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勘違い



「こ、これを集めてこればよいのですか……?」


『そうですね。何か難しいものはありますか?』


「何とかします」


死者の国に行くにあたって必要な物、古龍ドラゴンの真珠以外の物をリコリスに注文した。

ゲームではパシリばかりだったが、ここにきて逆に自分が人をパシリにしてるとは不思議な感じだ。


『あと出来れば人が欲しいです。リリィさんに負けず劣らずなパラディン、もしくはウォーリア。それから転移魔法に長けている魔術師を最低でも三人、可能であれば念の為に六人集めて下さい』


俺の追加注文に、リコリスは眉をひそめ……


「……そちらの注文の方が難しいのですが」


と言った。


『(すまんな)』




--------------------------




さて、正直まだ確信は持てない。

本当に死者の国に行って無事かどうかは行ってみないことにはわからない。

たまたま前回行く時に使ったあまりがあるから、それを使って自分を実験台にして行ってみる他あるまい……

“保険”に魔術師がいると有難いん……だが……


『あ』


いるじゃん。




「――死者の国に行く為のテスト?」


『リリィさんは魔術師ですよね?』


「まぁ……」


『転移魔法は使えますよね?』


「当たり前だ!」


『ではその応用で、ずっと俺のいる座標を確立していて欲しいんですよ』


死者の国。

そこで生者は生きている事は出来ない。

神による加護を受けるか、もしくは特別な方法を取らない限り。

その方法の一つとして、対象者の魂の座標を明確にする事。

“死”には2つ意味がある。存在の死と、魂の死である。存在の死とは即ち“忘れ去られる”という事。魂の死とは、生物学的な死の事。

つまり後者による死であれば“死んでも覚えている人間がいる”事により、完全な死を迎える事はない。

そして、覚えてる人間の思いや信念にしがみつく事で人は成仏をせず、世界に留まる事が出来るという事になる。忘れ去られるという事はしがみつく物がないので強制的に成仏する事になる。

死者の国に行くにあたってせねばならない事の一つがこれだ。


座標特定によって対象者の魂の観測・確立をし続ける事で、死者の国にいながらも魂を引きずられずに済むのである。

ようは魂に命綱をつけるようなものだ。

極端な話、自力で誰かの信念にしがみつく事で残る事も可能だが、戦いながら信念にしがみつき続ける事はまず出来ない。

思う事をやめた時点で魂は引きずられる。だから逆に外から座標を観測してもらう事で、魂をつなぎ止めてもらう必要がある。


『(でもまぁ死者の国にいる時点で半分死人みたいなもんだけど……)』


「なるほど……でも死者の国に行く為には門番を倒さないといけないだろ。一人でどうやって倒すつもりなんだ」


『さすがに一人であの門をくぐるのは無理です。ので、別口から入ります』


「別口……?」


『あの世界にも、追放された地があるのですよ』


『(ゲームと設定が同じであれば……だけど)』




--------------------------




そして俺達がやって来たのは、王都から少し離れた鉱山の奥にあるダンジョン入口。

その最深部に、昔この鉱山を開拓していた時に使っていたであろう小さな簡易村がある。

そしてここに、こんな場所には不釣り合いな礼拝堂がある。この祭壇に特殊アイテムの魔法の通行手形を捧げると、祭壇から隠しマップへのゲートが開く。


「こ……こんな場所にゲートが……!?」


セオリー通りなら、この先は“好戦的な”モンスターはいない。だから最悪座標の確立は必要ないのだが、ここはゲームと似て非なる世界。もしかすると戦闘もありえるかもしれない。

その為の“保険”だった。


『ここから俺は死者の国に行きますので、今から俺の座標を確立していて貰ってもいいですか?』


「1人で行くと!?危険すぎる!」


『まぁ大丈夫です。多分。少しでもダメだと思ったら無理せず引き返すので、お願いします』


「ダメ!行かせる訳にはいかない!」


『……』


見た目の女の子らしさに似合わぬ頑固さ……

かと言って一緒に連れて行って何かあっても困る。


『どうしたら残ってくれます?』


「そんな選択肢はない!君の実力は聞いてはいるが、死者の国は本当に危険な場所なんだ!第一、何故こんな事まで知っている!?その知識は危険だ!それに、そのまま行けば魂の確立をした所で君の身体の腐敗は止められないぞ!」


流石、行った事がある人は話が早い。

ならこれをエサに今回は見逃してくれないだろうか……


俺はポケットから一つの小瓶を取り出した。


「それは……?」


『リヴィングポーションです。今回作ろうとしている薬の完成した物がこれです。残念ながら手持ちがこれしかないので、作らないともうないですが、これは飲むと5時間は死者の国での腐敗を止める事が出来るものです』


