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王都へ

『――俺は……』


九条 (はじめ)でーす!何て、名乗る訳にもいかない。

この世界に飛ばされてから俺が名乗ってる名前は……


『クジョウだ』


――このゲームのマップに関してはある程度記憶にあった為、マップを見ずとも近くの町に移動する事は出来た。

この世界に召喚されて、とりあえず状況整理が必要だと思い村に来たのだが、本来のゲームではありえない程に何もかもがリアルになっていた。

定型文しか話さないはずのNPC達が普通に会話をしていて、まるでそこに“生きているかのよう”に動いている。

いや、もっと言うなれば、この人達は元のゲームのNPCとは全く違うのである。

店屋のおばちゃんが若いお兄ちゃんになってたり、鍛冶屋の可愛いお姉ちゃんはガチムチなガテン系おじさんになってたり、町はほぼほぼそのままだが中身がまるで別物なのだ。


加えてこの疲労感。ゲームの中ではどれだけ移動しようが当然だが全く問題なかったのに、あの石碑からこの町に来るまでにだいぶ時間もかかったうえに疲労感がある。これはゲームではありえなかった事だ。

とりあえず休もうと思い宿屋でチェックインする際に名前を聞かれ、キャラ名で答えればよかったのだが、周りのあまりのリアルさにうっかり『九条』を名乗ってしまった。

以降、訂正も面倒だった為『クジョウ』で通すことにしている。


「クジョウ様……ですか……」


ビビと名乗った彼女は何か考えてるのか黙り込んだ。


『大丈夫?』


「あ、はい。失礼しました。クジョウ様はどちらからいらしたのですか?」


『俺は近くのカグラ村に住んでる。ビビさんは?』


「私は王都からです」


【王都】……この国で一番どデカい街だ。

ゲームをしていた頃は拠点だったが、ここに来てからはまだ1度も行ったことはない。

この世界に来て日が浅い事も理由の1つだが……


『……顔色がよくない。俺の住む村で休んでいったらどうか』


「いえ、問題ありません。このまま王都に帰ります」


困った。

森を抜けるまでは付き添うにしても、こちらもあまり時間がないので急いで村に帰りたい。だが……


『では一緒に森を抜ける所まで行こうか』


「ありがとうございます」


この世界では外傷についてはほとんど治癒魔法で治す事が出来るが、それに伴う精神的な疲弊や、失ったモノを補填するといった部分まで治癒する訳ではない。

彼女の場合、血を多く失った事で貧血状態になりかけている。治癒魔法で輸血なんて事は出来ないし、このままでは道中倒れてしまうのではないかとも思う。

かと言って俺にもあまり時間はない。どうしたものか……


そうこう悩んでるうちに森を抜け、彼女は青白い顔のまま再度俺にお礼を言うと王都の方へ歩き出した。


『ちょっと待って』


あまりこういう干渉はしたくない。

今はまだ何もかも手探りで、自分の立場をどう扱って良いものか俺自身見定めてる途中だからだ。

でも、せっかく助けたのに途中倒れられても気分が悪いというもの。


『イージス・ディバインブレス・マジックシールド』


「!!」


念の為に少しだけビビに補助魔法を掛けておく。

ここから王都までは二時間程か。それくらいなら効果は持続するだろう。


『と、それからこれを』


応急用に持ち歩いていたポーションと、独自に作った栄養剤をビビに手渡した。


「これは……」


『えっと、出来れば王都まで送ってあげたいのは山々なんだけど、実は俺、カグラ村で薬師もしてて今患者が待ってるんだ。だから少しでも役立ててもらえたら……と……』


「…………」


ビビは腑に落ちないかのような、不審者を見るかのような目付きでこちらを見つめる。

いい事をしているハズなのに、この空気は一体何なのだ……。


『(何故そんな疑うような目で見るんだ……)』


『あ、ついでにこれも』


先日大量に集めたワタクサ草が余っていたので、3束程ビビに手渡した。


「……何から何まで……」


『いやいや……送れなくてすまない』


「とんでもありません。このご恩はいつか必ず返します」


ビビは深々とお辞儀をすると、ワタクサ草を抱えて帰って行った。

……とは言え、ビビが一人で無事王都まで帰れるのかは不安である。


『うーむ。あまり数はないがなぁ〜仕方ないかなぁ』


アイテムボックスを開き、俺は1枚のスクロールを取り出した。

これは元の世界で友人に作ってもらったスクロール。モンスターを一匹召喚し、一定時間使役する事が出来るものである。


『召喚・フェアリーウィスプ』


スクロールを使用すると、スクロールは燃え灰になった。灰から淡い桃色の光を放つモンスターが出現した。


『彼女に気づかれないよう付いて行き、何かあれば知らせてくれ』


ウィスプは俺の命令に応えるように発光した後、物凄い速さでビビの向かった方向へ飛んで行った。

これでとりあえず一先ずいいだろう。

早く村に戻らねば。あの爺さんは待たせるとうるさいんだよなぁ。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




