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はじまりの合図


 体も口もいい感じに解れたところで、部屋に戻るとした所を、

 

「あ、あのワタル様」


今回、お世話をしてくれると言っていたシルビアだった。

しかし、お世話とは何なのか気になって、昨日は眠れなかった事にして、シルビアに後で尋ねてみよう。

セクハラはこの世界に無い概念だろう。


俺は、邪な気持ちは抑えて、答えるーー

ドウドウ


「どうした?」


「お早い、起床でしたが、昨晩は余り寝られなかったのですか?」


 お客様ファーストの様な言葉が飛び出して来た。

 ただ挨拶だけかと思いきや、よく見ていらっしゃる。

 それも踏まえた世話なのかもしれない。

 いや、それともそもそもがこう言う習わしの宿なのかもしれないが。


「ぐっすり眠れたよ。朝は強い方なんだ」


無用な心配はさせる事ないだろう。


「そうですか、それは良かったです。お連れの方は、まだお部屋ですか?」


「あぁ、部屋で寝ていると思うが、どうかしたか?」


「はい。朝食の時間は如何なさいますか?」


「そうだな、1時間後くらいでいいか?」


「かしこまりました。では、のちほど」


シルビアは踵を返すが、俺は聞くべき事を聞いていない。

聞きたい事が聞けていない。


「あ、シルビア」


はい、と振り返る。俺はそのまま続けて


「この街ってどんな街なんだ?」


シルビアは随分と困った顔をした。

それも当然か。

しかし、聞いておいてそんはないだろう。


「そうですね。見ての通り、私達はダークエルフですので、肩身は狭いですが、それでも、この街は美しいと思います」


それは、俺が考えていた反応よりも随分と違う答えだった。

憎んでいたりするのかと思いもしたけど

そんな事は無いのか、いや、会って間もない人間に話す事ではないか。

当たり障りない事と少しの真実を告げて来たのだろう。

それに、確かにーー


「この街は綺麗だな。キラキラしていて、幻想って言葉がしっくりくる」


「幻想ーーですか。そうですね、その言葉が真をついているかもしれませんね」


「あぁ、来て良かったとまだ1日だが、そう思う。飯も美味いしな」


「それは、ありがとうございます。そう言って頂けると私も嬉しいです」


「帰る時も、また言うよ、来て良かったって」


「ふふっ、楽しみにしてますね」


そして、シルビアはそれを合図にスッと踵を返して食堂の方に向かって行った。

名残惜しいが、再び引き止めて仕事の邪魔をしても悪いし、ここはその背中を見送る事にした。



 朝食も、昨日の晩飯に負けず劣らず、その極上の美味しさを遺憾なく発揮した。

 昨日に引き続いて、ほっぺたが軽々落ちていくのを感じた。

 人生後にも先にも、これほどまでの食べ物にたどり着く事はないんじゃないかと、それこそ他の食べ物を次口にするのが、恐ろしい程に俺の舌は数段も肥えて、受け付けなくなってるかもしれないと言う、一抹の不安に恐れをなしている。

 黙々と、2人並んで頬張った後は、身の回りの物を買いに行く為、外出する事になった。


「ワタルさん、行きたいところありますか?」


先程、身の回りの物を買いに行くと言うミッションを立てたにもかかわらず、ティアはそんな事を言う。


「いや、身の回りの物買うんじゃないのか?」


「それ以外にって事ですよ」


もぉ、と牛の様にティアが鳴いているが、それもまた可愛い。

頬を膨らましているもんだから、余計にー。

いや、より拍車が掛かっている。


「そうだな、ティアの服でも買いに行くか」


 その見た目に相反して、ティアの服装は質素と言わざるを得ない。

 否定するわけでは無いにしても、特筆すべき点のない、その服よりも、もっと可愛い服は沢山あるだろう。それに女なら、可愛いを追求するのが性と言う物だろう。

 ここは、男として、さり気無い気遣いでティアの好感度を上げておく事にする。

 

 ティアは、いいのですか?と言っていたが、そもそも俺とティアに上下関係は存在しないはずだから、確認する事も無いはずなのだが、若干のティアの使用人気質と言うか、誰に対しても一歩下がり腰の低い態度は、まるで昭和の夫婦を思わせる様な素振り、立ち振る舞いだ。

 気にはしないが、少し気持ちはいいから、好きにさせておく事にしているが、それでも俺とティアは、対等と言う事は忘れてはいけない。

 親しき仲にも礼儀ありだ。

そして、ティアは喜び勇んで、身の回りの物よりも先に、真っ先に服屋に飛び込んでいく。

 しかし、皮肉にも、いや皮肉と言うよは、悲しくもと言うべきだろうか、ともあれ服屋に於いて一悶着あったのはまた別の話。

 それはさて置き、店内含め、街には多くのエルフが生活、仕事をしているが、その中にダークエルフの姿は無い。

 ゼロと言う事ではないが、エルフが働いている場所にダークエルフが働いていたり、エルフが食事をしているご飯屋にダークエルフがいたりとそう言った話で、ダークエルフ自体はいるのだが、共に過ごしていると言う風には見えないのだ。

 その畏怖が未だ、形となって、目に見えて存在しているようだった。

 目に見えてと言うのは、第三者からすればそうなんだろうなと意識的に視点をあげれば

 何となくその違和感に気付くぐらいなもので、それを知らない人からすれば気にならないのかもしれないが。

 まぁ、そもそも知らないのは俺だけだけどな....

この世界は俺だけに厳しいなって思ったり思わなかったり。


「ワタルさん、あそこーー」


ティアが指を指す先には、1人が舞台の上に立ち発言をしている様に見える。さながら演説中と言った所かもしれない。


「なんだろうな?行ってみよう」


俺は、ティアを促して、その場に行ってみる事にした。

周囲には、人だかり、いやエルフだかりができている。

ダークエルフもいるようだが、エルフとダークエルフは見事に、2つのグループに分かれてそこに集まっている。

正面に舞台を見て、右にエルフ、左にダークエルフといった感じにだ。

そして、舞台上で身振り手振りを加えながら演説の如く、主張を述べているのはエルフのようだ。


「私達は、共に歩むべきなんです!過去の過ちを!そろそろ水に流すべきじゃないのか!手を取り合い、共に過ごしていくべきではないのか!今がその時だ!手を取り合ってーー」


と、己の主義主張を遺憾無く述べていた。

まるで、自分達が手を伸ばしてるかの様にー

加害者を赦すようにー


それなりの盛り上がりはあるものの、やはり確執はそう簡単に埋まらないのか、人の割に上がる声は少ない。


難しい問題なんだと、証明されているようだった。


「いい事ですね、みんなで手を取り合うのは」


ティアは、違和感など感じる事なく演説に賛同しているようだ。


「そうだな、それは悪い事じゃない」


手を取り合う、ついこの間、ティアの村で俺が行った行動にそれを重ねている様にも思えた。

だからこそ、ティアは演説を行う者に対して羨望の眼差しを向けているのかもしれない。

私達の村みたいにと期待を乗せた言葉が、その眼差しをより確信的なものにする。


がーー


その向けている目の先で衝撃が起こる。

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