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ロキ


――ゲートの中は亜空間だ。

この世とあの世の境目。足元は悪く、視界も悪い。

すぐ下はどこまで底があるのかわからない空間が広がっている。

落ちればきっと戻れない。

その境目に生き物はもちろんモンスターは存在しないので大きな危険はない。

ただたまに時空が歪む時がある。その時ばかりは注意が必要だ。幻覚を見たり、ゲートの通じる先が変わったりする事があるからだ。


『とりあえず無事くぐれたな』


何事もなく死者の国に到達する。

そこに広がるのは灰色の世界。灰色の、バルディアである。




現世とあの世(死者の国)はリンクしている。

リアルで言うところの心霊写真や霊現象の類も、この二つの世界がリンクしているというのがこのゲームの理論(設定)

普段交わるはずのない世界、それがたまにバグのようなものをを起こし、現世の人間、或いは死者がお互いの世界にチャンネルを偶然合わせてしまう事で起こる現象だと言う。

だから死者の国は、現世と同じ風景なのである。

だけどそこに生者はいない。居るのは死者の魂だけ。

死者は悪いものに感化されやすく、伝染病の如く広がりやすい。

悪いものに感化されてない死者であれば、こちらが手を出さない限りは襲っては来ない……


が、今回来たここはちょっと違う。

ここは死者の国からも見放され追放された地。

ここにいる死者達は変わり者ばかりだ。基本的に死者と会話をする事は出来ないが、ここにいる死者とは少しだが会話が可能になる時がある。


…………というのがゲームの時の設定だ。


ここでもそうかはわからないが、ここには変わり者の中でも特に変わり者の死者がいる。

名前は【ロキ】。彼はNPCの割に会話のレパートリーが異様に多く、「まるでリアルみたい。NPCとは思えない」と言われる程だった。

それ故に何か重要なキャラクターなのではないか、と今でも議題に上がるのだが、彼自身何もクエストがないうえにストーリーにもほぼ関わらない。

でも話しかけると色んな質問に答えてくれる。

簡単な会話であれば普通に話として成立させる事が出来るという特殊なキャラなのだ。

その彼がこちらの世界でどうなっているのか、興味があったのだ。


『ロキ』


老人の死者。長い髭を蓄えて背中が曲がっている。

俺の呼びかけにロキはこちらを振り向き応えた。


「おお、どうしたクラン。久しぶりじゃな」


『!!』


クラン……それは俺がEDENをプレイしていた時の、このキャラクターの名前だ。

今はクジョウを名乗っているが、元々はクランなのだ。それをこちらの世界のロキが知っている……


『ロキ、ここはEDENの中なのか?』


「おかしな事を。ここは死者の国じゃよ」


『何故俺がクランだと?』


「クランじゃなかったかのう?」


『その名前はEDENで使っていた名前だ。今俺がいるのはEDENとは違う……EDENに似てるがそことは違う世界にいるんだ』


俺の言葉にロキはピクリと反応した。


「そうか……クラン、お前がバルディアに行ってしまったのか……」


『!』


EDENにはバルディアなんて大陸も国もない。

もしこのロキが「こちらの世界だけの」ロキなら、「行ってしまった」とは答えないだろう。

ロキが他のNPCに比べやたらと会話がリアルなのは、隠しイベントがあったからではなく「こっち」に来てしまった人間の為のものだったのか。

つまりこのEDENに似た世界への転移は「何者かによって」用意されていたものであると推測される。

そしてロキも、ただのNPCではない事も明白だった。


『ロキ、応えてくれ。お前は誰なんだ』


俺は核心に触れた。

ゲームではどれだけ聞いても「ワシはロキじゃよ」しか返ってこない。


ロキがリアルすぎるおかげでロキにまつわる都市伝説みたいな話がある。

それは、とある条件を満たすとロキの返しが変わる。という物。

もしもこれが事実なら、今がまさにその「とある条件を満たした」状態だろう。


「ワシは…………」


ロキは俯きそれ以上答えない。

質問を間違えたのかとロキに再度話しかけようとした時――


グイン!とロキが顔を上げた。その顔を見て俺は思わず後ずさりをした。

ロキの目玉と口が窪み、真っ黒の空洞になっている。ハニワのようになったロキに俺は思わず驚いた。

そして……


「❝……我が名はロキ。クランよ、何が聞きたい❞」


禍々しい雰囲気だしいつものロキと口調はまるで違うけど、とりあえず敵ではない……か?見た目だけなら今にも襲いかかってきそうなくらい不気味だが……


『……この世界はEDENと繋がっているのか?』


「……繋がっている」


やはりそうか。EDENでの設定がこの世界には多すぎる。


『女神ルイーナの居場所は?』


「……わからない」


流石のロキでもそれはわからないか。

となると、あちらに行った場合何処を探したらいいものか宛がまるでないな。


『俺は…この世界で死ぬとどうなる?』


「……こちらでもあちらでも死ぬ」


『!あちらと言う事は、俺のリアルの体はどうなってるんだ!?』


「……ほぼ止まっている」


ほぼ止まっている……?


『どういう意味だ?』


「……ほぼ止まっている」


これ以上の回答は望めないのか?