「そんなもの聞いたことがない……!」


『そりゃそうでしょう。普通では作れません。材料の一つに古龍ドラゴンの真珠が含まれているので、偶然出来た。なんて事も普通に生きてたらありえないんですよ』


「!?……君のその知識は一体何処から……」


『とりあえず行かせてもらえるのでしたら、帰ってきた時に手伝ってもらったお礼に少しお話しますよ』


俺の言葉にリリィの眉が一瞬ピクリと動いたのがわかった。

もしこれに食いつかなかったらどうしようかとも思っていたが、何とかなりそうで一安心。


「……ダメだ」


『(あれ)』


「いくら実力があるとはいえ、たかがヒーラーの君一人を行かせる訳にはいかない。行くなら私が行く。代わりの魔術師は私が呼ぶ」


ポーションをよこせ。と言わんばかりに手を差し出した。


『(なるほど)』


とくに用事もなければそれも一つの手なのだが、今回は実験と兼ねてもう一つ用事がある。

だから何としても俺が行きたいのだが……


『わかりました……。ではこうしましょう。


俺に攻撃を仕掛けてくれますか?』


「……は?」


『それで俺が負けたら、このポーションと実験の役目をリリィに任せます』


正直勝算があるわけじゃない。賭けに近い。

この世界の人間と直接戦ったことはないから、衰退していると予想はしているものの、彼女は死者の国に行けるだけの実力者。

ただ一つ、勝算があるとすれば彼女が魔術師だという事。

俺は補助魔法も得意だが、その中でも魔法攻撃に関する防御に関しては自信がある。


「君……私が誰がかわかって言っているの……?」


『もちろん』


「…………」


リリィは暫く俯き黙った。気を悪くさせてしまったかと思い、謝ろうと思ったその時、魔力の増大をリリィから感じた。

周囲のマナを吸収して己の力に変換する。


「後悔……するなよ……!?」


『おー』


彼女を中心に竜巻のように風が全てを巻き込む。

さながら小さな台風。

風魔法か……いや、これは……


『風と水の融合魔法フュージョンか』


EDENでも属性の融合魔法は上位のスキルだった。

リリィは見た目こそ幼いが、その実力は本物か。

竜巻じゃなくて渦潮だなこりゃ。


そのまま食らったら流石に痛そうだ。


『ホーリーリフレクション・ホワイトマジックシールド・レジストブースト』


それぞれ魔法防御の為の魔法。状態異常も、今なら大抵は無効される。

これでどれくらい耐えられるか……


「上位魔法!ネーチャーリフリー!!」


渦潮となった魔法が俺に降りかかる。

御丁寧に水蒸気爆発まで起こって、辺り一帯を吹き飛ばした。


「ああ……やりすぎたっ……!!」


そこまで大きな聖堂でもないのに、久しぶりの魔法に加減が効かず、建物はほぼ壊滅。

下手をしたらゲードごと破壊した可能性もある。

土煙と水蒸気で視界が悪いが……


『あっ……ぶねぇ……!!』


本当に祭壇ごとゲートを吹き飛ばされるところだった。

直前に防御魔法の範囲を広げておいてよかった。

あと数秒遅れていたらゲートがなくなっていたかもしれない。


『ここ狭いんだから……もう少し加減してくれよ……』


「そんな……あの攻撃を受けて無傷なの……!?」


『いやぁ、服が泥まみれ。こんな格好で俺今から死者の国に行くのか』


「まっ……待って!どうして!?」


白いロングコートがドロドロになったが、とりあえず凌げた。服はまた街で新調するかなぁとか考えていると、リリィによる怒涛の追求。

説明のしようがないしなぁ……どうしたものか……


『――リリィさんを行かせたくなかった俺の信念が上回ったという事ですね。俺の実験であなたに怪我でもされたら、俺は……(最悪殺される気がする)』


「っっ!?!?」


リリィさんは伝説の人。そんな人にもしもがあったら困る事は事実。


「ななっなぁ………」


途端にリリィさんは意気消沈。


『わかって頂けますか?』


「はっ……あ、あいぃ……」


『(わかってもらえてよかった)』


「(何よ……!知り合って間もない人間を口説くとか……!!……私に怪我をさせたくない程……私の事がそんなに……好き……なの……っっか!!)」


頭を振り回しながらブツブツと独り言を言ったり、かと思えば急に唸ったりと、大人しくなったと思ったら奇行に走るとは……

変わった人だなぁ……


『あのー、忙しそうなところ悪いですけど、座標の確立だけ頼みますよー』


俺の言葉にリリィは何か言いたげな表情もしていていたが、結局それは言葉にならず、魔法陣を展開させた。


俺はゲートに入る前にリヴィングポーションを一気飲みし、死者の国(裏口)へと足を踏み入れたのだった。



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