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意識的な問題


話が終わると、そのまま部屋に案内してもらえた。部屋に着くと、一旦シルビアはその場を去り、茹で蛸ないしティアと2人になった。


「そろそろ元に戻ったらどうだ?」


「ワタルさんが悪いんでしょ!」


情緒の激しい天使だな、とは言わないにしても照れたり怒ったりとティアは激しいなと感じる。

悪い事ではないが。


「ところで、くる前に言ってた事ってなんなんだ?」


一変して、ティアは神妙になる。


「ダークエルフとエルフの事ですけどーー」


ティアはその口を開いた。

ダークエルフとエルフの確執について。

その昔、突然ダークエルフは生まれ落ちた。

ドラゴンによる大災害、その後に身篭ったエルフからはダークエルフが多く生まれたのだった。

それは、ドラゴンの呪いと言われ

その見た目は黒く、災害を再び招くと恐れられた。

しかし、産んだ親は、やはり親、自分の子供を守る為、協力し小さな村を作った。

エルフ達は、村を滅ぼす為に動くが、それは叶わなかった。

ダークエルフの魔力はとてつもなく高く

エルフ達は、返り討ちに遭ってしまう。

何度も何度も争いをするも両者に決着がつくことがなかった。

エルフの繁殖力の高さで数で押すも、繁殖力の低いダークエルフはその魔力ではねのけた。

いつしか、その溝は酷く深まり、埋められないほどになった。

しかし、現、エルフ王のシルフィードや、その先代の活躍により争いは無くなり徐々にダークエルフを受け入れる様に動きを見せたが、結果虚しく戦いこそ無くなったものの

芳しい成果はなく、その確執が埋まる事は、未だに叶わないでいる。


「差別みたいな物だな」


俺はーーだからか、と宿にくる途中、視線を集めたのだと気付く。


「有名な話なんで、知ってるかと思ってました。だから少しビックリして、ダークエルフの宿に行くなんて言うから」


「俺は、そんな事気にしないんだよ。だからティアも気にしないようにしてくれ」


「そ、そうですね。少し怖いですけど...」


「怖い?何が?」


「ダークエルフの魔法は、破壊魔法が多く、とても危険なんです」


「でも、使わなければ問題ないだろ?」


「そ、それはそうですが...」


「ま、まあ、余り気にしないでくれ。露骨にそんな顔してたら嫌な気分になるだろ?同じエルフじゃないか」


俺は、その確執はエルフとダークエルフだけの問題では無い事に気付き、ティアでさえもそれを露骨に態度に出しているのが気に入らなかった。


「そうですね...わかりました」


ティアの曇った表情は、魔法による恐怖を畏怖しているようだった。


そんなにも、ダークエルフは恐ろしいのか...

