださいません?!」
「こんな初歩魔法くらい使え…使えないのに私を呼べたの?」
しまった。せっかく手伝ってくれたのにそんなこと言うものではなかったし確かに自分でできた範囲。墓穴だ。変な汗でもでそうになる。
「えー、と、あー、そうです」
「変ね… 担当変えてもらおうか?」
「結構です、俺は貴女が良いです」
精一杯の思いを伝える。
幼い頃、教会の中で初めて目にすることができた天使が彼女だった。
彼女と離れたくない。俺の傍で俺の成長を見ていてほしい。
想い伝わったのか、それならいいと頷かれる。
翼の先が、僅かに内側に揺れて、彼女は薄っすらとした笑みを見せてくれた。
(終)
文字数制限 原稿用紙2.5~3枚分小説。2作目。
今回はキャラクター性をはっきりさせてみました。