無事王都に帰還したビビは真っ先に王室へと向かった。その理由はもちろん、あの「クジョウ」と名乗る男の事だ。

王室の扉を開くと、玉座に座る一人の女がいた。


「おかえりなさい、ビビ」


「はっ」


女の言葉に、ビビは平伏した。


「それで、わざわざ私を呼び立てる程の報告とは一体何かしら?」


「はい、実は――」


ビビは話した。

森で出会った、【ヒーラー】を名乗るクジョウという男の事を。


「……それはまさか……」


「彼なら解けるかもしれません。三騎士の一人、リリィ様の封印を――」


「そうね……可能性は何でも試すべきだわ。彼をすぐ、王都へ寄越すように手配しなさい」


「かしこまりました」




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




「――いやぁ先生の作る薬飲むようになってから、体の調子がいいんですよぉ」


『それはよかった』


魔法の治療に有効なのは主に外傷のものと、モンスターから受けた“状態異常”のみ。

生きてると必ず誰しもがかかる風邪をはじめとする“体調不良”については魔法で治癒する事は出来ない。

でも魔法が発展したこの世界に風邪薬なるものはかなり少ないうえに希少だった。

多くの人間は魔法が使えない。使える者の多くは王都に行ってしまったりで、王都の魔法による文化の発展に周りの小さな町や村はついていけていないのがこの世界の実態だった。


いくら元の世界で薬剤師と言えど、この世界の草花は元の世界の物とは全く違うし、ハッキリ言ってほとんど役にたたない。

だから一からまた勉強し直し、最近やっと少しずつ風邪薬に近い物が作れるようになったところだ。


『(……て、呑気な事してるが、ルイーナを探さないといけないんだよなぁ……。でもまるで手掛かりがない。町の人に聞いてもおとぎ話レベルの言い伝えしか話が聞けない。やっぱり王都に行くべきなのだろうか……)』


そう悩みもするのだが、この町の状態を見てるとどうしてもそれを躊躇してしまう。

“この”問題はこの町に限ったことではないし、俺一人いなくなったところで大きく支障が出る訳でも無いことはわかっているが……

短い間とは言え、自分を頼り訪れて来る人達、元気になってお礼を言ってくれる人達を見てると、情も移ってしまう。王都から見放されているかのような状態にあっても、それでも明るく逞しく生きる人達。

あの日、突然町に現れた俺を快く迎え入れ、親しんでくれるこの町の人達の恩義に泥を塗るような去り方をしたくはない。

そんな悠長な事を言っている場合ではないのだろうけど……

でも気になることもある。

この町の人達、皆元のゲームのNPC達とは全く違うが、その親子・兄弟・祖父母・親戚等、元の世界のゲームにいたNPC達の縁者なのである。

言うなれば、EDENの世界の未来とでも言うべきか。

偶然にしては当てはまりすぎだ。

これが意味する事は…………



考え事をしていると、外が何やら騒がしい。

何事かと思っていると、ドン!と勢いよく俺の家の扉が開かれた。


「クジョウ殿のご自宅はこちらか」


『……いきなり誰でしょうか』


偉そうな態度に、立派な鎧姿。腕に入ってる紋章は王都の、王族の紋章だ。でも何故、王宮の兵士がこんな所、俺なんかに会いに来たんだ?


「団長、どうか丁重に」


騎士達の間から出てきたのは小柄な少女……

数日前に森で助けたビビだった。


『ビビさん!?』


「こんにちは、クジョウ様。先日はありがとうございました」


…………いやいや、王都から来たとは聞いていたが、まさか王族関係者だったのか!?

面倒な相手にあれやこれやとしてしまったのか……

いや、仮にそれがわかってたとしても、あの場面で見捨てるという選択はなかったのだが……これは普通に面倒事になりそうな予感……


『まさか本当に恩返しに……?亀にしても鶴にしても数がかなり多……い、デスヨ?』


自分なりのジョークのつもりだったが、あまり通じてない。どういう意味か、と言った様子で流されてしまってくだらない事を言った事を後悔した。


「突然ですが、王都で姫がお待ちです。クジョウ様、一緒に来てもらいます」


『いや……無理ッス……』


「申し訳ありませんが、事は急を要します。拒否は聞き入れられません」


俺の拒否は聞き入れてもらえず、半ば強引に連行される事になった。

村の人達が「先生!」「先生を連れて行かないで下さい!」と、叫ぶその声を背に、抵抗しようとしたその時「大人しく付いてきて下さい。お願いします……」とビビは耳打ちをした。


その言葉で直感的に村の人が人質に取られてる事を察した。


『(これが……王都のやり方か……!!)』


腐っているとは薄々思っていたが、ここまでだとは思わなかった。

行き場のない怒りを抱えながら、不服にも俺は王都へと向かう事になってしまった。

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