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死者の国


『これが…………』


「はい、この方が三騎士の一人、審判者リリィ様です。」


綺麗な少女だ。

リアルの俺とあまり歳も変わらないように感じる。


『……この封印は……』


覚えがある。ゲームの方でも似たような封印石を解除するクエストがあった。

通用する保証はないが、この世界とEDENは必ずリンクしていると確信している。ならば試す価値はあるか。


『わかりました。少し皆さん下がって貰えますか?それと……』


俺はアイテムボックスから紙とペンを出し、必要素材を書き起す。


『これを至急集めてきて欲しい』


「……これをですか?」


『お願いします』


……正直、この世界にきて思った事と言えば、“どうせ異世界転移されるなら、メイン職で転移させて欲しかった”だった。

そちらの方がアイテムも資金も多く持っているし、何よりレベルもスキルもガッツリ戦闘向きで強い。

それに控えこのサブキャラは、回復メインのスキル構成でメインのポーション生成機を兼ねている。

役割ごとにキャラを複数所有する事は珍しくない。

だが、もしメイン職で来ていたら、この封印を解除する為のポーションを作るスキルはなかった。


『(今回ばかりはヒーラーで飛ばされてよかった、という事か……)』


この封印は、ゲームのシナリオにもあった。

こんな大きなものではなかったが、シナリオに出てくるキャラクターの私物が封印されてて、それを解除する為に材料を集めるパシリをされまくった覚えがある。


そして、この封印を解くには逆の封印紋を使って封印されている力をぶつけ合わせ相殺させる必要がある。


『……これでいいか』


水晶の下に巨大な逆の封印紋を描く。

これであとは物が来るのを待つばかりか……


--------------------------


「――クジョウ様、頼まれた物はこれでよろしいですか?」


『…うん。ありがとうございます』


物はモンスターの一部や珍しい野草等全部で六種類。そしてこれを瓶と一緒に調合台に置く……


『スキル調合<逆転の雫>』


「なっ……!?」


スキルを使うと光に包まれ、次の瞬間には俺の掌に生成された<逆転の雫>が入る瓶が完成していた。

スキルがないとこれを作る為に“レシピ”が必要になるのだが、この世界にレシピがあるとも思えないし、調合スキルを上げておいて本当によかった。


周りが微妙に騒がしいけど、もう面倒だ。

説明も弁解も全部後だ!

封印紋の中心に逆転の雫を垂らし、ナイフを取り出す。

封印とは誰かの強い意思によってそれが封じ込められているとか何とか……魔法の世界ではそうだと、ゲーム内では語られていた。(微妙に読み飛ばしている)

その意思に無理矢理介入する為に、介入者はその血を捧げなければならない。

ゲームでは小さなものだったから数滴でいいって

話だったが、これはどうか……!


