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審判者 リリィ


片道二時間、馬に乗せられ王都へと連れて行かれる俺。

連中のやり口に不満と怒りを覚えつつも、抵抗出来ない己の無力さに一番腹をたてながら……


そうこうしてるうちに、小高い丘を越え見えてきた大きな障壁。


『あれが……』


「はい。王都セントラルです。」




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




客人として迎えられたとは思えない程の待遇である。道中は手綱を持つ為に前で縛られていたが、今は後ろに腕が回ってる。

“丁重”とは何か、今一つ審議をしたい所だ。


そしてこのビビという女。

あの邪険なような、疑うかのような目はこれを意味していたのかと何となく察した。

王都を拠点としてるただの冒険者かと思いきや、王宮関係者だったとは……

騎士はもちろんの事、王宮にいる人間の肩には、王族に仕える人間という意味で皆王族の紋章が入っている。

ビビにはそれがない。だからこそ一般人だとばかり思っていたが……


『俺は何故連れて来られたんだ』


長い長い廊下を歩きながら、俺はビビに問うた。


「それは……直ぐにわかると思います。すみません。こんな形で連れて来る事になってしまって」


『…………』


色々思う事はあったが、とりあえず言わない。

言ったところで何も変わらない。嫌味を言ったところで帰れる訳でもない。むしろただでさえいい立場にいない自身の立場を更に追い込む結果になりかねない。


やがて大きな扉の前に連れて来られた。

「如何にも」って扉だ。ゲームで幾度となく見たような扉。謁見の間か。

それにしても……この街は“外”とは比べ物にならない程発展している。街は魔法に溢れている。

港も近くにあるのか交易も盛んのようだ。

全く胸糞悪い街だ。


高そうな重い扉が開かれると、奥には玉座があり、そこには一人の女が座っていた。

彼女こそ、この国を統べる者……


「遠路はるばるようこそ、クジョウ様。私はリコリスと申します。突然の呼び出し、不躾をお許しくださいね」


『全く、本当に』


姫の言葉にうっかり漏れた本音を聞かれていたようで、後ろから団長にどつかれた。


「良いのです。事実ですから、手荒な事はおやめ下さい。手枷も外して下さい」


「失礼致しました」


姫の言葉でようやく外された手枷。

数時間ぶりの自由にホッとしたのも束の間。本題にいこうじゃないか。


『それで、ご要件は?』


「まず、少し話を聞かせて欲しいのです。クジョウ様。あなたの事を」


『俺の事?』


「あなたは下位役職ヒーラーを名乗っているそうで」


『あー、はい(事実ですぞ)』


というか、そもそもEDENには役職というものがない。基本的に誰でもどのスキルを上げる事が出来る為、接近系を上げてる人はファイター、遠距離を上げてる人はアーチャー、魔法を上げてる人はマジシャン、回復魔法を上げてる人はヒーラーとわかりやすく言ってるだけでそういう役職という訳では無い。

この世界にはそれぞれ役職という物があるらしいが、詳しい事はまだ知らなかった。ヒーラーというものは確かにあるが、どうやら回復職の中では下位に当たるらしい。


知ったところで自分がどのレベルにあたるかわからないし、どのみちヒーラーを名乗っていた事に違いないが……


「ですが……ビビ、貴方が見たものは光魔法のレイン・ホーリーライトだったのですよね?」


「はい……本物を見たのも初めてで、見たと言っても一瞬でしたが……あのオークの背中から見えた光は、光魔法による攻撃の痕に間違いないかと。少なくとも、剣士スキルの物ではありませんでした」


