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ゴツゴツした岩壁の避難壕の奥で、トピは大きく息を吸って吐いた。
分厚い宇宙服の中では、トピの足はがくがくと震えている。
「来るぞ」
ヘルメットのスピーカーから落ち着いた低い声が響いた。
ズカシは少し前かがみになって、避難壕の入り口付近から外を覗いていた。
「やつらから、こっちは見えないんだ」
ズカシは言った。
音のない静寂な世界。幾千もの星が輝く常夜の暗い空に、戦闘機が一機通り過ぎて行った。
二人は動かないでしばらく待った。
何分かが経った。
もう何の変化もなさそうだった。
少ししてトピはズカシに近づいた。
「もう大丈夫みたいですね」
トピはズカシと同じような体勢をとって、空を見上げた。
空には動くものはない。星が輝いているだけだ。
しかし、用心深いズカシは
「いや、まだわからない。星の裏側に潜んでいるかもしれない」
と言った。
ズカシはゆっくりと首を動かし、あたりを見回した。
すぐ近くに地平線があるように見える。
空と陸の境目は崖になっているのではないか、とそんな想像をしてしまう。
そこから戦闘機が飛び出してきても不思議ではないのだ。
「こちら、レブン、ズカシ応答願います」
ヘルメットのスピーカーからレブンの声が聞こえて来た。
「こちら、ズカシ。レブン、どうぞ」
ズカシがすぐに答える。
「今、戦闘機がレーダーから消えた。どうぞ」
「了解。それではただちに基地へ向かう。どうぞ」
「了解。気を付けて。どうぞ」
「了解」
会話は切れた。
ズカシは回れ右をして、トラックに向かった。
トピも慌てて後を追う。
しかし、トピは低重力と慣れない宇宙服のせいで、思うように動けない。
まるで、スローモーションのような、動きになり、上半身に足がついてこられないで、地面につんのめってしまった。
「気をつけろ!」
ズカシが怒鳴った。
「すみません」
「宇宙服が破れたら即死だぞ」
知っている。トピは思った。友達の父親はそれで死んだときいた。
服が破れて死ぬのはいやだ。気を付けなければ。
トピが立ち上がるのを、ズカシは手伝った。
二人でトラックに乗り込む。