俺はナイフで左の掌を斬りつけた。


「「「!!??」」」


どうせこのくらいの傷ならすぐ癒せる。

傷口から流れる血が地面に血溜まりを作る。

封印紋が光り、地下でありながらよ突風が吹き荒れる。


『介入者“クジョウ”の名の元に封印を解除する!――【解】!!』


呪文を唱えると水晶は弾け消え、同時に風が止んだ。封印されていたリリィが落ちてくるのを抱きとめると、リコリス達が駆け寄り驚きの声をあげていた。


「クジョウ様……今のは一体……」


『……封印するという意志に、解除するという俺の意思をぶつけ相殺させたんだ』


「一体どこでそんな知識を……」


『……』


とりあえず封印は解除出来た。

このリリィという子がどれくらいで目覚めるかは俺にもわからない。

流石に封印石に封印されてる人間は初めて見た。


『そんな詮索より、彼女をなんとかしてあげてくれ』


リリィを引き渡すと、メイド達が駆け寄ってきてリリィは騎士に囲まれたまま運ばれて行った。


「クジョウ様、ありがとうございました。」


リコリスは俺に礼を言った。


『いや、俺もあのリリィという人に聞きたい事が出来たんで、目が覚めたら会わせて貰えますか?』


「勿論です。目が覚めるまでの間、客室に案内させますので、そちらでゆっくりお休み下さい」




--------------------------




『はぁ〜。まだ目が覚めないのか。』


来た時は日が高くあったのに、もう時期沈む。

まだ色んな矛盾はあるものの、ここがEDENの世界の未来には間違いないだろう。

で、恐らく何かしらの理由で魔法自体は表面上はともかく内面は酷く衰退している、もしくはそんなに高くない。

外にいる人間は使えない人間ばかりだから感覚がよくわかってなかったけれど、サブ程度のスキルレベルですら「賢者」の子孫だと間違えられる程低いという事。

EDENのゲームの中とは言え、あまりにお粗末な世界だ。聞けば女神の加護がなくなってから年々魔法が使える者が減っていると言う。

でも“おとぎ話”として語られているのは、住民の混乱を避ける為か、あるいは…………


この話自体は1000年以上前の話だというふうに伝わっているが、実際には100年程前のつい最近の出来事だと言っていた。

それ程最近なら、知ってる人間がいてもおかしくもないと思うのだが……何故皆それを1000年も前のおとぎ話として認識しているのか……


何より……俺は、もしもこの世界で死んだ場合、どうなるのだろうか……

向こうの世界に帰れるのか、それとも……

そもそも向こうの世界にいる俺はどうなっているのか……

わからない事もまだ多いが、とりあえず……



――コンコン、とドアをノックする音がした。


「クジョウ様、リリィ様の意識が戻られました」


扉の向こうから、メイドがそう言った。


『わかりました。行きます』


元の世界に戻るにしても、ルイーナを助けねばならない。その為にはリリィから話を聞く他ないだろう。


ある一室まで案内され、メイドがドアをノックする。


「姫様、クジョウ様をお連れしました」


「…………どうぞ」


少しの間を置いた後、入室許可が下りる。

部屋に入ると起き上がっているリリィと、その傍に座るリコリスがいた。


「リリィ様、こちらの方がクジョウ様です。リリィ様の封印を解かれた……」


「あんたが……?」


『?』


リリィは不満そうにこちらを見ながら言った。


「……私にかけられた封印は恐らく……ルイーナ様と、ルイーナ様の加護を直接受けた私たち三騎士にしか解けない封印のはず……。あんた……何者?」


『(俺も聞きたい事があるんだがなぁ……答えないと聞いても教えてくれなさそうだ)』


かと言って本当の事を言ったって信じてくれるとは考えにくい。

これはどう言えばいいかな……


『……確かにそうかもしれませんが、この封印をした時ルイーナサマはよほど焦っていたのでしょうね。俺程度の人間が介入出来る程の隙を残していましたから。その粗にちょっとヒビを入れただけです。ようは未完全な封印だった訳です。これが完全なものだったら、俺でも手も足も出なかったでしょうね』


口から出任せである。

だってあの封印は恐らく女神も三騎士も関係ない。恐らく俺じゃなくとも、同じことをしていれば誰にでも解けたものだ。


「そんな莫迦な……」


『(とりあえずはそれで信じてくれ)』


「とにかく、封印が解けて本当によかったです。リリィ様、女神ルイーナは今どちらに?」


『(そうそれだ)』


「それは……




私にもわからない……」


『は!?』


「私たちが死ぬという間際、ルイーナ様は最後の力を使って私達を守りバルディアに還してくれた。でも、それとほぼ同時に私たちを庇ったルイーナ様は――」


『……死んだ?』


「違う!神は死なない。だからルイーナ様は何処かに封印されている事は間違いない……でも……あの時、ギルもハルマもバラバラになって……二人は……?」


リコリスは静かに首を横に振り……


「すみません……見つかっているのはリリィ様だけです……」


「そっか…………」


リリィは泣きはしないものの顔を伏せ、静かに落ち込んでいた。

大きな情報は結局ないものの、でも一つだけ手がかりがある。


『リリィさん、さっき「バルディアに還されて」と言いましたが、何処に行っていたんで?』


「……死者のリンボよ」


『ええ……』


死者のリンボは、EDENにおいてストーリークエスト第7章で行けるようになる場所だ。

ようは地獄の事である。


「クジョウ様、死者の国をご存知で?」


リコリスは驚いた顔で俺に問うた。

知ってるも何も、何度も行った場所だ。もちろんゲーム内での事だけど……

でも流石の俺でもメインならともかく、このサブキャラで死者の国に一人で行くことは難しい。

行けない事もないかもしれないが、圧倒的に火力が足りなくなってくる事は明白。

やはりメインで転移してもらうべきだったか……


『ならばルイーナも、死者の国の何処かに封印されているのでは?』


「!!」


「私もそう思う……でも、仮にそうだとしても死者の国には行けない」


『何故?』


「私たちが死者の国に行けて、かつ無事戻ってこれたのはルイーナ様がいたから……あの人の加護無しではあの世界で生きていけない……」


確かに……元のゲームでも色んな面倒な準備が必要だった覚えがある。でもこの世界、EDENとリンクしているという俺の仮説が正しいなら、ゲームと同じ方法で死者の国に行ける可能性が高い。


『もし行けるとしたら、リリィさん……一緒に来てくれますか?』


「は……?」


1人でも火力は欲しい。それも半端なのではなく、リリィさんのように行った経験のある人はとても重要になってくる。


「行くってどうやって行くつもりなのよ」


『それはまた説明しますよ。今してもややこしいだけだし、正直俺も確信がある訳ではないので』


「待て!クジョウ。聞けば調合すらもスキルでこなすらしいじゃない。いい加減何者なのか、教えなさい」


『俺は……ただのヒーラーですよ』


これ以上の追求は面倒なので、適当にはぐらかして部屋を出た。

しかし困ったなぁ。

俺自身、本当にゲーム内では対したスペックもないキャラなのに、リンクしているというなら何故ここまで戦力差が出るのか。

EDENの未来はこれ程までに何もかもが衰退するという世界だと言うのか。


さて、とりあえず死者の国に行く為に必要な物……

確認の為にスキルレシピを確認する。

ある程度は問題なく手に入るだろう。

問題なのは……


古龍ドラゴンの真珠……』


これは確か……死者の国の門番だったような……




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