『えー……』


しまった。適当に誤魔化す為に上位剣士スキルの〜と言ってしまった事が仇となったか。


「クジョウ様、その技を一体何処で習得されたのですか?」


『(クエスト受けて特定のスクロール集めれば覚えられますよ!……とも言えないし)』


どうしたものかと唸っていると……


「あなた……もしかして、伝説の三騎士の一人、賢者ハルマ様のご子息ですか?」


『……ハルマ?』


伝説の三騎士?賢者ハルマ?また知らない名前だ。

転移された世界は俺が慣れ親しんだEDENのゲームの世界のはなずなのに、俺が知ってる世界とは微妙に色んなことが異なる。

EDENのゲーム内に転移したと最初は思っていたが、EDENに似てる世界…それも未来のEDENに転移してしまった。というのが正しいか……


『(当然ながら……)ハルマとやらの子孫ではありません』


「ご子息ではないと…!?」「そんなバカな……!」と、周りの騎士達がざわめく。

そんな驚かれても、元のゲームではこんな技誰だって習得可能なスキルだ……だけど、察するに俺が使ったスキルは、どうやらまずかったらしい。こんな騒ぎになるとは……


「静かに。ハルマ様のご子息ではないのですね……。……それでも、お願いがあります。

実はこの宮殿の地下に、三騎士の一人リリィ様が封印されているのです。彼女の封印をあなたに解いて欲しいのです。」


『……俺なんかに解けるような封印ならいいですが……そもそも何故俺なのですか?』


「あなたは、月の女神 ルイーナの伝説をどれくらいご存知ですか?」


『人並み程度です……』


「わかりました。では順追って話しましょう……」




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



昔々、世界は度重なる争いや戦争の末、終末を迎えようとしていた。

滅びゆく運命の人間達を哀れに感じた月の女神 ルイーナは、世界に三つの加護を授けた。

一つ、豊かな自然。幾多の戦いにより死んだ大地を、その力によって蘇らせた。

二つ、聖なる水。汚染され尽くされた世界中の水を、綺麗なものに蘇らせた。

三つ、抱擁の風。吹き荒れる大地に、優しい風を再び呼び戻したのだ。


でも、女神 ルイーナの力を持ってしても叶わぬものがあった。

一つ、太陽の加護。これは対となる女神、太陽の女神の力がなくてはならない。

そしてもう一つ、それは人間の良心である。

これらの恩恵を受け、多くの人間はルイーナに感謝した。崇め、奉った。それを面白くないと思う人間もいた。

彼らはルイーナの力を自分達人間のものにしようと目論んだ。神殺しを企んだ。

彼らの意を察したルイーナは人間に絶望し、バルディアの地を去った。

神の加護がないこの大地は、魔獣の蔓延る世界となった。




✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




「――これが、一般的に聞く話だと思うのですが」


『ああ。俺が知ってるのはそのくらいですね』


「でもこの話にはあまり知られてない部分があるのです」


『!』


リコリスは続けた。


「月の女神 ルイーナは本当に人間が好きな神だったのです。彼女は三人の人間を自分の側近に置いたのです。

それが伝説の三騎士、ルイーナをお守りするルイーナの盾、聖騎士 ザク。ルイーナと人間の架け橋、審判者 リリィ。そして、ルイーナの理解者、賢者 ハルマの三人。

そして、ルイーナは人間に絶望していなくなったのではなく、何者かによって何処かに封印されてしまっているのです。

その時の戦いの最中ルイーナは、死にかけた三騎士を守ったのですが……見つかっているのは、リリィ様ただお一人。他の二人も同じように封印されている可能性が高いのですが……まだ見つかっていないのです」


驚いた。

あれ程進展のなかったルイーナの話がここに来て急に進んだ。

話を聞いて疑問もあるが、何より気になるのが……


『その封印を解くのが何故俺でないといけないのですか?』


「実は……この封印は女神ルイーナ、もしくは同じ三騎士の人間にしか解く術が今のところないのです……」


『いや、無理やんそれ』




無理やんそれ…………


何故俺に解けると思ったのか。

その三騎士と女神にしか解けない封印を、異世界から来た程度の俺にどうこう出来るとは到底思えないが……


『……俺では無理だと思いますよ?』


「それでも、お願いします。レイン・ホーリーライトは本来、賢者 ハルマ様にしか扱えなかった上位スキル……それを扱えるクジョウ様は、ハルマ様に近い存在かと……!」


『(その買いかぶりはヤバい。まじでこのスキルは誰にでも取れる物なのに……)』


後ろめたい気持ちも抱えつつ、とりあえず物を見ないことには何とも言えない。

『出来ない可能性が高い』事を念押し、俺は審判者 リリィが封印されているという地下へと案内された。

何人もの見張りがいる。

それほど重要な人間だという事がわかる。そして、見ず知らずの俺如きに助けを求める程、王都が追い詰められている事もわかった。

おとぎ話だろうと思っていたけれど、女神ルイーナがいなくなったことで、再び世界が滅びの危機にある。という話……恐らく事実なのだろう。

女神 ルイーナを探し出す手がかりとして、リリィに目覚めてもらわねばならないということか。


そして案内された部屋に、その人は居た。

巨大な水晶に身を包まれ、氷漬けになっているかのように、時が止まったまま眠るリリィが――



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