俺には分からない事だらけだな。

この世界に来て、まだそんなに経ってないし、知らないことの方が多くて当たり前かー


それにしても、そんな気分も吹き飛ばすほど、飯が美味かった。

いや、美味い。

現在進行形で、頬張り中だ。


「なんだこれ、美味いな!」


「そうですね!私も初めて食べます!」


見た目は、肉の塊だが、ひとたびナイフを入れると飛び散るような肉汁と一緒に香ばしいバターとハーブの香りの爆弾が押し寄せてくる。

鼻腔をくすぐるだけでは留まらず、口へと運べば、咀嚼のたびに、その爆弾が破裂し、口の中いっぱいに香り、肉汁が瞬く間に広がり、身体中を駆け巡る。


そして、隣に置かれているスープ

透き通るような、透明感で、一見白湯の様に見えるが、それは真っ赤な嘘だと飲めばわかる。

野菜の旨みを全て凝縮していた。

広がる旨みは、肉とは異なり、優しく喉を潤わせる。

そして、その透明感をより際立たせている色とりどりの野菜が中で踊る様に存在している。

その一つ一つにまで、旨みが染み込んでいて、尚、素材の風味が生きている。

究極のスープの中で踊る、野菜達。

そこはまるで楽園の様でさえある。

目を閉じれば、同じ空間で俺もワルツを踊り、クラシックを奏でる1人の奏者でさえ思わせてくる。


「これは、飛ぶな!意識もろともだな」


「とても、美味ですね!」


ティアも大変喜んでいる様だ。

さっきまでの暗さを吹き飛ばしていた。

俺には、その美味しそうに頬張る姿も1つのメニューになる。

料理に飾り付けられた花の様に、食卓を彩ってくれている。

これが、幸せなひと時なのかもしれないな。




翌日、俺は、思ったよりも早く目が覚めた。

フラッと宿屋の外にでて、体をほぐしていた。

久しぶりのベットで寝た事もあって、疲れは充分に取れていた。


「いやー早起きは三文の得って言うが、この気持ちいい気分もその得の一つだよな」


などと、1人うつつを抜かしてしまうなんて、随分とこっちの世界に慣れてしまったもんだ。

わからない事は多いが生活面はもう慣れっ子だ。

そんな事を言っていると、昨日、街でキャッチされた物の、宿まで連れて行くと尻尾を負け様に逃げていったダークエルフの少女が、うろうろとしているのを発見する。


「何してるんだ?」


「うわぁ!!」と想像以上に反応を見せた。


「きゅ、急に話しかけないでください!」


偉くご立腹だった。

そんなに怒る事なのか?と思いはしたが、自分がされたと省みると、怒るなと納得する。


「じゃあな」


「え?」


「いや、怒ったし、話すのやめとこうと思ってな」


「いや、怒ってませんよ」


ついさっき、大きな声で怒鳴った人とは思えないセリフだった。


「いや、怒っただろ、それに話しかけるなって」


「怒ってませんし、急に!話しかけないでくださいと言ったんです!」


また、お怒りだった。

小さな鬼が出来上がっていた。

プンスカプンスカしている。


「まぁ、あれだ、見かけたから声を掛けただけだよ、昨日、宿に着いたらすぐ居なくなっただろ?」


「あ、あれは貴方の目線が気持ち悪いので、撤退しただけです」


「は?」


何を言っているんだ、この子は。


「いえ、街に入った時に実は見かけて居たんですが、その目は、まるで獣の様に周囲の女の人を蹂躙されていました」


「してないだろ!それならなんで声掛けたんだよ!」


「私も働く身、わがままは言ってられません。この身が、蹂躙されようとも食べる為に、背に腹は変えられないのです」


働く模範みたいな奴だな。

待てよ、と言うことはーー


「昨日、謝ってきたのは?」


「食べられると思ったからです」


そうなんかい!いや、食べないだろ。

それじゃああのハモりは奇跡だったじゃないか、違う受け取り方をした2人の奇跡が起こったのかよ、あれ。


「はぁ、いや食べないと言うか、子供に興味無い」


「何を言ってるんですか?私はこの見た目で、もう20を超えていますよ?」


「え?」


「もう23歳ですよ」


「え!?」


俺が2回も言ってしまったわ!

いや、言わされたのか?

そんなことより、23だと?にわかに信じられないなそれは。

俺を欺こうとするなんて100年早い事を教えてやろう。


「それは、流石に冗談が過ぎるだろ」


「いえ、本当なんです。エルフ族と言うのは、長命なんですから」


まだ私は子供ですけどね、と少女は言い続ける。


「大人は200になってから、と言うのがエルフ族にはあるぐらいですからね!」


なんだ、そのお酒と煙草は20歳から、みたいな飲酒喫煙防止のキャッチフレーズみたいな言葉は!

ちょっと違うけど!


「じゃあまだまだ子供だな」


「貴方よりは、大人でしょう?」


「俺は、26歳だ」


「それこそ嘘です。そんな子供みたいな面で言われても説得力に欠けます!」


「それはお前だろ!そのチンチクリンの体型でよく言えたな!」


「なっ!?また目で蹂躙するんですか!?そうなんですね!?」


「しねーーよっ!!!!!!」


ぎゃーと叫びながら少女は去って行った。

嵐の様な少女だったな。

いや、少女ではないのか?

いや、少女だろう。あれは。

例え、23歳であっても見た目が子供なら少女としておこう。


 でも、こうして見た目で少女と決めてけているのも、なんかこう


 エルフがダークエルフを黒いと蔑む様に、同じなのかもしれないな。


 ふと、思うことが既に、相手を傷つけているのかもしれない。


 ほんの細やかな言葉が鋭利な刃物になって、古傷を深く深く抉って来たのかもしれないな。


「次、会ったときは、女として見ることにしよう」


と、微妙な終着点に辿り着いた。

落とし所が見えなくなったから仕方いだろう。

うん。

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