『元の世界の今日の日付と時間は?』


「……9月25日、23時41分」


『えっ』


俺がこちらに飛ばされた時から1日も進んでいない……?いや、それどころか3時間程しか経ってない?

少なくともこちらに飛ばされてから二ヶ月は経過しているのに、どういう事か……


『ロキは、こちらの世界に飛ばされた人間の為のNPCだったのか』


「……その通りだ」


『これを仕組んだ人間にとってはこの転移はシナリオのうちだったんだな?』


「……その通りだ」


『誰が作ったんだ?』


「……それは――――」



『――――え?』




--------------------------




「もう……クジョウったら、ずっと同じ場所にいるじゃない……何してるのかしら……」


テストと言うからすぐ帰ってくるのかと思いきや、かれこれ一時間は経っている。

怪我させる事はさせたくないけど、女の子を待たすのはいいって事?もう!


「(帰ってきたら文句言ってやるんだから)」


……それにしても、さっきのあれは……やっぱり……


「〜〜〜ッッッ!!」


マナが乱れるっ……!!クジョウの座標を追い続けなければ……ってもう!全く動かないし!!


座標確立は対象者の座標をただ認識し続けるだけなので、対象者の行動や周りの状況などは全くわからない。

向こうに何かあるのだろうか……

私ですら知らない事を、彼が何故知っているのか……


少しぼんやりしてると、クジョウに動きがあるのを感じた。

こちら側に帰ってきていた。




--------------------------


ロキに話を聞けたおかげでだいぶ色々わかった。

やはりここはEDENの世界だけど、ゲームのEDENとは違う世界…バルディア。

EDENとバルディアはリンクしている。

俺がこちらに来てしまったのも、もちろんそれが理由。呼んだのは勿論ルイーナ。

そして、これらは全て仕組まれていると言う事。

このゲームを作った人間によって……


『(それは……)』


「クジョウ!」


ゲートを抜けると、リリィが駆け寄って来た。


「大丈夫だったのか?」


『ありがとうございます。おかげでリヴィングポーションがちゃんと有効なのがわかったので』


「え……確証があったんじゃなく……?」


『まぁ使ってみない事にはわからなかったんで。わからないから余計リリィさんに使わせる訳にはいかないでしょう?』


「ッッッ!?!?」


「(私の事を想って自らを実験台に……!?)」


万一効かなかったらえらいことだ。

でもロキに聞いてわかったが、その万一はほぼないと言うこと。

この世界は意図してEDENとリンクしている。

そして、EDENがオリジナルではなくこちらの世界がオリジナルである事。

バルディアで生きる為の知恵を、EDENで身につけて……いや、身につけさせられていた。

EDENは云わばチュートリアル。こちらが本ステージといったところか。

尚更サブよりメインで送って欲しかった気もするが……


「ちょっと!」


『ん?え、あ、はい?』


「聞いてる?」


『聞いてませんでした。何ですか?』


「向こうには何があったの?」


とくに何も無い。

あそこはただ無害な死者がウロついてるだけの空間。ストーリーでは意味がある場所だったが、こちらでは最早何の意味も成さない。


『……死者がいるだけですよ』


「それだけなのに小一時間向こうにいたと?」


『……ポーションの効果がきちんと持続するか試したかったので』


「おお、なるほど!」


何故この人はそんなにもキャラが安定しないのか。

高圧的だったり、急に変な動きをしたり、真面目かと思えば抜けているようなところもある……


……やはり偉人はわかり者が多いのだろうか。


さて、あとは人手がどれくらい確保出来るか……


実験を終え、俺達は王都へと戻った。

そして実験の事、これからの手筈を説明説明すると、姫は大層お怒りになられた。

無断で出て行ったのは流石にまずかった。反省。




そして、その日の夜。

客室でボンヤリ休んでいると、部屋をノックする音がした。


『はい』


「私だ」


リリィだ。

こんな夜更けになんの用か。

とりあえず話があるとの事で中に招き入れ椅子に腰掛けてもらった。


「――単刀直入に聞く。君のその知識は何処で得た?」


あーーーこの話かぁぁ〜〜。

こういう場合何と答えればいいかもロキに聞いておくべきだったか?


『その質問には答えられないですね』


「何故?」


『だって――あなた日中、俺との1対1に負けてるじゃあないですか?』


咄嗟に口から出た誤魔化し。

ニヤリと笑ってみせると、思いの他効果はあったらしい。

リリィは悔しそうに口を噤んだ。


「むっ……それもだ……何故私の攻撃を受けて、君は全く無傷なんだ……」


『元々魔法防御は得意なので。もしリリィさんが剣士だったら……どうなってたやら……』


「…………」


俺にももう少し攻撃技があればいいのだけど、ゲームでもほぼ他力本願でのレベル上げ主体で、攻撃技はたった二つしかないんだよなぁ……

この世界にもクールタイムに相当するものがあるおかげで、俺では短期戦ならともかく長期戦となると技が回らなくなってしまう。


だからあの時、もし攻撃が防げなかった場合俺の負けも同然だっただろう。


「それだけの実力があってヒーラーなのは何故?」


『ただたんに、自分がどれくらいの位置にいるのかを知らないだけですよ』


「……変わった男だな君は……」


リリィは諦めたのかため息つき、「夜分遅くに失礼した」と言って部屋を後にした。



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