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プロローグ


「(――ここまでか……)」


彼女は迫り来る死を覚悟した。

ズタボロになって出血も多い。もう走る気力も体力もない。ギルドからの依頼で薬草採取に来たが、この辺りではあまり見かけないクラスのオークと遭遇し戦闘となったが、結果は惨敗。必死に抵抗して逃げてきたが、それももう限界だった。

巨大オークの振りかざす棍棒が彼女目掛け振り下ろされる。

終わった。と、そう思ってギュッと目を閉じた。が……


ガン!!と棍棒が鉄か何かに当たって弾かれる音と同時に、響き渡るオークの鳴き声。

グオオオオオ!!と大きな雄叫びを上げながら崩れ落ちるオーク。そして――


『大丈夫か?』


倒れたオークの背後に立っていたのは、真っ白なロングコートを羽織った一人の青年だった。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




『ヒール』


そう唱えると、淡い金色の光が彼女を包むと、傷がみるみる癒えた。幸い骨折等はしていないようだ。


「あ、あの…ありがとうございます…」


彼女は眉にシワを寄せ、疑い深い眼差しをしながら礼を言った。


『いえいえ。ところでこのオーク、君、要る?』


出来ればこのオークは持ち帰りたい。オークはいい薬剤になるし高値が付きやすい。


「……構いません……と言うか、あなたが倒したモンスターですから…」


まぁそう言って頂けるなら有難い。これ程大きなオークなら皮を剥げば皮もそこそこな値段にもなる。使えない部分は少ない。食用にも武器防具加工にも薬にもなる。素晴らしい。


『依頼で倒しに来た訳じゃないんだ?』


「私は……ワタクサ草の採取に来てただけです」


『ふむ』


「それより私が気になってるのは……あなた、あのオークをどうやって倒したのですか?」


『(あちゃー)』


そりゃあそうだ。目の前で今にもオークに殺されかけてた人を見かけ、咄嗟に手を出してしまったが、剣士らしきジョブの彼女ですら手こずる相手に“俺が”一撃で倒してしまっていたら、そりゃあ警戒される。


だって俺は【ヒーラー】なのだから。


『あー…それは、たまたま露店で買った上位剣士のスキルのスクロールがあったのと、たまたま背後を取れたからたまたま倒せただけだよ』


「そんな貴重な物を見ず知らずの私を助ける為に使ったと?」


『見ず知らずでも、目の前で殺られかけてる人がいたら、君でなくても助けたよ』


「…………」


まぁおよそ事実だ。実際スクロールは持ってるし、背後取れたから楽だった事も、彼女じゃなくとも助けた事も事実。


「わかりました。助けて頂き本当にありがとうございます」


彼女はペコりと頭を下げ、改めて礼を言った。


「私、ビビです。お名前を伺ってもいいですか?」


『えっと俺は――』


俺の名前は九条 一。とある総合病院に勤めるただの薬剤師。

趣味はもっぱらネトゲ。仕事が終われば自宅に直行して、今流行りのVRMMORPGを寝落ちするまでやり込む。

その日もいつもの様にゲームしていたら、声が聞こえた。


「誰か、助けて下さい」


と……。

このゲームには隠しクエスト要素がかなり多く、その時は新しく実装されたマップで狩りをしていた時に聞こえた為、新クエストだと疑っていなかった。

声に誘われるまま移動した先には大きな石碑が在った。そして……


『あれ?まだクエスト拾ったことになってないのか。えーと、どうやってクエスト拾うのかな』


「!誰かいるのですか?!」


『はーい、いまーす。……んんー?何処にクエストポイントがあるのかわからんぞ……』


「お願いします!私のお願いを聞いてください!」


『あー、はい。聞きます。これでクエスト受注……されてないのか。なんだこれ?』


「私は月の女神 ルイーナ。私は今、ある場所に封印されてしまっているのです。どうか、私を見つけ出し助けて欲しいのです!このままでは世界が……バルディアが滅びてしまう…!!」


(月の女神?バルディア?国か?そんなマップないし、ルイーナって女神の名前も初めて聞いた。新マップの新しいシナリオか?でもそんな予告無かったような……)


色々思う事はあったものの、このゲームのシナリオクエストは経験値が美味しい。俺は経験値欲しさに特に疑う事もなく、深く考えもせずその願いを聞き入れてしまった。


「ありがとうございます…!!では私が今から貴方をこちら側に召喚します。召喚された後の世界では私の声を貴方に届ける術はありません……。心の準備が出来ましたら、石版に手を当てて下さい」


(召喚という事はここから隠しマップか、隠しダンジョンに通じるという事か。そこに飛べばそこにクエストポイントがあるという事か)


俺はルイーナの指示通り石版に手を当てた。

すると瞬く間に石版が光り、眩しさのあまり目を閉じた。

『明るすぎだろ!!』と運営に対する不満を思いながら、目を開けると……


『……は?』


何も変わってない。

何処にも移動していないではないか!!

……とにかく、まだ実装したての新マップだったし、未実装のクエストだった可能性がある。正式に出されたコンテンツではなかった為、クエストが進行しなかったというところか。


『とりあえず運営にメールしとくか。苦情込みで』


コンソールを開き、念の為クエストを確認するがやはり月の女神 ルイーナに関する物はない。ので、サポート画面を開き、運営への問い合わせページを開こうとしたが……


『あれ?』


いつもならメニュー画面の1番下にあるはずの【お問い合わせ】の項目が空白になっている。試しにクリックしてみるが反応はない。

おかしいと思い、一度ログアウトして入り直そうと思ったのだが……


ない!!


ログアウトボタンがない!!

設定ページは開くものの、肝心の中身が真っ白になっている。

ログアウトどころか、設定に関する項目も無くなっている。

バグか不具合によって発生したクエストを迂闊に触ったから起こった不具合だろうか。ならば強制終了(VRを外し、手動でゲームの電源を切る)するまでだ、とも思ったのだが……


『外せない……!?いや、俺がいない!?』


この場合、“いない”という表現は不適切だったかもしれない。でもそれ以外に表現出来なかった。

外そうにもリアルの感覚が“ない”のである。


《貴方をこちら側に召喚します》


女神 ルイーナの言葉を思い出した。

あの女神が言う「こちら側」とは、マップやダンジョンの類ではなく……


(まさか……!!ここは……!!)


俺が長年遊んできた、VRMMORPG EDENの世界だと言うのだろうか――



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